PHASE-280【威光執行完了】
ベルの宣言後にもう一度、野良さんに目を向ければ、表情は血の気の引いた青ざめたのを通り越して、白蝋で出来ているんですか? という言葉が似合うくらいに真っ白な肌になっていた。
ギルドには加わらず、自由を謳歌する荒くれた冒険者として活躍し、長年の戦いで日焼けした褐色の肌が、今では驚くくらいの白だ。
洗濯洗剤CMのビフォー・アフターとして起用したいくらいの、肌の色の変わりようだった。
ベルの逸話を知るが故に、態度を変えざるを得ないといったところだろう。
本当に、この野良さんには感謝している。問題を起こしたことで、それを餌として、ギルド内でも亜人に不満を持つであろう者たちにも、ベルの威光をぶつけることが出来たんだからな。
「頼むぜベル。お前に託す! 会頭として、俺も全力で協力するぜ。亜人をいじめるヤツは、ゴーレムだって一撃で粉砕する、第三帝国の凄いヤツでいじめ返してやる!」
便乗して俺も全体に圧を与える。
勇者と、従者の中で最強の存在の怒りを買ってはまずいとばかりに、一階はしじまに支配され、時折、皿なんかが奏でる音がする程度。
「委細承知した。偏見と差別を持ち、それによって力なき者たちを苦しめるというのならば、私は武力によって力を行使する者たちを叩きつぶす!」
再度の誓いを耳にすれば、しじまの中で、うつ伏せ気味だった全員が、揃ったように背筋を伸ばし、居住まいを正す。
対面する俺に向けてくる雷光を宿したエメラルドグリーンの瞳は、悪を許さない正義に漲っている。
漲っているが、怖いってのが正直な感想だよな。
「あの……お下げしますね……」
しじまの中で真っ先に口を開いたのは、落ち込んだコボルト。
野良さんの皿を引こうとすれば、
「ああ、い、いや。いいよ。ありがとう。ついでにふかし芋と塩を頼むよ」
ベルの威光は絶大。野良さんの態度が百八十度変わった。
コボルトに対してペコペコしている。
急に態度が変わったもんだからコボルトも戸惑っているが、自分が運んでも問題ないと分かれば、笑顔に変わって仕事をし始める。
ベルの威光と俺の発言で、潜在的に抱いていた亜人への偏見が、ギルドメンバーからも払拭されればいいけども。
現状だと力任せに黙らせるって選択だからな。効果は長続きはしないだろう。
この間にコボルト達との関係に対して、メンバー自らの考えを改めさせないと結局は解決とはならない。
俺みたいに別世界から来た人間からすれば、懸命に働くコボルト達を目にするだけで十分に信頼出来るんだけどね。
それが出来ないくらいに、亜人との衝突の歴史が長く続いているんだろうな。
双方の結束力、信頼関係を築き上げるきっかけがあればいいんだけどな。
――――おっと、そうだ。
「リリエッタ嬢」
「はい!」
呼べば、打てば響くとばかりに俺の元へと駆け寄ってくる。
素早いが、リリエッタ嬢の動作はカクカクとしてぎこちない。
ベルの威圧に当てられたこの場にいる皆さんは、緊張状態が持続している模様。
いいタイミングで悪役の立ち回りをしてくれた野良さんの食事代は、俺が支払うからと、リリエッタ嬢に伝える。
当人はそんなつもりは無かっただろうが、俺的にはありがたかったので、感謝の印だ。
「しかし――」
「ん、なんだ?」
座り直すベルがクランベリージュースを一口飲んで喉を潤し、じっと俺を見てくる。
なに!? なんなの? 怖いんですけど。
俺は怒られるのか? なんで? 怒られるような事をした覚えは無いんだけども。
真っ先に怒られるという考えが浮かぶ俺もなんだかな……。
普段から怒られるような事ばかりしているのが原因なんだけども。
「他者への細やかな配慮は見事だ。そしてよくコボルト達を救い出し、受け入れた」
あらやだ。怒られるどころか好感度アップですよ。
ぐんぐん上がってるんじゃないの? これチートと行動を共にしない冒険を達成すると、ベルの好感度が上がるってシステムなんですかね。
もう一回くらい頑張れば、チュー出来るイベントが発生するかな?
――……自分で思っといてなんだが、俺って本当に単純な童貞だな……。
なんでチュー出来るなんて考えが頭内を占めるんだろうな……。
どうしようもない童貞ですよ。俺は……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます