PHASE-1322【マリーシア】

「追いつきそうだよ」


「練度の低い連中には過ぎた装備だったな」

 体を守ってくれている鎧兜が仇となっている。

 武具を装備しての移動ってのは不慣れなようで、スタミナ切れを起こしてきたのか、カクエン達との距離は縮まっており、前方からは喘鳴が聞こえてくる。


「コイツ等の逃走する先にある拠点が、本陣ってことになるんだろうな」


「ちなみにだけど、ミルモンが指し示した方角になるよ」


「そうなんだな」

 やっぱ凄いな。

 戦闘で動き回っていたから、俺は目的地の方角なんてすでに分かっていなかったよ。

 シャルナはこの鬱蒼とした――しかも初めて足を踏み入れた森の中でも方角を見失わないんだからな。

 樹上移動だけでなく、方向感覚も神がかっているな。


 でもってコレに加えて、


「魔法!」

 警告をしてくれながらもプロテクション。

 ベルとゲッコーさんに比べると薄れてしまうけども、俺と比べれば圧倒的な察知能力も持ってんだよな。

 総じてハイスペックなのがシャルナ。


「迎撃!」

 と、追われる側の前方からよく通る声。

 これに合わせて多彩な魔法をこちらへと放ってくる。

 様々な攻撃魔法に対し、シャルナのプロテクションだけでなく、俺もイグニースを展開して対応。

 シャルナと自分を守るように展開し、足を止めればカクエン達は反転することなくそのまま去っていく。


「所詮は脆弱な猿共だ」

 と、侮蔑の声を発するのは迎撃と発した存在と同様の声。


「待ち伏せの連中のようだね」


「いや、迎撃って言ってる時点で待ち伏せの可能性は低いと思うぞ」


「あ、そっか」

 伏せていたのなら、こちらの背後や包囲できる位置まで誘い込んでから急襲するってのがセオリーだろうからな。

 正面からの時点で緊急的な展開だろう。

 だとしても、素早く迎撃態勢を整えてくる辺り、


「さっきまでとは違って脅威だよね」


「間違いなくな」

 グレーターデーモンのヤヤラッタに、ミノタウロスという魔王軍の存在をこの目にした時点で、このエルウルドの森には魔王軍の脅威が残置兵みたいな立ち位置で留まっているのが分かる。

 で、現地兵としてカクエンを支配下に置いていたわけだ。

 練度の低さからして、カクエン達の指導に手を回せるだけの余力がないということは窺えるが、目の前のはそのカクエン達と比べれば強さは別格のようだ。


「バッハー!」

 迎撃にて俺達を前にした一人が威圧のための声をあげてくる。

 装備はカクエン達と同じ物。面頬をわざわざ上げての威圧の声の主はオークだった。


「テンション的にはオイラがビビらせた牛頭に似てるね」


「そうだね。直ぐに魔王軍の中でも蹂躙王ベヘモトの配下っていうのが分かるよね……」


「まったくだ」

 左肩で立つミルモンの的を射た発言に、シャルナと俺は首肯しつつ続く。


「随分となめた侵入をしてきたという話だったが、たったの二人で追撃とは馬鹿も極まりだな」

 素顔を見せるオークがそう発して哄笑すれば、後方の連中も大音声の笑い。

 中には女エルフがいるということに大喜び。

 長い時間、楽しませてもらおう。と、カクエン達と同様の下品な発言をしているところも蹂躙王ベヘモトの配下ってところだな……。


 下品な発言を笹の葉のような耳に入れる事になったシャルナは嘆息を行いつつも矢を番え――放つ。


 ――当然ながら見事に命中。


 こちらに顔を見せていたオークの眼窩を貫き、箆の深い刺さり具合から脳まで達しているであろう鏃により、即死といったところだろう。

 力なく地面へと落ちていった。

 カクエン達と発言も似ているけども、初手のやられかたも似たようなもんだな……。


 コクリコかシャルナかの違いなだけだ……。


「脅威度が上がっても所詮はって感じだね」

 馬鹿にしたようなシャルナに、


「お見事なワンショットワンキル」

 と、称賛する俺。


「無駄に矢を消耗したくないから全員、面頬を上げてほしいよね。眼窩を射抜いてあげるのに」


「倒した後に回収しようぜ」


「え~」

 なんとも嫌そうな声を出しつつも、シャルナが次の矢を放つと同時に俺は枝を蹴る。

 逃げるカクエンとは違って、こちらへと挑んでくる蹂躙王ベヘモトの兵に対して一気に距離を詰める。

 最初に狙いを定めた相手の側では、面頬の隙間を通り抜けて矢が刺さる光景。眼窩じゃなくても隙間があれば問題なしのシャルナの射術。


 兜から矢を生やしたまま地面へと落下する姿に意識を奪われたのが運の尽きだな。

 狙いを定めた相手に対して残火を振って命を奪う。


「人間風情が!」


「そんな風に思っている時点で知れてるな。人間なめんなよ」

 三方向から俺へと同時に攻めてくる相手に対して二振りの愛刀で二人を仕留め、残りは瞥見するだけ。

 俺が仕留めなくてもシャルナの矢が対処してくれる。


「エルフめ! 徹底的に体も精神もボロボロにしてやる!」


「飽きるまで抱いてやろう!」


「抱くなら死を抱けってやつだよ」

 残火、マラ・ケニタルの二振りにて斬獲。

 コイツ等の上役であろうミノタウロスがアレだったからな。脅威となる存在とは考えても、対処が難しい連中ではない。


 ――オークからなる蹂躙王ベヘモトの手勢を次々と斬り屠っていく。


「クソッ! コイツ等……強いぞ!」

 高揚感を与えてくれるような発言じゃないか。

 まあいつもの事ながらそういった発言に悦に入る事なく、調子に乗らずに目の前の脅威に、適切に対応していくけどね。


 この一年で、一対多の戦いの経験を積めたことはありがたい。

 囲まれることになっても、同時に攻撃を受けないように相手のタイミングをずらすようにこちらから距離を詰めたり、離れたりのフットワークで翻弄することで、同時攻撃をさせないだけのスキルは得ている。

 こういった動きは経験からしか得る事が出来ないからね。

 でもって、同時攻撃の足並みを乱して一人一人を確実に倒していくことで相手の包囲を解いていく。


 斬って、突いて、蹴って、捌いて、籠手で防ぎ、障壁で防ぐ。

 こういった行動を繰り返していくことで俺の周囲の敵対者たちは力なく落下していく。


 ――そう、落下していく。


 戦いってのは何処で戦闘をするかも重要だ。

 樹上での戦闘となれば横に太い体を持つオーク達では、カクエン達とは比べものにならないくらいに動きが鈍い。

 対してこちらはエルフの国で樹上移動を経験しているし、シャルナに至っては絶対領域みたいなもの。

 

 迎撃態勢を急遽敷くことになったからこそ、こちらに戦いの場を合わせないといけなくなったんだろうけどな。

 整ってきたら樹上に最低限を残し、隆起しつつも枝よりも安定する地面に移動して、遠距離から攻撃してくるんだろうな。

 

 そういった事を少しでも遅らせるために、こちらは接近戦で一気に決めたい。

 加えて、コイツ等を突破しようという動きを見せれば、それを許したくないようで、俺達と同じ視線の高さに留まろうとする。

 なので突破するようなフェイントを利用し、俺達にとって有利な樹上での戦闘を相手に強いる。

 こういったマリーシアの才能も、一年間の戦闘経験で培ってきたものだ。

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