PHASE-279【最強からの宣言】
人と亜人が共同で使用する一階だからこそ、コボルト達には頑張って働いてもらいたい。
偏見を受けることも分かっていたけど、あえてやってもらいたかった。
ギルドメンバーは俺が発した指示を受け入れて、現状を受け入れてはいるけども、内心ではよく思っていない面子もいるだろう。
エルフやドワーフと違って、外見が違いすぎるからな。
野良の人の反応に対して、止めに入ろうとせず、腰が重いのがいい証拠だ。
だからこそ、この状況は俺にとってありがたい。
「まったく」
偏見による言いがかりに対して、ベルが柳眉を逆立てる。
モフモフ大好きな中佐様には聞き捨てならない発言だ。
ゴロ太やコボルト達と店を経営しようとする店主だから余計だろう。
それもあるから、ここでコボルト達には接客の練習もさせておきたいってのも考えにはある。
「いいから人間に持ってこさせろ!」
「はい……」
喧騒の中でよく響く怒鳴り声よりも、力ないコボルトの返事の方がよく聞こえるってのも、哀愁に拍車をかけるね。
野良さんの発言に、俺たちから離れた位置で食事休憩を取っていたギムロンの目が据わっているのが分かる。
人間と亜人の間にある差別意識は、自分の種族に累が及んでいなくとも嫌なようだな。
流石はギムロン。漢だぜ。
今にも椅子を蹴り倒して立ち上がりそうな勢い。ここで悶着を起こされても困る。
腰が重いだけの者もいれば、ギムロンのようにとびきり正義感を持っているのもいる。
ギムロンと同じように、行動に出ようとしているのもちらほら。
だが、一階に会頭である俺がいるのに、なぜ動かないのか? とも考えているようで、状況を窺うといったところ。
その思慮深さ、本当に好き。
「とまあ、あんな感じでコボルト達は外見から偏見を受けるんだよね」
「どこの世界でも変わらないな。人間は自分より下の者を作りだし、それを見る事で優位を保とうとする。賢者を認め、仰ぎ見るという事が出来る者は希有だ……」
語末に進むほどにベルの声は弱々しいものに変わる。
ゲーム内の設定だと、プロニアス帝国は
現実の歴史に似せた描写があるのは設定集で読んだ。
プレイ前に俺は死んだから詳しくは分からないが、他民族に対して差別、偏見、暴力が横行していたのかもしれないし、それに対して止めることの出来なかった自分への葛藤が、ベルの声音からは窺える。
「ああいうのは嫌いだよな」
拇指を立てて野良さんに向ければ、
「無論だ!」
と、強い語気で返ってきた。
流石はベルだ。ゲーム内では非道なポジションである帝国の中でも、
やはりこの状況を託せるのはベルだけだな。
本人も受け入れると言ってくれてたし、ここは大々的に宣言をしてもらわないとな。
俺は煽るため、不安を纏わせた暗い声音で語り出す、
「このまま偏見と差別の状態が続いたら、子コボルト達もいじめに遭う可能性が――」
「その様な事が許されるものか!」
バンッとテーブルを叩いて矢庭に立てば、喧騒だった周囲は嘘のように静まりかえる。
先ほどコボルトにきつく当たっていた野良さんもビックリして、目がこぼれ落ちるんじゃないかとばかりに大きく見開きこちらを見る。
モフモフ大好きなベルの怒気は凄まじく、立ち上がればキラキラと輝く白い髪は、噴き出した怒りを体現するかのように躍動する。
ベルの現状を目にした面々は、最強の存在の怒りを直視できないようで、揃ったように皆してテーブルと見つめ合う。
その様は、教師の独断と偏見で、学級委員を決める時と似た光景だ。
とにかく目を合わさないようにするってやつだ。
「こういう世界だから偏見があっても仕方ないんだろうけど。出来ればベルには風紀委員だけでなく、人と風体が違う亜人達を守るために、直接の上役になってもらいたいんだよ。昨日はそこらへんを詳しく話せなかったから~」
大体がダイヒレンによる混乱のせいで――――。
コボルトだけでなく、今後、別の種族との出会いもあるかもしれない。
その為のも、亜人の統括には最強の存在の後ろ盾が欲しい。
これを一階にいる全員に聞かせるように、大声で言葉尻を伸ばしながら俺は言う。
チラリと先ほどの野良さんを目にすれば、ベルの武勇伝はしっかりと耳にしているようで、先ほどまでの怒りの表情が引きつったものに変わっていた。
次ぎにベルが発するであろう言葉で、どう態度が変わるか見物である。
「任せてもらおう! このベルヴェット・アポロ。亜人達を我が麾下に加えることとする。我が麾下になるということは、我が庇護の元で活動するという事。亜人達への侮辱は、プロニアス帝国ラドリア方面軍中佐であるこの私への侮辱。侮辱する存在は全て灰燼と変えてくれる!」
うん……。今は炎つかえないじゃん。というツッコミはするまいよ。
口にすれば、炎は使えないけど、怒りが俺に飛び火しそうだからな。
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