PHASE-209【物理耐性強化】

「で――、簡単なのか?」

 問えば鷹揚な頷き。

 

 ネイコスは大気中のマナを使用するからコントロールには技量が必要だが、ピリアはマナを呼吸と共に体内へと入れることで、大気中のマナよりもコントロールが容易だという。


「といっても基礎だけです。やはり奥義クラスになると、体内に取り込んだマナであるピリアを爆発的な力に変換するには、相当の修練が必要になりますからね」


「ところでさ」


「なんでしょう」


「ピリアの基礎は難しくないとか言ってるけども、コクリコは使えるのかよ」


「もちろん」


「ほ~」

 使ったところ見たことないぞ。お得意の嘘か?


「――――なんて思ってますか」

 ――……怖い。俺の心を読まれている。


「いいでしょう。疑われるのも心外なので、このロードウィザードが見せてあげましょう。そしてトールは、私に師事を! と、頭を下げる事になるのでしょうね」


「…………」


「おい! なんで再び横になる! 起きなさい!」


 


 ――――無理矢理に起こされた俺は、なんちゃらウィザードの指示に従って、ギルドハウスの外で待機。

 

 で、見上げてから、


「ここでいいのか?」

 俺の部屋のバルコニーに向かって声を発せば、


「問題ないです」

 コクリコが顔を見せる。


「おい危ないぞ。無茶すんなよ」

 顔を見せたと思ったら、手すりへヒョイと立つ。

 

 軽業師のような動きは感心するが、危なっかしくて見てるこっちが慌ててしまう。

 

 三階建ての三階のバルコニー。一階が食事処兼酒場や受付などもあり、開放的にする為に天井は二階や三階よりも高い。

 なので、三階のバルコニーは、高さにして九、十メートルはあるだろう。

 落ちたら下手すれば死がまって――――、


「行きますよ~」

 軽い語調の一言で、あのお馬鹿がなにをしようとしているのか理解は出来た。


「ばっ!」

 ――かやろう。と、続きが出なくなるほど、言葉を失っていた。


 動かせるのは目だけだ。

 黄色と黒の二色からなるローブをはためかせつつ、お馬鹿が華麗に両足で着地という無茶っぷり。

 受け身すらとらない。

 ――……怪我は……、無いようだな。


 安堵と同時に、


「あいた!?」

 拳骨を見舞ってやった。


「毎度、高いところから飛び降りやがって!」

 ミズーリの甲板から港にも飛び降りたことがあったな。破天荒すぎるぞ!


「何をするんですか!」


「危ないだろうが! 拳骨はしつけだ」


「危ないわけないでしょう。これがピリアの力です」


「ん?」

 なにか使用していたのか?

 頭をさすりつつ、琥珀色の瞳が俺を睨んでくるけども。


「高いところから普通に飛び降りれば、受け身も取らないで着地の時点で大怪我以上の運命ですよ」

 ちゃんとそこは分かっているんだな。


 コイツは高いところから着地する時は、今回のように両足で綺麗な着地をしてたな。その度に怪我も骨折もしない。

 まあ例外だが、ホブゴブリンの軍勢との戦闘時に、ベルがバルコニーよりも高い位置にある壁上から飛び降りて、何事も無く着地したのを思い出した。

 あいつの場合はチートで解決するんだけどな。

 

 だが目の前のコクリコは、チートで解決する存在じゃない。


「ピリアの力って事みたいだから、衝撃を緩和したり、物理耐性強化的な力と考えていいのか?」


「するどいですね」

 まあな。昨今の多くてややこしい、スキル設定RPG世代だからな。


「これはトールが最後に発した、物理耐性強化のピリアで、タフネスといいます」


「タフネス――――。被弾でぶれまくって撃ち勝てない時、PERK2にセットしたい名前だな」


「トールは時々、頭がおかしくなる時がありますよね」


「お前が知らないことを口にされたからって、頭おかしいとか言わないでくれる。言ってなんだけど、そういう返しをされると、すげー恥ずかしいんだぞ!」

 タフネスってネーミングもまんまな効果だな。覚えやすくはあるが。


「でも、拳骨は痛がるんだな」


「着地と同時に解除してましたからね! 殴られるのが分かっていたなら解除してませんよ!」

 ほうほう、能力向上と解除は自在のようだな。

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