PHASE-1367【東宝のやつに出てた】

「おいおい……。あんなデカい繭の中に入ってる生物ってなんだよミルモン」


「オイラに聞かれても……ね……」

 どうやらそれが目覚めようとしているってわけだ。


「あの球体がミルモンが見通したものなら、球体の正体だった繭がフロトレムリまでの移動方法ってわけじゃなく……」


「出てくるのがその力を持っているんじゃないのかな? で、オイラ達の味方になるって事だろうね」


「でも明らかに禍々しいオーラを纏ってるよな」


「だね……」


「つまりは……命を奪う事なく制するのが俺達の戦い方になるのかな?」


「そうなると思うよ」


「オウ……」

 デカいのが出てきて、まず間違いなく俺達は戦わないといけないだろう。

 でも命を奪う事は出来ない。

 巨大な存在に手心を加えつつ戦うということになりそうだな……。

 ――……連戦からのこれか……。非常に面倒なことこの上ない。


「面倒事があると顔に出ているな。勇者」


「兜で表情を隠しているヤツはそういったので悟られないからお得だな」

 悪態にてヤヤラッタへと返せば、その言葉にダメージを受けたかのように大きな体が腰を下ろす。

 当然ながら言葉でダメージを受けたわけじゃないのは理解している。

 でもって取り巻き達も真似るようにへたり込む。


「どちらさんも不調のようで」


「力を使用しているのでな」

 何に?


「主語が抜けた話し方は嫌いなんだけどな」

 この場合、使用したってのは――繭の方に睨みを利かせれば、


「ご名答」

 と、短い言葉が相対する方から返ってくる。


「どうやらあの繭の中にいるのを育てるために、エネルギー的なものをお宅とその取り巻き達が注いだようで」


「その通りだ。目覚めさせるのにはまだ時間がかかる予定だったが、この森に勇者がやってきたあげく、ここまで攻め込まれれば、我々もせっつかされてしまう。ここで戦況を好転させる為には、この策しかなかったわけだ。ここにいる者たち全員の力を使わせてもらった」

 疲れ果てて座り込んでいる割には饒舌なことで。

 それだけ自信のあるのがあの繭から出てくるってことなのかね……。

 こっちはその繭から出てくる存在を倒すことなく制さないといけないという条件もあるってのに……。


「さあ! 目覚めよ! 我らが生み出した新たなる種よ!」

 へたり込んでいるとは思えない程に快活な声だった。

 で、発言から察するにキメラの類いなのかもしれない。

 

 ――ヤヤラッタの発言に反応したのか、繭の中からドクン、ドクンと大きな鼓動が聞こえてくる。

 次にはバリバリといった何かを破る音。


「出てくる前に――ファイヤーボール!」


「おいコクリコさん!? 俺達の目的の存在なんだけど。というか、次なる目標へと繋がるって時点で攻撃しないって言ったのはお前だ! 傷つけないって言っただろうが!」

 言った時には繭に向かって三つの火球を撃ち出していた後……。

 サイズは普通サイズのものだった。

 一応の手心はしているってことか……。


「目覚めの一撃ですよ。生まれる前から主従関係を力で分からせるつもりです。この程度で傷つくならその程度の存在。我々が目標としたものではありません!」

 なんという理由での先制攻撃……。

 繭に直撃すれば、小規模な爆発が三つ。

 加減はしていても三つの時点で火力はそこそこ。炎が繭を包む事に俺は慌てるけども、反面、ヤヤラッタ達は落ち着いている。

 この程度ではなんの問題もないってことのようだった。


「ギィィィィィッィィイイ!」

 ファイヤーボールの爆発音に遅れること十秒ほど。大気を劈くような断末魔みたいな声が繭の方から響いてくる。

 大気を劈くような鳴き声に、俺達だけでなく相対する側も耳を塞いでいた。

 そしてその鳴き声の衝撃で、繭を包む炎と煙が消し飛ばされる。


「お目覚めですね!」

 コクリコが得意げに発しつつ繭を見やる。

 鳴き声に続いて繭から届く音は、ズリズリという大きな引きずり音。

 音を立て動くだけで、俺達のいる空間が揺れる。


「落盤に気を付けましょう!」

 パロンズ氏が頭上からの落下物に気を付けるように注意を喚起する中、


「それ以上に気を付けないといけないのが出てくるよ!」

 落ちてくる石を空中で回避しながら俺達に危険を知らせるミルモン。

 炎と煙を吹き飛ばしながら繭から出て落下してくる巨大な影。


「うわ!」

 コルレオンの慌てる声。

 落下にて生じる揺れは、さっきよりも地面を大きく震わせる。


「……お、おお……」

 繭から生まれ出て俺達と同じ高さへと落下してきた存在は、鎌首を上げてこちらを見下ろしてくる。

 その視線から伝わってくるのは、こちらに対しての敵意。

 視線を受けつつ、鎌首を上げた存在の全体を見渡す。

 ――エッジの効いた複眼からなる両目は、オレンジ色に光っている。

 体表は黒を主としたもの。

 差し色とばかりに赤と黄色からなるまだら模様。

 人間なんかと違って口は横ではなく縦からなり、指を組ませたような形状からなる白銀の牙。

 全体の中で最も目立つのは、頭部から生えた一本の黄金に輝く角。


「でっかくて、おっかない外見の芋虫だね」

 ミルモンの感想。


「いやまあ、そうなんだけど……」


「どうしたんだい、兄ちゃん?」

 眼前に現れた巨大な芋虫に俺が気圧されているのかと心配したのか、ミルモンが俺の前で留まり、心配そうに見てくる。


「大丈夫だ。俺は問題ない」


「でも、芋虫の姿を見てから声の調子が変わったし、感情も負の方向に傾いているようだけど……」

 いつもなら負の感情に気分が良くなるミルモンだけども、主である俺がそういった感情になると心配になるようだ。

 そういった優しさが嬉しい。

 でも嬉しさよりも、眼前の相手に意識は傾倒してしまう……。

 いやもう本当……。

 目の前の芋虫の姿がさ…………。


「ほぼバトラじゃねえか!」


「兄ちゃんあの芋虫を知ってるのかい?」


「知ってるもなにも、何回も目にしたからな」

 子供の頃にレンタルDVDで何度も見たもんだよ。

 目の前のはバトラだよ。

 模様と大きさが違うだけでほぼバトラだよ……。

 小さなバトラですよ……。

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