PHASE-208【覚えられるなら起き上がろう
「しゃっきっとしてくださいよ! 会頭でしょうが!」
「後で頑張るから。ていうかなんだよ、俺に構ってほしいのか? 未だに王都では人見知りが凄いもんな」
「う、うるさいですよ」
図星だね。
「二人しかいないのではっきりと言いますが、人見知りは正解です。だからトールに構ってあげているんですが、私にはもう一つの考えがあります」
「なんだ? 構ってあげてもらわなくてもいいけど、聞いてやる」
「私が色々とトールに伝授してポイントを稼ぎ、早いところこの認識票の色を変えたいんですよ」
本音が出たな。
こういう事をストレートに聞かされるとイラッともするが、俺にはない堂々とした強いメンタル発言は、羨ましかったりする。
「勇者でありギルド会頭でもあるトールに師事したとなれば、評価は高いでしょうからね」
「くあ~」
あくびをしながらソファの背もたれの方に顔を向ける。
「ぬうう……」
きっと恨めしそうに俺の背中を睨んでいるんだろうな。
今まで対魔王軍でさんざん動き回ったからな。
頑張るとは思っていても、体が【You最近、無理してるよ。休んじゃいなよ♪】って、伝えているような気がするんだよね~。
「なぜピリアを習得しないんですか? 勿体ない」
「勿体ない?」
どう覚えりゃいいんだよ。
大魔法のスプリームフォールは使えるのに、ネイコスのノービスであるファイヤーボールが未だに使えない勇者様だぞ。
コクリコでさえ使えるノービス魔法なのに。
だからピリアも習得できねえだろって事だよ。
「とりあえず、お前の得意なファイヤーボールのコツを教えてくれ」
「ノービスとか馬鹿にしているくせに」
ついさっきも心底で馬鹿にしたけども。
「だって俺、大魔法しか使えないから。
寝返りをもう一回。
コクリコを見上げる俺は、口角を上げながら口を開いた。
「チッ」
と、舌打ちが返ってきた。
「いや俺はね。基礎こそが奥義へと続く道だと考えてるんだけど、中々うまくいかんのよ。こう見えて、皆に隠れて初歩の練習をしてたりするんだよ。でも出来ないんだよな。大魔法が使えて、ノービスが使えないのって恥ずかしいよね」
「大魔法が使えるのは、体が感覚を掴んでいるからでしょうね」
苦々しく言うね。
でも謎だ。いきなり声が聞こえてきて、それから使えるようになったんだから。
「お前、以前マナとは会話できないって言ったよな」
「ええ」
「でも、俺の時は話しかけてきたぞ」
「妙な話です」
ふむん――――。
「お! そうか!」
「なんです?」
「俺って選ばれし存在だから、きっとマナが語りかけてきたんだよ。俺ってスペシャルだからな。お前とちがって本当のスペシャルだから」
「言ってて恥ずかしくないですか」
「うるせえ! お前だって恥ずかしい事を恥ずかしげもなくやってるだろうが!」
捏造自伝とかよ。平然と虚偽の活躍を記する図太さは、羞恥心の欠片もない存在がする事だぞ。
「私は普段から恥ずかしい言動はしてま――――」
言い終える前にくわっと目を見開く俺。
眼球が転げ落ちるかというくらいに見開いてからの――、
「我はダークサイドに傾倒せし存在」
「やめろぅ!」
「てめコラ!」
寝ているところに躍りかかってきやがって――――!
「「……ふぅふぅ…………」」
とっくみあいの末、何とか払いのけることに成功した。
「中々やるようになりましたね」
「ふっ。異世界が俺を強くした。見ろこの俺の姿を。俺は未だ寝ている。俺を起き上がらせるほどの強者はいないものか」
「強者なら強者らしくピリアの初歩くらい覚えればいいでしょう。魔法が使えるということは、基本のピリアなら習得できますよ」
「マジで!」
「ようやく起きましたね」
そんな事実を知らなかったからな!
使えることに越したことはない。俺個人が強くなれるんなら、跳び上がってでも起きるさ。
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