PHASE-206【月刊か週刊か】

「んん!」

 階級制も決まったことだし、座ったまま伸びをすると、背中からコキコキと小気味のいい音。


「なにをリラックスしている」

 じっとベルが俺を見る。


「なに?」


「お前が一番、階級を気にしないといけないだろう」


「なんでや!」


「お前はコクリコより弱いだろう」


「なんでや!」


「ふざけているのか?」

 ズイッと身を乗り出して睨まないでよ……。


「すみませんでした」


「まあいい」

 ちゃんと席に戻ってくれた。


「お前は接近戦ではコクリコより弱い」


「そうかな?」


「実際、やられている」


「あれは油断だから」


「ほう?」

 だから睨まないで。

 ゲッコーさんに掩護を求めるために視線を向けるも、俺とは目を合わせてくれない。

 巻き込むなって事ですかね?

 シャルナとコクリコの風紀委員を俺からゲッコーさんに標的として向けさせた以前の経験を活かしてますね。


「油断か?」


「おう」


「戦いの最中に油断しているのは弱い証拠だろう。だから急所を殴られるのだ」

 ――……言い返せねえよ……。


「だが、ベルよ」

 と、ここでゲッコーさんがようやく口を開いてくれる。

 なんだかんだで助けてくれるナイスガイ。

 継いで、


「ギルドの会頭が黒色級となれば、威厳がない」


「元々、無いではないですか」

 本人を前にさ、抉るような発言は本当によくないよ……。

 現代っ子はね、そんな風に言われるとね、やる気がなくなるからね。

 ギヤマンハートの持ち主なんだから。将来は、引き籠もりの自宅警備員に就職することになるよ。

 賃金なんて出ない職ですよ。

 親からの配給だけが生きがいになってしまうよ。

 そんな風になってもいいんですか!


「なんだ? なにか言いたいことでもあるのか?」


「別に……」

 まあ、もしうちの親がベルみたいなら、俺が自宅警備員になることは百パーないけどね。

 反論すれば、正論と共に、ドメスティックバイオレンスの日々が就職するまで続くだろうから。


「威厳が無くとも、会頭には別物を与えないといけないだろう」


「そうでしょうか」

 そうですよ!

 ゲッコーさんの掩護を受けて立ち上がる俺。


「トップが必ずしも下の者より腕が立つってかぎらないじゃん。強いヤツがトップってわけでもないでしょ。世の中は」


「ああ。だが、上に立つ者は膂力が無くても、膂力のある者より政治などに特化していればいいのだ。お前はそれが当てはまるのか?」

 ぷぅぅぅぅぅぅん……。

 にんじんが嫌いなパイロットの台詞で、【特徴がないのが特徴】ってあるんだけどさ。俺ってそれが凄く似合うような気がする……。

 THE・器用貧乏。

 

 現状、俺の実力では器用って単語を使用するのもおこがましいかな……。

 となれば、ただの貧乏じゃねえか……。


「どうなんだ?」


「はい。俺は皆さんの力を借りないとなにも出来ないミジンコです」


「そこまで卑下しなくてもいいのだが……」

 流石のベルも、落ち込んだ俺のミジンコ発言を耳にすれば、追い込みすぎたと思ったご様子。

 やれやれと、眉尻を下げて、困ったとばかりに頬を掻く仕草。


「自分の短所が分かっていて、且つ、それを認めることが出来る人間は、反面、相手の長所を見抜く力を持っている。会頭としてはその眼識があれば十分だ」

 ゲッコーさんは要所要所で俺をフォローして、話をまとめてくれるので助かります。


「ゲッコー殿がそう言うのであればいいのですが、あまり調子づいたことは考えるなよ」

 それは俺にいかがわしい店を建てるなと、暗に釘を刺しているのかな?


 ――――お断りだ。

 隙を見て必ず経営してやるのだ!

 綺麗でスタイルのいいお姉さんたちをはべらせるんだ。


 そうだ! 本も発行しよう。

 女性のヌードを掲載した本を出す。

 ゲッコーさんのゲーム世界内の技術があれば、本も作れるはず。

 貨幣が流通し始めたら、カラーヌードの本を出す!

 増刷につぐ増刷だな!


 ワイが異世界のヒュー・ヘフナーじゃい!


「真面目にやれよ」


「はい……」

 鋭い声とエメラルドグリーンの瞳によるセットで威圧を受ける……。

 完全に俺の考えを理解していたご様子。

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