PHASE-851【鼻面パンチ】

 俺の挑発にギリギリと歯を軋らせると、


「おのれぃ!」

 言われずともとばかりに肩をそびやかして威勢よく声を発し、手を掲げると次が昇降機によって競り上がってくる。


「今度は三つか。さっきも言ったけど、まだ有るなら一気に出せよ」


「次はそうはいかんぞ。お前もさぞ強い衝撃に襲われるだろう」


「ああ、そうですか」

 発言内容で次のが分かった。

 となると、やはりこの馬鹿は何かしらを知っているな。しっかりと吐かせないとな。


「さあいでよ! マンティコア」

 やっぱりそうなるか。


「ガァァァァァァァァ!」


「――ああ、だっただった。」

 チコと初めて出会った時は、確かに獰猛な咆哮だったな。

 俺と一緒に行動するようになってからは、濁った猫みたいな鳴き声になったけども、初見の時は雄々しいものだったな。

 灰色の毛並みにライオンのような鬣と蠍のような尻尾。

 チコが三頭いるように見える。

 目は全くもって可愛らしくないけどな。

 クリクリお目々のチコと比べれば、敵意を剥き出してつり上がっている。


「さあ、食い殺してやれ」


「「「ガァァァァァァァァァァア!!!」」」


「うるせぇ……」

 流石に三頭からの同時に発せられるバインドボイスには耳を塞いでしまう。

 バインドボイスで動きを完全に封じたところで強靱な爪や牙。蠍のような尻尾からなる針や毒を使用して対象を仕留めるんだろうね。

 

 考えつつ眺めれば、バインドボイスでは動きを完全に封じる事が出来なかったと判断したのか、三頭が連携をとりながら俺へと迫る。

 俊足に加えて交差しながら走る姿は俺を翻弄させるためだろう。

 自分たちの動きを目で追わせて、隙が出来たところで俺からは死角になっている尻尾の毒針で一突きか、毒液を飛ばすという、


「戦法」

 なのは予想できていたので、あえて視線を逸らして誘った。

 隙と判断した三頭の選択は、後者の毒針からの毒液飛ばしによる遠距離攻撃。

 俺は毒液を最小限の動きで回避しながら、三頭に向かって走り出す。

 ――隙をついての攻撃方法は知能が高いからこそだろう。ペットは飼い主に似るって言うけど、コイツ等は違うようだ。

 うちのマンティコアであるチコも知能と理性をしっかりと備えているからな。飼い主に似て。


 糧秣廠にて俺に危険が迫ったと判断した時、チコが兵士を倒したけども、命を奪わずに押さえつけるだけにしてたからね。

 俺の指示なしでは命は奪わないスタイル。

 本能を押さえ込み、仲間の意向を考慮して行動することが出来るから、マンティコアの知能は高いと考えていい。

 有りがたいね。本能よりも知能と理性の方が優先されるって事は――、つまりは制圧しやすいって事だからな。


「アクセル」

 からの、


「鼻面に~」

 からの、


「スマッシュ、スマッシュ、スマッシュ!」

 翻弄させるような素早い動きをしようとも、俺のビジョンとストレンクスンの併用による動体視力ならば動きは遅いくらいだ。

 しかもデカいから凄く捉えやすいんだよね。

 アクセルによって一気に距離をつめれば、突如として目の前に現れた俺に対して三頭の巨体がビクリとなり、そこを隙として見逃さない俺は、三頭の鼻面に連続して拳を打ち込んでやる。

 激痛に顔を歪め、象ほどある巨体がもんどり打つ。

 チコの時もスマッシュって言いながら鼻っ面を殴ったな。

 マンティコアへの攻撃対応は同じものだった。


「なあ!?」


「ああいいよ。その馬鹿なお顔が更に馬鹿に歪むの」


「くぅぅぅぅぅぅぅ……」


「いいね~その悔しがる顔。自慢の合成獣が小僧一人にあっけなく倒される現実をちゃんと受け止められているか? ねえ、今どんな気持ち。ねえねえ、どんな気持ち? NDK! NDK!」

 ドヤった感じで見下ろすおっさんに対し、コロッセオの下から見下ろして大いに馬鹿にしてやる。

 下から見下ろすってのも意味分からんが、この場合は精神世界アストラルサイドから見下ろしているってことで。

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