PHASE-1660【実演販売】
バジリスクと聞いて俺が有する知識だと、爬虫類だったり、鳥と爬虫類が混ざっていたりするもの。
目の前のは後者タイプだ。
あと特徴的と言えば――、
「石化能力とかかな?」
「ご存じではないですか」
正解だったようだ。
「しかし、バジリスクといえば幻獣だ。おいそれと人に従うことはないだろうし、そもそも目にするのも難しい」
「その通りです老公」
二人が語る内容からして、幻獣種であるバジリスクがこんな場所で、しかも箱の中で大人しく待機しているということは考えられないようだな。
「よしよしよし」
大きなトサカのついた頭を下げ、ムアーに好きなように撫でさせる。
とても大人しく、主に忠実というその行動。
幻獣種では絆がなければ出来ないことだろう。
しかし、なんというか――、
「覇気――強者としての風格がない」
独白。
今まで出会ってきた強者にモンスター。そういった者達から伝わってくる肌を粟立たせる威厳がない。
先生が乗るヒッポグリフ。
エンドリュー候が有する竜騎兵のワイバーンたちから伝わってくる畏敬がないんだよな。
「オルトの言うとおりだな」
ベルもそう思ってくれたようだ。
この感じは――、
「オルトロスモドキこと、アップ命名のシグルズのようだ」
「ちゃんとジークフリートとバルムンクも加えてほしいな」
――……そうだったな。
全体名がシグルズで、二つある頭――茶毛がジークフリートで、ダルメシアンがバルムンクと呼んでいたな。
ややこしくて完全に忘れていた。
「とにかく、幻獣であるオルトロスに似せたのと同じ雰囲気だ」
「そうだな」
――つまりは目の前のは幻獣バジリスクではないと思われる。
「凄いぞムアー!」
俺たちサイドとは違って、豪華な服装の成金組は違った感想。
舞が始まる前に詰め寄った金持ち連中の中心人物と思われるおっさんが再び声高となる。
今回は称賛からくるもの。
「まさかバジリスク――幻獣を目にする事が出来るとは! しかも手なずけている。素晴らしい!」
「有り難うございます。ですがシミット殿。この子はバジリスクではございません」
「なに?」
そこは虚言で幻獣バジリスクとして紹介はしないんだな。
「この子は我々が創造したバジリスクをモデルにした合成獣です」
――確定だな。
合成獣って言葉が出た時点で確定だ。
十中八九が十全になった。
この製造所の連中がカイメラだ。
製造所の責任者であるムアー。コイツがカイメラの中心人物の一人と判断していいだろう。
魔大陸で合成獣マンティコアのチコとの出会いから始まって、カリオネルが俺たちとの戦闘に投入してきた合成獣たち。
で、目の前のバジリスクモドキ。
――ようやくご対面だな。
随分と出会うのに時間がかかったよ。
俺の凝視に気づくこともなく、ムアーは成金代表のシミットなるおっさんに説明を続ける。
上機嫌であり饒舌だ。
本物のバジリスクと騙して売るなどということはせず、自分たちが生み出した合成獣として売ろうとするところから、自分たちの創造する力というのに確固たる自信があるってことなんだろう。
――一通りの説明が終わる。
俺はモドキと名前の最後につけていたけども、このバジリスクモドキはバジリスク・イミテイトと名付けているとのこと。
本物の幻獣であるバジリスクと違って石化能力はないそうだけども、ないからこそ飼い主にも扱いやすいというのがセールスポイントのようだ。
誤って主が石化に陥るという事がないのが利点なのだそうだ。
幻獣バジリスクの特徴である石化能力はないそうだが、
「少し力をみせてやりなさい」
デモンストレーションとばかりに、
「グランドウェーブ!」
大仰に手を前方へと出しながら発するムアー。
向ける手はバジリスク・イミテイトが先ほどまで入っていた箱が積まれた荷車。
バジリスク・イミテイトは発言に従い、
発生するのは限定的に床が揺れるという現象。
荷車の下方が波のように大きくうねって激しく揺れれば、箱が落ちる。
その後、安定性のある四輪の荷車も激しい音を立てて倒れる。
倒れた後も襲ってくる揺れ。
自重と揺れによる衝撃によって、荷車と箱は原形を保つことなく崩壊。
「「「「お、おお……」」」」
呆気にとられる面々。
思い描いたリアクションを見せてくれたことが嬉しかったようでムアーは口角を上げる。
「どうですか皆様! このバジリスク・イミテイトは! 石化能力こそないですが、大地系中位魔法のグランドウェーブをあつかえます。賊の襲撃があろうとも、ただ一言グランドウェーブと発するだけで賊は立つ事もままならず地面に倒れ、自由を奪われながら衝撃によって命を落とす事になるでしょう。賊なのですから命がなくなろうが皆様は心を痛める必要はありません」
自分たちが生み出した生物の良さを強く、そして酷薄にアピールし、
「賊が悪運によってこの魔法で死ぬことなく命を繋げたとしても、もう一つ武器があるのでご心配なく。強靱な体自体も武器ではありますが、もう一つ魔法があります。幻獣バジリスクも使用する攻撃といえば石化だけではありません――そう毒です!」
嬉々、喋々。
自分の語りに酔いしれているようで、ムアーの所作はオーバーリアクション。
「見せてやれ! ポイズンミスト!」
テンションのままに発せば、私兵や残りの白衣連中が大急ぎで距離を取る。
それは打ち合わせにはない! とばかりに焦っていた。
嘴を大きく開いて吐き出されるのは紫色の霧。
荷車と箱の残骸を包み込むだけでは留まらない広範囲の毒霧だった。
そら必死の形相で逃げるわな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます