PHASE-1366【繭】
「よしよし! となれば、キュクロプスと球体には傷をつけないようにしないとな。特にコクリコ」
「失礼な! 私とて次なる目標に繋がるための力に傷などつけませんよ。なんと言っても次は
「まだ目の前の苦難を突破していないのに言ってくれる」
「ふ、苦難とは――見当たりませんが」
素晴らしいほどの挑発。
コクリコのこの煽りには耐性がないと朱の盆の如く顔が真っ赤になることだろう。
でも、そうはなりにくいのが眼前の連中。
「まあ、初戦ではこちらは撤退したからな。そう思われても仕方がない。だが、苦難というのは別にもあるという事だ」
「ほう。ではその苦難を私に与えてもらいましょうか。それを乗り越え私は更なる高みを目指します!」
「活きがいいことだ。ロードウィザード」
「素直に私をそう呼ぶのであれば、苦しまずに倒してあげましょう」
「それはありがたいことだが、自分がそうなる前に去ればいいのではないか?」
「余裕ある言い様ですけども、裏を返せば私が怖いから帰ってもらいたいと思っているだけでしょう」
コクリコとヤヤラッタが互いに言い合うなかで、
「あ、あのう……。間近です」
「そうか、ご苦労だった。危険だと感じるなら下がっているといい」
「は、はい!」
上の方にいるキュクロプスからの報告にヤヤラッタが返せば、発言を素直に受けて急ぎ足で上段部分から去っていく。
「あ、こら!」
こちらとしては味方になるであろう巨人に去られると困るというもの。
急ぎ追いかけたいところだけども、
「ただ安全圏に下がっただけだ」
俺の前にヤヤラッタが立ち塞がる。
「吹っ飛ばす!」
無手ではあるけど問題なし。
イグニースを顕現させて圧縮。
「烈火!」
「ぐぅう……」
ハルバートの柄にてガードしてくるけども、烈火の爆ぜる衝撃には耐えられなかったようで、五メートルを超える体が地面を転がりながら吹き飛ばされる。
「初戦でお互いの力量差は理解しているだろう。申し訳ないけどお宅じゃ勝てないよ。頭は切れるし実力もある。でも単純な戦闘力じゃハルダームよりは下。その時点で俺には勝てない」
強者の如く言い切ってやる。
「た……確かにな……」
烈火の衝撃が漆黒のフルプレートを貫通し、体全体にダメージが入ったようで、ふらついた状態で立ち上がるのが精一杯といったところ。
羊をデザインとしたフルフェイスタイプの兜に隠された表情がどういったものなのかは見る事はできないけど、声と動きからして苦痛に歪んでいることだろう。
「降伏するならここで手打ちにするぞ。お宅は話が通じるし、何より尊敬も出来る」
「嬉しい事だが、さっきも言った。こちらはお前たちと分かりあえん。怨敵として対峙させてもらう」
「……残念だよ」
本当に残念だと思ったからだろう、俺の声音には寂しさが混じっていた。
「そこまで高く評価してもらえて光栄だ」
「ならばその誉れを抱いたまま、現世から旅立っていただきましょう!」
ここぞとばかりにコクリコがポップフレアを放つ。
サーバントストーンと合わせての小爆発が三連続。
上位魔法バーストフレアを思わせる大きな炸裂がヤヤラッタを覆い隠す。
「ま、まったく……勇者とのしみじみとした会話の中にこのような無粋な入り方をするとはな……」
「戦闘中になに言ってんでしょうかね」
「その言は……正しいか」
爆煙が晴れればヤヤラッタは片膝をついた状態だった。
「これは驚きですね」
というのはコクリコ。
横槍の攻撃魔法を唱えた張本人が驚く。
俺も正直、驚いている。
今までのヤヤラッタなら、攻撃魔法を受ける前にプロテクションで防いでいただろうし、それがなくても回避の一つでもとってくるだろう。
烈火使用時もプロテクションを使用してこなかったな。
というか、コクリコのファイヤーボールに対しても使用せず、取り巻きが展開していた。
自分が展開するまでもないと思っていたけど――、
「単純に力量差だけによるものじゃないな。お宅、随分と弱体化してるね」
「……よい眼力だな。流石は勇者か」
「周囲の連中だってそうだ。頭目が攻撃を受けているのに、動きが鈍いよな」
フルプレートと兜のせいで分からなかったけども、よく見れば膝が笑っている。
既に満身創痍の状態とでもいうのだろうか?
あれではさっきのようなプロテクションを展開するのも難しいな。
「なにがあった?」
問えば、
「フフフ……」
不敵な笑いで返してくる。
「なにがあった!」
強い語気で再度、問えば、
「なにがあった――ではなく、これから起きるのだ」
返してくると同時にその発言を待っていたとばかりに天井が揺れ出す。
「崩落か? まさかここで俺達を道連れにするつもり――じゃないか」
「当然。ここで勝利を手にし、我々はこの森から出るつもりだからな」
「兄ちゃん」
球体の方を再び指さすミルモン。
「おう!?」
球体がほのかに輝き始める。
緑光の輝きは徐々に変化。黒紫の毒々しい色へと変わっていく。
「色からしてやべえなあの球体。まさか中から毒霧なんかが溢れ出てくるってわけじゃないだろうな……」
俺はともかく他が対応できない。
「その問題はない」
と、相対する方から否定される。
「兄ちゃん。あの球体って繭っぽくない」
「繭?」
言われて半球部分しか見えない中でも周囲を見渡す。
球体の周囲にはその球体を固定するように壁へと伸びている無数の糸。
ミルモンの言うように、見れば見るほど繭に見えてくる。
繭だと判断するなら、なんともデカいな……。
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