PHASE-1323【成功させたい】

「兄ちゃん! 魔法を唱えようとしてる!」

 左側からの警告。

 前衛の合間を縫うように攻撃魔法にて俺を仕留めようとしているようだけども、


「マスリリース!」

 左手に握るマラ・ケニタルでの横一文字で光刃を放てば、魔法を放とうとする者と、その前で俺に接近戦を仕掛けようとしてきたオークを同時に断ち切る2in1。

 マスリリースの威力は手にする利器に左右されるけども、俺の手にする二振りはこの世界において最高峰。

 範囲は狭いけど威力だけなら大魔法にだって負けないと思う。

 

 容易く体を断つマスリリースの威力に、囲んでいる者達の足取りは途端に鈍くなる。

 鈍くなれば、こちらの後方からは必中の矢が相手に飛んでいくわけだ。

 それでも後退せずに挑んでくるところはカクエン達とは違うといったところか。


 ――ひたすらに攻めてくる相手を斬り屠っていく――。

 なんとも命の軽いことだよ……。

 自分で奪っておいてなんだけどさ。

 ここだけで、すでに二十を超える命を奪った。

 惨状を目にして後退してほしいとも思うけど、ここでコイツ等を見逃し、この森から出ることにでもなれば、この大陸の人々に累が及ぶのは確実。


「じゃあ、全てをヤルしかないんだよな」

 躊躇を打ち消して、ひたすらに脅威対象だからと自分に暗示をかけるようにして斬り殺していく。


「無茶してない?」


「しないと生き残れないからな――この大陸に住む人々が」


「そうだよね」

 俺達を囲むだけの余力はもうないようで、少し距離を取りつつ攻撃を仕掛けてくる蹂躙王ベヘモトの兵達。

 マスリリースと習得したばかりのウインドスラッシュ。これに俺を心配し、言葉を掛けてくれるシャルナによる必中の射術も相まって、相手は攻めあぐねているといったところ。

 散発的な行動へと移行していくオーク達。

 こちらにもゆとりが生まれる反面、コイツ等と長く戦えばそれだけ逃げていったヤヤラッタ達に態勢を整えるだけの時間を与える事にもなるので、出来るだけ手早く突破したいのも事実。


「もっとこっちから攻めようか?」


「じゃあ俺が前に出る」


「私も出るよ」

 父親であるルミナングスさんから貰った弓の本領発揮とばかりに、末弭と本弭からフォールディングタイプのミスリル製の刃を展開させて弭槍へとすれば、


「お先」

 一言そう言えば、疾風の如くシャルナが動く。

 なんで内の女性陣はこうも前に出たがるのか……。

 遠距離からの戦闘から急な接近戦へと変われば相手は大慌て。

 しかし弓に長けたエルフが接近戦を仕掛けてくれば、こちらに分があると思ったのか、接近戦に応じようと動くオーク達。


「たりゃ!」

 珍しいシャルナの接近戦。

 上端の末弭部分の槍による一振りで鎧ごとオークの命を奪い、下端の本弭にある槍でその隣のオークを一突き。

 瞬時に二人の命を奪う。

 命を奪う中でシャルナに迫るオーク達を隙だらけの側面から俺が仕留める。

 で、ここでシャルナより前に出て、後方に下がらせる。


「コイツ等……」


「なんなんだ!?」

 迎撃に来た蹂躙王ベヘモトの軍勢だったが、二人を相手に遠距離と接近戦の両方で押されてしまい、半数を失ったところで俺達に戦き始める。


 半数を失う自分たちに対して、敵である俺たち三人は無傷の状態だからな。

 このまま戦っても分が悪いというのは相手も理解しているようで、俺と視線が合う一人がロングソードを構えて挑もうと強気な姿勢を見せようとはしてくるけど、残念ながら腰が引けていた。

