PHASE-207【今日だけを頑張れない俺】
「しばらくは王都にいるのだろう」
ベルの質問。
「ワックさん」
と、俺たちのやり取りを静観していたワックさんに問う。
「火龍の鱗なんて僕も初めて手にするから、じっくりと調べさせていただきたい」
「もちろん」
最高の武具が出来るなら待ちますとも。
「てなことで、しばらくは王都だな」
「うむ。私は今後
とか言って、ゴロ太と遊びたいだけだな。
明るい声音で下心が丸わかりだよ。中佐。
「出来る事なら、ベルはギルドメンバーや王都兵に指導もしてほしいけどね」
「無論だ。それは全うする」
「俺がやっても人気なんて無いからな……」
ここで、影のあるもの言いをするゲッコーさん。
フォローばかりしてもらって申し訳ないが、その発言に対して、俺はどうフォローしたらいいのでしょうか……。
ちょっと考えてから――、
「特殊な戦闘に興味のあるハンターやスカウトには受けがいいと思いますよ」
「集まってくれればいいけどな……」
言ってみたもののこの返し……。
この落ち込みっぷりは本物だな。
ベルとの格差を本気で気にしてんだな。
ゲッコーさんには優秀な人材を育ててもらいたい。
暗部みたいなのをね。
となると、新たな職業で忍者とか作らないとな。密偵や斥候のスペシャリスト部隊を組織してもらいたいね。
先生のことである、影で行動してくれる人材もきっと欲するだろう。
情報収集こそが戦いにおいて大事だからな。
「よっしゃ! 俺も頑張るぞ」
大魔法が使える。火龍を救った。ボスクラスを倒したという実績!
といっても、ベルやゲッコーさんがいなかったらどうにもなっていないという金メッキ。
メッキが剥がれても恥ずかしくないように、俺個人の実力をもっと向上させねば!
なんでや! って返してはいたが、階級で例えれば、黒色だというのは自分が一番理解している。
現在のレベルは37とそこそこ高いが、これは戦果評価でのレベルだ。実力はまだまだだ。
気合いを入れないと!
明日から頑張るぞ!
「変な方向に励むなよ」
「おうよ……」
折角、向上心を持って励もうと思っていたのに、ベルってばそんなに俺が信用できないかね……。
俺がベルの立ち位置なら――――、俺の事なんて信用しないな……。
とにかく励む。勇者としても会頭としても頑張るし、ショッキングピンク街の建設にハーレム。でもって異世界のヒュー・ヘフナーも目指す!
「いいかげんトールはピリアの方は覚えましたか?」
「んにゃ」
昨日、気合いを入れていたコクリコが、胸元に真新しい認識票をぶら下げている。
先生の仕事は早かった。次の日にはサンプルが――、などと昨日は思っていたが、あの後すぐに持ってきたからね。
現在、認識票は先生の査定の元で、滞りなくメンバーに適正色が配付されている。
目の前の黒色級の認識票には、彫金でコクリコの名前が彫られている。
先生が見せてくれたサンプルを見る限り、黒色の認識票の名前部分は、
「なんでお前のは金色で仕立てられているの?」
「一応、差別化はしてもらいたいので」
ほう、調子に乗ってますな。
昨日は応接室を強い足取りで退出したから、さぞクエストを頑張って階級を上げている努力をしているのかと思えば、こんな事に力を注いでいたとは。
強く言いたいが、正直、俺の実力はコクリコとどっこいどっこい。
――……と、思っていたい。
接近戦ではやられているから、ベルが言うように俺の方が弱いと思われるが、そこは受け入れたくないのでどっこいどっこいでお願いします。
「やる気あるんですか?」
「あるよ」
「その恰好からは説得力がありません」
まあ現在、応接室のソファに横になって腹を掻き掻きしてるからね。
目の前のテーブルに、せんべいと渋いお茶があれば最高のシチュエーションだ。
お茶とせんべいは無くても、紅茶とスコーンはあるけどね。
「ずずず――」
「まったく器用ですね。横になったまま紅茶を飲んだり――」
「モグモグ――」
あえて擬音を口にする俺氏。
「スコーンを食べたり! 器用というかはしたないですよ。子供だってそんな食べ方はしません!」
「まあね」
皮肉なんて通用しないぜ。
日本にいた時のダメダメ時は、いつもこんな恰好で動画を見てたからな。
いや~我ながらだらけると、どこまでもだらけるよな。
昨日は頑張るとか誓ったのにこれですわ。
明日から頑張るって発言をする人間はダメだって、漫画で言ってたのを思い出したわ。
明日がんばるってヤツは、明日になっても同じことを言うからな。
今日を頑張らないと明日は来ないか……。
班長さんの台詞が骨身に染みるね。
ま、スコーンを食べるのはやめないけどな。
いつもだったら頑張るんだけど、ベルがゴロ太とイチャイチャしたり、ギルドメンバーや王都兵を鍛えてるから、俺が注意を受けないんだよね~。
ワックさんも、火龍の鱗で装備を作るのは人生初だからって事で、色々と準備を調えたいそうだし~。当面、俺専用の装備も出来ないようだからモチベーションも上がらないし~。
俺、責任転嫁もいいところ。
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