PHASE-154【唐氏一筋みたいです】

「あの皆さん」

 ここで先生は、端っこで待機する志願者に対して体を向ける。


「私は妻帯者です。そして、妻以外には興味を持ちません。私と恋仲になりたいと思っていらっしゃるのなら、あり得ない事です。私が欲するのは、主と、ギルドの為に励める者のみです。どんな色香を私に向けてきても、妻以外の女性を愛する事はありません」

 ――……おお……。

 なんたる喋々と、妻を思う気持ちを口にするのだろうか。


 聞いてると、体中がかゆくなるんですが……。


 恥ずかしげも無く堂々と言い切った先生。


 反面、先生の話を聞かされて、女性たちは水を打ったように静まる。


 だが――――、


「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!!」」」」

 と、再びあがる黄色い声。

 女性たちが口々に、一人の女性を愛し続けるなんてとても素敵。と、ますます先生に恋い焦がれたご様子。


「やれやれ……」

 まったくもって分かっていないと、呆れる先生。


 高身長、高学歴、高収入。

 でもって、仙界の住人と見間違われるほどのイケメン。


 ここで更に追加される、文化系硬派の嫁一筋という称号。


 世の女たちが理想と掲げる、一つの到達点である男性が目の前にいるわけだ……。

 

 到達点に立つ男がいるのだ、この場で黄色い声をあげる女性たちには、俺なんて最初から見えていないようだ……。

 質問しても、先生を見ながら返してきたし……。

  

 へ、さながらモブか背景ですよ…………。






「おはようございます」


「ええ、おはようございます」


「主? どうされました? ご気分でも悪いのでしょうか?」

 へ……。

 先生のモテっぷりに当てられて、心が暗黒面に傾倒しそうでしてね……。

 

 俺だったらハーレムを目指すのに、奥さん一途とか、格好良すぎですよ。

 光り輝いてますね。その光で灰になりそうです。

 

 ハーレムを目指せない俺は、シスの暗黒卿を目指そうかな……。


「で、今日は何をするんです?」

 もう、女性の面接は嫌だ。こりごりだ。


 とりあえず、なんだかんだで昨日は、女性たちの中から、ちゃんと一階で働いてくれる人達を選出した。

 もちろん先生がね。

 俺はいらない子でした。


「おはようございます。会頭。荀彧様」

 快活で黄色い声。

 

 会頭なんだけども、語末の様付けで、俺の方がランクが下みたいな気がするのは、きっと気のせいだろう。

 拒否されようとも先生の事が好きなんだろうな……。

 羨ましい……。


「本日より励んでください」


「はい!」

 先生から激励をうければ、それだけで十分な報酬とばかりに、面接第一号だったリリエッタ嬢が、床掃除を頑張ってくれている。

 

 面接時は酷く落ち込ませたが、面接が始まる時に、先頭に立っていたことが、フットワークが軽快であると判断されての採用。

 

 無駄なくキビキビと掃除をしてくれて、覗き込めば、顔が映りそうなくらいピカピカに磨き上げられたフローリングである。

 よくやってくれている。


「おはようございます会頭!」

 一階に来れば、ギルドメンバーからも挨拶をもらう。


 先生以上に尊敬を受ける声音が俺には届く。

 声の主は、むさい男達ばかりだが……。


「先日、面白いものを目にしまして――――」

 あらかた挨拶をすませて、先生と対面するように座れば、面接第二号のプリシラ嬢が、俺達の前にお茶の入ったカップを置いてくれる。

 

 彼女も軽快な動きで採用。

 加えて、村娘の純朴な笑みは、接客にいいと判断されたようだ。

 

 手早い仕事である。

 先生に褒めてもらいたいんだろう。「ありがとう」を受ければ、飛び跳ねて喜んでいた。


 全く困ったものだ。

 ギルドの酒場兼食堂では、様々な人達が使用する事になるんだから、そこは対等に接してもらわないとね。

 笑顔は可愛いが、それは俺にも向けないと。

 教育係も採用しないとな。


「――! おっとすみません。どうぞ」

 俺が考え事をしていたからか、それを優先させて待ってくれる先生。

 促せば続きを話し出す。

 

 ――――内容は、紀伝体の中に気になる箇所があったという事。


「それは?」

 と、問えば、


「王城には財宝があるそうです」

 ほほう。

 それは、それは――――。


「初耳ですね」


「そうでしょう」


「ええ」


「「ハハハハハ――――」」

 二人して、口角を三日月のように上げて、悪そうに笑む。

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