 それでも自分を奮い立たせるように、


「ウォォォォォォォオ!」

 裂帛の気合いにて枝を蹴り、こちらへと躍りかかってくる。


「ウインドランス」

 風による槍が飛んでくれば、跳躍した存在の腹部に突き刺さり、着地点に足をつけることは出来ず、くの字になって吹き飛ばされる。

 俺に接近を試みてもシャルナによって阻害される。

 ならば援護担当のエルフを狙う! となれば、俺が接近戦で仕掛ける。

 半数を失った事でどう立ち回ればいいのかと若干の混乱状態へと陥っていた。


「気分が良いよ」

 と、ミルモンが言う辺り、迎撃部隊は負の感情に支配された者が多いようだ。


「気圧されるな!」


「ん?」


「人間ごときが!」

 全体を収拾し、戦意高揚とばかりに一人が俺へと攻めてくる。

 木々を遮蔽物にしながら距離を詰めてくる素早い動きは、周囲の連中とは違う。

 シャルナの射撃への対策をしながら接近してくれば、


「死ねい!」


「お断り」

 こちらへと接近してきた存在が俺へと振り下ろしてくるのは、刃幅と重量のある大刀。

 樹上移動において少しでも視野を広げての移動をしたいのか、大刀使いは面頬を上げて仕掛けてきた。

 他の面子と同じようにオークだが、顔には大きな刀傷があり、歴戦の猛者だというのが伝わってくる。

 回避すれば、立て続けに渾身の振りを繰り出してくる。

 大リーガーの如きフルスイング。残火の鎬で防ぎつつ、相手の力を利用して後方の枝へと移動する。


「木の上で器用なオークだな」


「き、貴様も大概だな」

 他よりはやり手のようだけども、会話を交わせば声は上擦っていた。

 それでも懸命に大刀によるフルスイングを続けてくる。

 これも躱せば幹に刃が食い込むも、力任せに振り抜いてみせる。


「樵に転職した方がいいんじゃないの?」


「お前達の大地を荒らし回った後にでも考えてやる」


「絶対に叶わない――叶えさせてやらねえ」

 一足飛びで愛刀の間合いへと入り斬りかかれば、


「イグニース」


「おん!?」

 よく耳にする――というか口にする炎の障壁魔法が俺の前へと現れる。

 そして俺の二連撃を防いできた。


「やるじゃねえか」

 火龍の籠手に埋め込まれたタリスマンありきで使用する俺と違って、地力で使用するんだからな。

 左腕側にスクトゥムサイズを顕現させ、それを前面に出しながら俺へと迫ってくる。


「今度こそ仕留めてやるぞ人間!」

 こちらの二連撃を防いだからって途端に強気だな。

 イグニースの発動には些か驚かされたし、地力で発動できていない俺は情けなくもあるけど。

 だがこの地でウインドスラッシュの習得と、マラ・ケニタルを併用しての新技も生み出せそうになっている。

 

 ヤヤラッタの時は自爆もしたけど――、


「お宅で成功させたいね」

 対峙する相手に聞こえない程度の独白と共に残火を鞘へと収め、マラ・ケニタルだけを諸手で握る。

 刀身には風の加護が刻まれたルーン文字。

 そのルーン文字へと念じるように――、


「風を纏え」

 と、発せば、目視できるほどの密度からなる風が、マラ・ケニタルの刀身を守るように留まる。


「その頭を叩き割ってくれる!」


「丁重に断るよ」

 炎の障壁に守られながら正面から堂々とした足取りのオーク。

 ヤヤラッタのプロテクションに対して斬った時は、無計画に振ったことが自爆の原因。

 斬撃時に風を解き放つ時は、相手にだけ向けるというイメージを心がける。

 そうすることでヤヤラッタが言っていた、数人に同時に斬りかかられたと思う攻撃を成功させる事が出来る――と、信じたい。

 

 ――数人で同時に斬る――か。


「真っ二つだ! 人間!」

 足場の悪い樹上であっても強い踏み込みが出来るオーク。

 そのオークが振り下ろしてくる大刀よりも一手早く、諸手で握るマラ・ケニタルを振り下ろす。

 狙うはオークの攻めに転じた自信となっている障壁魔法のイグニースへ――。


「スクワッドリーパー!」

 と、発しながら。

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