PHASE-1324【横文字】
「がぇ!?」
刀身に留まる風が、俺の発言に従うように姿を変えていく。
無数の風の刃となれば、振るったマラ・ケニタルを中心としてオークを半包囲するように風の刃が放たれ、その体をズタズタとしていった。
自慢の炎の障壁も、ルーン文字により魔力が宿ったマラ・ケニタルによって容易く両断することができた。
炎の障壁が弱々しく消滅していくさまは、オークの命の灯火を思わせる。
炎が完全に消滅するのと同時に術者も事切れ、樹上から落下。
「十体長がやられた!」
俺が命を奪ったオークの落下する姿に、周囲の兵達が慌てふためく。
十体長か――。こっちサイドの十人長の魔王軍バージョンってところかな。
十体の兵士を束ねる存在って事だろう。
前線の部隊長クラスの平均が今倒したオークとすれば、このクラスとの戦闘はこちらにとって難しい相手ではない。
鍛え抜かれた現在の王都兵なら、集団戦法による戦い方じゃなくても、このくらいの相手なら一対一でも問題ない面子もいるだろう。
まあ冒険者なんかと違って集団戦法で戦うだろうから、まず間違いなくこの程度のレベルには苦戦しないだろうな。
そういった考えを巡らせる中、
「ウインドスラッシュの変化型は二度目で成功したようだね」
「おう。我が愛弟子から賜ったマラ・ケニタルに刻まれた風の加護であるルーン文字のお陰で、強力な技を習得できた」
火龍の力が封じられ、それをタリスマンによって引き出す残火と違い、俺個人の力の向上がそのまま反映されるマラ・ケニタルから発動するってのがネックではあるけど、発動が可能となれば俺の成長の証でもあるから嬉しくもある。
自爆時と違い、二度目はイメージをすることで自分に風の刃がくることもなかったからな。
思い描いたとおりに相手だけを包囲するように斬る事が出来た。
ウインドスラッシュをマラ・ケニタルのルーン文字により強化派生させた新技。
技名はヤヤラッタの発言から拝借。
分隊規模による同時斬撃に見立てたことで、スクワッドリーパーと名付けさせてもらった。
残火の技名と違って、マラ・ケニタルは横文字の技名で統一しようかな。
――中、遠距離タイプのウインドスラッシュと違って、離れた相手に攻撃は不可能だけども、接近戦でウインドスラッシュと同程度の威力からなる複数の風の刃による斬撃は、非常に強力な攻撃だった。
更に精進して技を昇華させていけば、刃の数をもっと増やすことも可能となるだろう。
スクワッドからプラトゥーン、カンパニー、バタリオンと名前も発展させていきたいね。
「どんどん強くなっていくよね」
「皆が俺を支えてくれるし、導いてくれるからな」
「謙虚で宜しい」
「とまあ、こうやって談笑できるくらいの隙を見せているんだけど、攻めてこないのは怖じ気づいたからか?」
「だとしたら降伏してこの大陸の為に励むという選択も与えてあげるけど。どうするの?」
二人して問えば、
「なめた事を! 十体長の一人を倒したくらいで何とも強気だな」
「その十体長ってのが俺に倒されて驚いていたのはお宅等なんだけども」
口端を上げつつ挑発的な発言をするも、相手は怖じ気づくことはなく、むしろ戦闘継続の意思を構えにて伝えてくる。
流石は
「ここで撤退をしないのは練度の高さもだろうけど、十体長クラスがまだこの中にいるから、継戦力を保っていられるんだろうね」
「シャルナの読みは正しいかもな。さっきの大刀使いみたいに、ワンオフ武器を持ってるのがちらほら見える」
「だったらどうするの?」
「降伏もせず挑んでくるなら倒すだけだな」
意気込みと共に再び二刀持ちで構える。
俺の言動で相手側がビクリと体を震わせているのが確認できた。
多数の相手をしている時に、少数の俺達が場を支配するという状態は非常に大事。
――俺が前衛。シャルナが掩護という編制を取ろうとしたところで、ピィィィィィ――。と、甲高い音が響く。
「鏑矢?」
「指笛だと思うよ。増援かな?」
「いや――撤退だな」
眼前の連中は指笛が響き渡れば、それと同時に下がっていく。
それに合わせて殿が下がっていく。
隙をつきにくい上手い撤退を見せてきた。
「やるね。話だけで聞く
「馬鹿凸思考とはまた違った動きだよな。大方、軍監役であるグレーターデーモンのヤヤラッタが軍の鍛練とかもしているのかもな」
オーク達にとって不得手であろう樹上での戦闘だったけど、終始、その樹上で戦ったわけだから、この森での戦い方なんかも最低限訓練しているんだろうな。
反面、カクエン達の練度は間に合っていなかったようだけど。
俺が同じ立場でも、即戦力になる連中の練度に重きをおくだろうけどさ。
「それで――どうするの?」
「追いたいけども――」
「だよね」
指笛による合図で撤退を指示したって事は、後方において態勢が整ったというのを意味していると考えるべきだろう。
ここでの戦闘はこちらが勝利したけど、相手の態勢が整ったとなれば、この場を突破できずに足止めをさせられた俺達は、戦術的に一歩およばなかったと素直に受け入れないといけない。
カクエン戦だけでなく、その後のグレーターに、ここでのオーク達を相手にしても苦戦と呼べるようなことはなく対処できたけども、追撃は避けておこう。
俺は勇者という立ち位置だけど、臆病でもあるからな。
これ以上の追走は勇猛ではなく蛮勇なだけ。
二人――ミルモンも含めて三人での追走はここまでにしておこう。
目の前に功績があろうとも、欲に駆られて手痛い目に遭う危険を冒すことなく、自分を律して留まることが出来る事が重要でもあるわけだし。
「連中、真っ直ぐに下がっているよな」
「間違いなく」
ビジョンを使用している俺の目よりも信頼できるシャルナの碧い双眸に頼れば、ミルモンが指さしていた方角へと下がっているということだった。
ミルモンが指し示す方向にあいつ等の拠点があるという事になる。
つまりは、その拠点が俺達の目的地にもなるって事なんだな。
「森の中で活動している巨人や生物を探すだけでよかったんだけどな」
カクエンだけでなく、魔王軍との戦いが含まれるのは面倒なことだよ。
「これは間違いなく大規模な戦闘に突入だね!」
面倒事が御免な俺とは違って、目を輝かせて意気込むミルモン。
「拠点となると早々に移動ってのはないだろうからな。こっちも後方の面々との合流待ちだな」
「相手が整えるならこっちも同様に。って事だね兄ちゃん」
「そういう事」
「よっし! 兄ちゃんみたいに戦うぞ~♪」
本当……、好戦的な可愛い小悪魔だよ。
先ほどまでの戦闘を俺の左肩で見ていたミルモンは、多数の兵達に恐れることなく戦い続ける俺の姿に大層、感動してくれたようだ。
戦闘中は常に俺を見入っていたとのこと。
どおりで静かだったわけだ。
尊敬されるのはこそばゆくもあり嬉しくもあるけど。
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