PHASE-1662【外を目指そう】

「気にしてはいないから、その謝罪する姿勢をやめてもらいたい」

 そう言うと、


「有り難うございますシステトル様!」

 立ち上がったムアーがもう一度、深々と頭を下げ、これに残りの白衣の連中も続く。


「皆様、場所を変えようと思います。依頼をされていた方々のためのバジリスク・イミテイトは揃っております。先ほどの実演で興味を持った方々にも限りはありますが提供できるかと」

 主に従順で強い大型生物を手に入れることが出来ると喜ぶ面々。


「準備をいたしますので今しばらくこの場にてご歓談をお楽しみください。半刻ほどしたら戻ってまいります」

 ムアーはそう言うと、足早に荷台を運び入れてきた通用口から白衣連中と共に会場を後にする。

 数人の私兵も後に続き、その中にはソドンバアムもいた。

 待たせる間の繋ぎとばかりに楽団が緩やかな音楽を奏でる。

 耳を楽しませる中、場に残った私兵達によって白磁の陶器が会場へと設置されていく。

 白磁から白煙を燻らせれば、バニラのような甘い香りが鼻孔に届く。


 参加者の耳と鼻を楽しませる演出が手掛けられる中、


「オルト」


「お、おう」

 急接近の踊り子からの耳打ちには嫌が応にも鼓動が早くなる。


「この半刻を無駄には出来ないな」

 半刻――約一時間。

 確かにここで時間を過ごすのは無駄でしかない。

 せっかく製造所内部へと入り込めたのだから動かなければ損である。


「アップ殿」

 ここで登場するのはアプールのおっさん。

 で、その後ろには他の金持ちおっさん連中も並んでいる。

 まったく、これから動こうという時に下心まる出しなのが再接近かよ。

 

 苛立ちを覚えそうになったところで、


「アプール殿。デュオによる踊りを申し込みたいのは分かりますが、激しい踊りを見せた後ですからな。少し休ませてあげたい。私のアップを」

 老公が前に出て遮ってくれる。

 私のアップって発言にムッとなってしまうが、そう言う事で抑止にはなる。

 アプールのおっさんを除く他の連中は、それだけで残念と踏みとどまるからな。


「ううむ……仕方ないですな」

 アプールのおっさんもベルの機嫌を損ねるのは嫌なようで、大人しく引き下がるも、


「休まれた後、少しでもいいので是非にお相手をお願いします。貴女との思い出を我が生涯の記憶に深く刻み込みたいので」


「分かりました」

 営業スマイルを顔に貼り付けて応対すれば、それだけでも満足とばかりに顔を綻ばせるアプールのおっさん。


「人の少ないところで休みたいのですが」

 ベルがそう言えば、男連中は目を見開く。

 聞きようによっては誰かをお誘いしているようにも受け取れるからな。


「違いますから。舞姫は本当に休息したいだけですので。変な受け取り方をしないでいただきたい」

 一応、釘を刺す。

 声も荒くなってしまった。


「オルト殿」


「なんでしょうシステトル様」


「我がアップをゆっくりと休める場所に案内してあげなさい」

 俺たちの行動を掩護してくれる老公。


「分かりました。では行きましょうか舞姫」


「案内、よろしくお願いします」

 二人して会場から出ようと一点に目を向ける。


「木箱の運ばれてきた通用口から出られるのが理想的だよな」


「無理だな」


「そうだな」

 ソドンバアム達とは別行動の私兵達が通用口の前に立ち塞がっている。

 絶対に通さないという意気込みが伝わってくる。

 無理に通ろうとすれば間違いなく怪しまれるので、あの通用口に近い出入り口を探そうと二人で話し、まずは通用口と同じ壁にあるドアから移動。

 

 華やかな場所から廊下へ。

 

 他の建造物がどうなのか分からんが、土地の権力者が集まる建物なだけあって、廊下も良い造り。

 白亜の壁と廊下。

 この造りはミルド領でも見たな。

 カリオネルが用意した闘技場なんかもそうだった。

 ミルド領の建築の強味である、ローマンコンクリートに近い建築材がここでも使用されていた。


「この履き物だと足音が響いてしまうな」


「まあ、まだこの辺りは問題ないと思うぞ」

 私兵と出会っても、人の少ない場所で休みたいとベルが言えば問題なくスルーしてくれると思う。

 連中からすれば舞姫と言葉を交わすだけでも嬉しいだろうからな。


「通用口を目指したいけども廊下は一本道か――」


「バジリスク・イミテイトなる生物を乗せた木箱が何処から運ばれて来たのかを調べるためにも進むしかない」


「だな」

 方角は一緒。進んで行けば必ずどこかで同じ道に出られると思う。

 まずはこの廊下を進んで外へと出る。

 出た後、荷車が何処から運ばれてきたかを調べる。

 あれだけデカいのを出し入れするんだから場所は限られるだろう。


「同じ形からなる建物ってのが鬱陶しいけどな」

 

「ならオイラの出番じゃない?」


「いや、ミルモンは切り札だから。まだ使用は待機でお願いするよ」


「了解」

 ミルモンの見通す力は一日一回しか使用できない。

 天空要塞のように決まった方角にあるのを探す時は問題ないけど、この入り組んだ製造所内で見通す力を使用すれば、位置を特定しても、そこまでの道順が分からなければ時間を無駄にしてしまう。

 確実に見通すために、ここぞという位置でお願いしたい。

 大前提としてミルモンの力は、ゴロ太の居場所特定のために使いたいしね。


 碁盤目のような製造所内部をある程度、把握するまでは自分たちの足で探索するのがベストだろう。

 

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