PHASE-1325【標的は多ければ多いほど嬉しいようだ】
「さて――」
地面へと着地してから、
「へ~。拝むんだね」
「まあな。弔ってやる時間は無いけどな」
命を奪った連中に手を合わせつつ、ヤヤラッタの前に戦ったカクエン達にも本当は手を合わせたかったと述べれば、敵なのにとミルモンは何とも不思議そうにしていた。
そんなミルモンに対してシャルナはいつものことだからと、簡単に説明してくれる。
命を奪いに来た連中で、尚且つこの世界の人間なんかを滅ぼそうとしている連中なのに――と、ミルモンは余計に不思議がっていた。
実際、傍から見ればそう思って当然だよな。
命の奪い合いに一々と後悔しているようなもんだし。
それなら最初から戦いの場に立つな。とも思われるかもしれん。
でもこういった事をしなくなった時、本当に俺は命を軽んじてしまう存在になってしまいそうで、それを回避したいという思いからの行為でもある。
弔う行為をやめてしまえば、それこそ敵対する魔王軍の連中――とくに
「戒めとしてもやってるんだ」
と、一言、俺からもミルモンに伝えると、
「へ~。まあ兄ちゃんがそうしたいなら別にいいんじゃない」
あまり関心がないような声音での返しだった。
関心がないのはミルモンが小悪魔という存在でもあるからだろうな。
相手の負の感情を体で受け止める事で悦に入るようなところもあるし。
俺の行動に否定的じゃないだけでもいいのかもな。
――。
「全員そろったな」
「お待たせしました。しかし――短時間でやるもやったりですね」
合流してのコクリコの開口一番は、周囲を見渡してからの感想。
「ここからが本番のようですね」
カクエンと違う亡骸。しかしカクエンと同様の装備のオーク達の存在から悟るコクリコ。
「オーク……ですな。本当に魔王軍がこの森にいるとは……」
懸命に走ってきたのか、乱れた呼吸のパロンズ氏。
グレーターデーモンのヤヤラッタにミノタウロスを目にはしたけども、カクエン達とは違う集団を目にすることで、更に現実を叩き付けられたということなんだろう。
「で、トールも馬鹿ではないですからね。ここでコイツ等を全滅させるなんて愚行はしてませんよね?」
「当然だ。っていうか言い方!」
「褒めているのですよ」
「まったくそうは思わないけどな。連中、奥側から響いた指笛を耳にしてから巧みに撤退していったよ」
「ならば、その撤退方向も問題なく見ていますよね?」
俺が返そうとしたけども、スカウトであるシャルナが自分の食指を伸ばしている方角に進めば問題ないと代弁してくれる。
でもって土地勘のあるパロンズ氏からの助言だと、この辺りはエルウルドの森の中央に位置するとのこと。
中央を拠点にしている魔王軍がいるから、空飛ぶ巨大ムカデ――アジャイルセンチピードが縄張りを追われて森の外側へと追いやられたわけだ。
「迷い無く進めるのならば問題なし!」
一段隆起した部分に、岸壁に佇むマドロスのように片足を乗せて、目的地である方角を琥珀の瞳にて睨みつつ発せば、
「ド派手に乗り込んでやりましょう!」
と、継いだ。
この場所で俺とシャルナが大立ち回りをしたことに刺激されたようで、今度は自分が大車輪の活躍をしてやろうと意気込んでいる。
その証拠とばかりに、
「二人は休憩していてください」
なんて言いながら、パロンズ氏の背嚢を弄ってポーションを取り出し、俺とシャルナに投げ渡してくれる。
ここでも有りがたくいただく。
今回はコクリコの奢りで自分のを消費しなくていいな――と、思ってしまう辺り、コクリコよりもしわい精神の持ち主なのかもしれないな――俺。
ミルモンは何もしてないからと、俺にだけ勧めてくれる。
一気に呷る中で、
「撤退指示が出たということから、相手側は拠点で待ち構えられるだけの態勢が整ったと考えていいでしょうね」
「まあな。だからこそ大手ではなく搦手で攻めないとな」
「そんな馬鹿な」
俺の搦手発言にコクリコは納得いかないご様子。
ド派手に乗り込んでやると言うだけあって、正面から堂々と攻め込みたいと意気込むコクリコ。
どう考えても大多数を相手にしないといけないのに、策も弄さずに正面からという考え方は如何にもコクリコらしい。
「さっきの
「その三倍以上は控えていると考えるべきかと……」
俺の発言に応じるパロンズ氏の声は重い。
「でしょうね」
百は超えると考えとかないとな。
七人で百を相手にするなんて現実的ではない。
コクリコは多ければ多いほどやり甲斐あると嬉々としているけども、反面パロンズ氏は酒を飲んでいる時よりも豪快な音で唾を飲み込んでいる。
対照的な二人の姿を目にしつつ、いざとなったらベルやゲッコーさん達をこの場に喚ばないと。という事を頭の隅に留めておく。
――隅に留めるという思考が真っ先に浮かんだことに俺自身が驚いてしまう。
直ぐさま強者に頼ろう。という思考が薄れてきているということだからな。
それだけ俺自身が強くなっていると自負してもいいだろう。
でもって、頼れる味方達が目の前にいるというのも俺の自負を強めてくれている。
もしかしたらコクリコも俺達に対して似たような感情を持ってくれているから、正面切って戦ってやるなんて言い切ることが出来るのだろうか?
「百を超える魔王軍ですか……」
反面、実戦経験が少ないからか、パロンズ氏の不安が伝播したようにコルレオンの声音は弱気。
「なにを言っているのですかコルレオン」
嬉々としたコクリコはコルレオンの肩にポンと手を置いて、
「カクエンもいるのですから標的はもっと増えますよ」
――……まったくもってコクリコはぶれないよな……。
脅威ではなく標的と言えるところが本当に頼りになるってもんだ。
聞かされるコルレオンは空笑いでしか返せないけども。
弱くはあるんだけど、初戦ではヤヤラッタの存在があってか、戦わなくても撤退をするということをしなかった。
有利な状況に少しでも変われば、掌を返すかのように戦意高揚する単純さも油断できなかったりするしな。
数の有利性と魔王軍の監視下におかれれば、嫌が応にも戦おうという考えに支配される事になるだろう。
単純であるが故に面倒な相手でもある。
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