PHASE-155【伝説の兵士、大人げなくふて腐れる】

 俺には刀とマントしか与えなかったから、王城には残された財宝なんかは少ないか、無いと考えていたが、先生が調べた紀伝体の中では、結構な量の財宝が眠っているらしい。


 しかもそれは、財貨よりも冒険者が欲するような装備やアイテムとのこと。


「まったく! 切羽詰まってたくせに、俺にはそれらを託さなかったなんて。あるんならもっと分け与えてくれないと!」

 城に行けば、労いの言葉だけで、報奨なんて無いからね。

 いまだ世界は危機的な状況なのに、出し渋る気か!


「外套が権力を有せる代物なので、王としては最高の物を渡したと考えていると思いますよ」


「じゃあ、やっぱり家臣団が渋ったんですかね?」


「権力の象徴である外套が主に渡った時点で、武具を惜しむと言う事は考えられないでしょうね」

 一口、お茶をのんで口を潤し、そう説いてきた。

 

 ふむん。


「じゃあ――――」


「行ってみましょう。自身の目と耳で確認するのが確実です」

 俺の発言を紡ぐ先生――――。

 

 もちろん二人して悪い笑みを浮かべているのは、言うまでもない。


「なんだ?」

 ギルドハウスから出れば、目の前ではベルが新米冒険者に師事をしている。

 その中には王都の兵もいた。


 厳しい指導であるみたいだが、笑顔である。


 喜色に染まっているのは、スタイル抜群の美人に師事を受けられるからだろう。

 いまだ娯楽の少ない王都だ。ベルのしごきは、男達にはたまらないんだろうな。


 励んでくれるのはいい事だ。


「ちゃんとした訓練場が欲しいですね」

 ベルが発せば、


「問題なく」

 と、先生が返す。

 訓練場は、ギルドハウスの裏側に大規模なものを建設しているそうで、それも完成間近との事。楽しみにしていてくださいと、自信たっぷりな笑みを見せてくれる。


「ところで二人は何を?」

 訓練場が出来る事を知れば中佐はご満悦。喜ぶところは軍人の性だな。

 で、笑んだまま俺たちのこれからの予定を聞いてくる。

 これから王城に行くと伝えれば、


「私は指導がすんでいない。皆やる気を見せてくれるので、こちらも熱が入る」

 ベルは皆が懸命に頑張っていると思っているが、大半は、俺の想像通りだと思う。


「二人で行ってくるといい」

 と、継ぐ、


「いや、三人だ」

 ゲッコーさんが登場。

 面白くないといった表情なのはなぜだろう。


 不測の事態が発生するかもしれないから、念のために抑止役として随伴してくれるそうだ。 

 先生が王都で活躍している以上、一部の家臣団が反発するとは考えられないけども。

 まあ、俺としては、頼りになるから随伴はありがたい。

 

 ――――久しぶりに馬上の人となる。


 俺に与えられた白馬は王都内の移動でしか使用しないから、申し訳なくもあるが、俺がいない時は、ギルドメンバーがちゃんと世話をしてくれているそうだ。


「ところで、なんでゲッコーさんはご機嫌斜めなんです」


「まったく、ギルドハウスの前にいた連中だ」

 お、怒っていると言うより、いじけているな。


 ――――王都に戻ればセラピストとしての役目をやる予定だったが、先生の適材適所によって、セラピストとして暇となったゲッコーさんは、少しは新米たちを訓練してやろうと面倒を見ていたらしいが、参加人数は少なかったようだ。


 伝説の兵士に鍛えてもらえるなんて貴重なのにな。


 だが、交代を買って出たベルの登場で、場は一気に賑やかに。

 参加していなかった冒険者だけでなく、王兵まで参加したもんだから、それを目の当たりにするゲッコーさんとしてはおもしろくないわけだ。


 わからんではない。

 

 というか、あれだ。不測の事態を考えて随伴とか言ってたが、ゲッコーさん、ただ暇なだけだ。


「勇者様!」

 マッチポンプとはいえ、奇跡を見せた俺が大通りを通れば、俺に対して住人が笑顔で手を振ってくれる。


 走る馬の後をついてこようと、懸命に走る子供たちの何と健気なことか。

 顔がほころんでしまうね。

 いや~俺って人気者だな~。


「荀彧様~」

 俺と違ってやはり黄色い声が上がる先生。

 俺たちが王都にいない間も、ギルドハウスと王城を行ったり来たりなんだろう。

 

 その度に女性からの声が上がるんだろうね~。

 

 羨ましいけど、俺もキャアキャア言われてるからいいけどね。

 子供の声ばかりだけど。


「ううむ……」

 寂しそうな呻きがばっちり耳朶に届いた……。

 

 呻きの元はもちろんゲッコーさんだ。


 そうだよね。ゲッコーさんだけが、キャアキャア言われてないですもんね。


 でも、いいじゃないですか。ゲーム作品の中では、賞賛される事のない世界で戦い抜いているんですから。

 てな具合にフォロー発言をしてもいいんだろうが、実力下っ端の俺なんかにフォローされたら、傷口に岩塩ぶち込むのと同じだろうからな。





「開けてくれ~い」

 王城に到着して、お気楽に発言すれば、キビキビと動いて開門してくれる番兵さん達。

 先日もだったが、動きが本当に良くなった。


 トップががんばりを見せれば、下の者たちも有能に変わるってことだ。


 ――――門をくぐり、下馬。


「トール殿」

 目の前にはナブル将軍。

 こりゃ話しやすい人が現れてくれたもんだ。

 

 先生と顔を見合わせる。

 

 表情は崩していないが、俺は心中で悪く笑っている。

 きっと先生の内心も、俺と同じはずだ。

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