PHASE-1661【NGワードだったかな?】
「どうです皆様。グランドウェーブからかろうじて生き延びる事が出来た賊も、この毒霧によって確実に死を迎えます!」
発言時の表情よ……。
命を奪うという行為に興奮しているようで、見開いた目とつり上がった口角からなる顔は気味が悪かった。
初対面時とは違った形相。
こっちの姿が素の状態なのかな?
「素晴らしいぞ! コイツに引かれたキャビンから見下ろす風景は、さぞ気持ちのいいものだろう!」
「その通りですシミット殿!」
ステータスを刺激する存在に、成金代表のポジションであるシミットのおっさんは大喜び。
ムアーも称賛を受けてご満悦だ。
自分たちが創造した生物が褒められることに心底、喜ぶことから、自分たちの開発技術に並々ならぬ自信があるというのが窺える。
そらネポリスなんかでやばい事をやっていた連中だからな。
今までの実験で培ってきたデータによって生み出したであろう生物が褒められれば、気持ちもよくなるってもんだろう。
内情を知っている俺やベルからすれば反吐が出るけど。
「にしてもデカい鶏だな」
フェンタジー世界でデカい蛇は分かる。
デッカいワームに空飛ぶムカデとも戦った事があるから長くてデカいのは想像できるけども、鶏までデカいのがいるなんてな。
ヒッポグリフもいるけどさ。
「家畜として育てれば食糧難も解決できそうだな」
「あれは筋肉が筋張っていて臭いもきついです。とてもじゃないが食料には適しておりません」
騎鳥隊隊長は伊達ではないようで、バジリスクではないと分かれば、あの合成獣の元になっている生物を理解したようだ。
「獰猛で扱いづらくもあります」
老公も分かったご様子。
「バジリスク・イミテイトなるその生物の元となっているのは、ヒュージルースターかな?」
俺の疑問を代わりに老公が問うてくれれば、ムアーは「はい」と返してくる。
「獰猛で扱いに困る生物を飼い主の指示に従わせるとはな。この部分だけでも称賛ではなく絶賛を送りたい」
言いながら老公は現在、衆目を浴びる存在に拍手。
これに会場内の面々も続き、喝采も浴びせる。
「あ、有り難うございます!」
ムアーだけでなく白衣の連中は恍惚とした表情となった。
こいつら褒めちぎられるのがよほど嬉しいようだ。
特にロイル領において力を持つ素封家の老公から称えられれば嬉しくもなるんだろう。
そういった事に飢えているようにも見える。
ムアーは喜びのあまり、今まで以上に饒舌となり、ヒュージルースターという大きな鶏と、トランクヴァイパーという大蛇を合成して創造したということを教えてくれる。
大蛇であるトランクヴァイパーの毒性を利用しての中位魔法ポイズンミストは、大蛇部分のまだら模様にマジックカーヴを刻み、グランドウェーブ用のマジックカーヴは脚鱗に刻んでいるそうだ。
蛇腹のような脚鱗からなる下肢。
その部分にマジックカーヴを施す事で目立たないようにしているといった拘りを述べる。
一日の発動は片方の下肢で四回。両方で計八回。
同数のポイズンミストを含めれば、十二回の攻撃魔法が使用可能だという。
それだけ発動できれば賊に襲われても問題はないな。
魔法が発動できなくても――
トサカから尾までの長さは十メートルを優に超える。
巨体と尾自体も強力な武器だ。
だがしかし、
「肝心な事が抜けているのではないかな?」
俺が引っかかった部分に老公も引っかかったようだ。
魔法発動の種明かしはしてくれたが、
「肝心な部分とはなんでしょうか? システトル様」
「君たちが生み出したのは分かった。だがその元として使用する生物はどちらも獰猛だ。人に従順になるということはないし、危険生物でもあるから冒険者などを除いて接近自体が許されていない」
「左様でございます」
「どうやって手なずけたのかな? 創造する時、主に従順になるという技術でも確立しているのだろうか?」
「流石はシステトル様。目の付け所が違います」
「知りたいものだね」
「――申し訳ございません」
深々と頭を下げるムアー。
体を起こしてから、
「いくらこの地にて力を有するムートン家のシステトル様であっても、その事だけはお教えすることは出来ません」
「そうか。ならばこれが王陛下となればどうかな? 魔王軍との戦いを考えれば欲する技術だと思われる」
「冗談ではない!」
「んんっ!?」
怒髪天。
ムアーの感情の高ぶりに流石の老公も背を反らせて驚いている。
王陛下という発言からのあの態度。
「強い負の感情だったよ。瞬時に吹き出したね」
と、雑嚢から頭だけを出してミルモンが恍惚とした表情。
かなりの怒り、憎悪ってのを抱いているようだ。
「こ、これは!? 大変、失礼な対応を!」
はたとなったムアー。
急いで頭を下げる。
額を床にこすりつけての土下座スタイルだった。
「そ、そこまでしなくてもいい……」
あまりの変貌ぶりに、老公も上擦った声にて返すので精一杯だった。
「我々が注力しているのはこの地です。王陛下は連戦連勝の勇者一行がついております。ここに注力することだけしか出来ない自分たちの不甲斐なさに腹立たしさを覚えてしまい、つい声が荒くなってしまいました……。システトル様に対しての不遜どうかお許しを!」
言えばムアーの周囲に立つ白衣連中が集まり、同様の土下座スタイルを見せてくる。
私兵達は仰々しい謝罪の所作についていけず、渋面となって眺めていた。
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