PHASE-281【敗北不可避の再戦の予定が入りました……】
「俺が目指すのは隔たりの無い世界だから」
と、頭の中では馬鹿なことしか考えていないが、口からはそれっぽいことを出す。
「うむ。良い志だ。崇高な思いには私は全力で協力するぞ」
童貞だから勘違いもしてしまうが、今はなんともいい雰囲気だと思うんだよね。
対面する美人はにこやかに笑みを湛えているし。
普段、俺に向けている時の目元なんてエッジの効いたものばかりだし。
徐々に蘇ってくる喧騒も、俺の耳には小さな音として届いてくる感覚。
それくらい対面するベルの笑みに集中しているんだろう。
「よし」
「なんだい?」
快活よくベルが立ち上がり、俺を見下ろす。
威圧は感じない。
だってずっと笑んでいるもの。
「どうした? 妙に声が跳ねているな」
明らかに好感度がアップしているこの雰囲気に、声が跳ねるのは仕方のないこと。
しかも何か意を決したようだし、俺としてはよしの後が気になるところ。
ベルよ、続きを聞かせてくれ。
買い物的な内容なら喜んで付き合うぞ。
「コクリコを倒した実力。この短期間で相当に強くなったようだな」
「あ? うん」
俺の思っているような内容じゃないようだな……。
好きってまでは望まないけどさ。忠誠心ゼロなわけだし。
でも、少なからず好意を抱いているって内容が口から出てくれれば、童貞の俺はそれだけで有頂天になれるんだけどな。
――……というか、なぜにコクリコ?
「試してやろう」
「…………」
出たよ……。帝国軍の中佐の部分が……。
「どうした?」
俺が欲しているのじゃないよ。俺が向けて欲しい笑んだ表情は、ゴロ太とかに見せる時の表情なんだよ。
デレッとしてる時のやつ。
キリッとしてる時のじゃない……。
付き合うってのがいい。
突き合うのは嫌……。
「どうせ勝てないし」
「ほう……」
あ、なんか声が暗くなった。
俺のヘタレ発言に不満な様子。
ギャルゲーだと間違いなく、好感度の落ちる残念な音が流れているところだろう。
「戦う前から負ける事を考える愚か者なのか? お前は」
あれ? 燃える闘魂のプロレスラーみたいな発言ですね。
俺、ビンタされるの?
――……まあ、いつもされてるけど……。
「確かに挑むことは大事だけど。確実に勝てない相手は避けるのも兵法だろう」
「発言は正しい」
だろ。
「が――――、男としてどうなのだ?」
「ぬう……」
それを言うのは卑怯だろう。
ここで拒めば急転直下の好感度
「私にも成長を見せてもいいだろう」
面倒見のいい軍人め! 女として面倒見がいいなら最高だろうに。
だがしかし、勝てないにしても、ここで一生懸命に頑張れば好感度は間違いなく上がるだろう。
ベルは頑張る人には優しいからな。
「――――おっしゃ! やったるわい!」
「今度は胸ばかり見ないことだな」
「あ、はい……」
善処はします。無理かもしれませんがね。まあ、無理だろうけど。
体に沿った白い軍服から弾けだしそうな胸が、躍動するのを見るなと言うのが難しい。
隙あらばガン見だ! ガン見!
――――ん? なんだ、喧騒が蘇ってきたと思ったら、随分とざわつきはじめてきたじゃないか。
皆の声には興奮が混ざっている。
見渡せば、一階にいる全員と言っていいくらい、俺と視線が合う。
期待に充ち満ちた視線。
そして側にいる者同士で語らい合う。
話し合っている内容は、【おい、会頭と風紀委員長がやり合うぞ】や【また激突か】【楽しみだな】【賭を開催しないとな】etc.
なんちゃってなトップと、実力は間違いなくこの世界で最強の存在が、再び武により相見える――――。
荒くれ冒険者たちは滾るんだろう。こういうイベントが。
俺としては風紀委員長がすでに定着している事に驚きを禁じえないよ。
そんな役職を俺は認めたつもりはない。
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