PHASE-958【弔う】

 まずは手堅く二対一で一体を倒す。

 

「楽勝!」

 コクリコの快活な声を背中で受ける。

 確かに最初は頑強な鱗に驚きもしたけど、脅威と呼べるほどではない。


 現状だと――、


「確かに楽勝だな」

 誰にも聞こえる事がないように小声での独白。

 ベルやゲッコーさんが発言を耳にしたら、怠慢だと言われるかもしれないからな。

 残りの一体が天井へと逃げ果せようとしていたところに、楽勝発言のコクリコが再びライトニングスネークをお見舞いしようとしたところで、


「ゲェェェェェェェ!!」

 不細工な蛙のような鳴き声を大きく上げる。

 鳴き声に呼応するように、闘技場へと繋がる通路からゴブリンゾンビが大量に出現。


「上位種として使役も出来るようだな」

 天井から鳴き声を再び上げれば、それに従うようにゴブリンゾンビ達が一斉に俺達に襲いかかってくる。

 通路での無秩序な突撃とは違い、編隊を組んでの翼包囲を仕掛けてくる。


「組んでいるのは驚きだけども――」

 残火を寝かせるように構えて、


「マスリリース!」

 横一文字を書く。

 刃から黄色い三日月が燐光を纏い、正面のゴブリンゾンビに向かって飛翔。

 触れたゴブリンゾンビ達の体を無惨に断ち切っていく。

 正面の隊列はマスリリースの一撃で大きく崩れる。


「負けられませんね! ポップフレア」

 翼包囲左翼の方へと赫々とした火球をコクリコが放つ。

 次には小爆発が発生し、爆発を中心として周辺のゴブリンゾンビも吹き飛ばされていく。

 ふふん♪ と、決まった事に上機嫌なのはいいが手を止めるな……。

 右翼はゲッコーさんが対応。ドラムマガジン装備のペーペーシャが火を噴いて一掃していく。


「プロテクション」

 左翼はポップフレア一発では勢いが止まらず、アビゲイルさんが相手の進行を止める壁を出してくれる。


「ダークフレイムピラー」

 護衛についているオムニガルがすかさずアビゲイルさんに追従。

 黒炎の柱がプロテクションの前で轟々と顕現。

 黒い柱が消滅すれば、そこにいたゴブリンゾンビ達も消滅。


「続こう」

 ベルが短く言えばレイピアに炎を纏わせ斬り上げる所作。

 炎の津波と比べれば範囲が限定された細波程度だが、細波程度でも俺の視点からだとチート。

 左翼側はその一振りで消滅した。


「本当に、ことわりの外にいるわね……」

 誰に対しても上から目線のリンも、ベルにだけはそれが出来ないようだ。


「はいどいて」

 ベルの力に驚くリンを余所にシャルナがゲッコーさんの掩護。

 フレイムアローの連射で右翼側のゴブリンゾンビの頭部を射抜いていく。


「ゲェェェェェ!」

 こちらの力に驚いているのか、不甲斐ない部下たちに憤りでも感じているのか、天井に張り付いて高みの見物を決め込んでいたスケイルマンが叫ぶ。


「叫んだところでもう増援はないんだな」

 こちらへと迫ってくる軍勢も手薄になってきたので、天井に向かって跳躍。

 二体目も俺が仕留めよう。

 

 接近は許さないとばかりに、欠損した舌と尾を使用して、直下のゴブリンゾンビ二体を巻き上げ、その二体を俺へと向かって投げつけてくる。

 

「部下は大事にしろよ」

 飛んでくる二体を斬獲し、ブレイズを纏わせて天井から地上へと逃げようとするスケイルマンに残火を横一文字で二度振る。

 頭部を斬り、刃をはすに移動させてから胴にも横一文字。

 端から見れば炎がZの文字を書いているように見えたかもしれない。

 

 着地すれば、俺の前に三つに分割された体も横たわる。

 残心の時には既にゴブリンゾンビ達も壊滅。

 周辺を警戒した後、亡骸に手を合わせる。

 地下闘技場での脅威の排除に成功。


「私達は強い!」

 手を合わせる俺と違ってぶれないコクリコは、ガイナ立ちで余裕発言。


「調子に乗らないことだ」

 しっかりとベルから拳骨をもらっていた。

 楽勝発言を小声で言って正解だったな。


「にしても行動が早い」

 二人のやり取りをスルーし、俺が斬ったスケイルマンの焦げた頭部を入念に調べ始めるゲッコーさん。


「うっ……」

 背後ではアビゲイルさんが今にも口から戻しそうになっている。

 ゴブリンゾンビを調べた事で少しは慣れたけど、人間の頭部となると俺も抵抗はある。


「羊皮紙の記載通りですか?」


「ああ。間違いなく人。いや――人だった存在だな」


「そうですか……」

 焦げた頭を転がすようにしつつ全体を見ての感想。

 この施設で人体も含めた生物実験が行われていたのは事実か。

 羊皮紙の記載は嘘であってほしかった。


「救いようのない狂気だ」

 怒りを纏ったベルの発言に首肯で返す。

 人を使って他の生物と合成。でもってアンデッドへと変貌させる。

 狂気を宿さないと出来ない実験だよ。


「同情はするけども、ここにいる生物は全て排除しないといけないな」


「それが弔いになる」

 俺に返すベルは先ほどと違い冷静な声音。カイメラに対する怒り以上に供養の思いが強いということだろう。

 ベルが言うように弔ってやることが、ここにいる連中に対しての唯一の救いだろうからな。

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