PHASE-105【海の怪物】

「入り江に炎が上がっています」

 ディスプレイを凝視していたが、コクリコの驚嘆の声に、つられて入り江を見れば――、


「双眼鏡はいらないな」

 激しい炎は、離れた位置であっても、双眼鏡を使用しなくても十分に見て取れた。


『苦しまずに送ってやるだけ、ありがたく思え!』

 悲鳴も上がらず、炎に襲われると、亜人たちに見舞った時と同様に、何も残らない。

 こうなれば、海賊たちは阿鼻叫喚である。


『俺の存在って、しょっぱいな……』

 いやいや、ベルがチートすぎるだけです。

 逃げに徹する海賊の背中を、寂しそうな語気と共に見送るゲッコーさん。


 FPS視点だから分からないが、きっとゲッコーさんの背中も寂しいものなんだろう。

 

 ――――海賊たちは、島の裏側にある洞窟へと移動し、そこに係留された船に逃げ込んでいる。


『逃げられると思っているのか』

 カツカツと、ヒールの高いブーツの音が、洞窟内で反響して、海賊たちに更なる恐怖を植え付けていく。


「あの、私たちから逃げ出した海賊船が、こっちに戻ってきますよ」

 おっと、そっちも警戒しないとな。

 港に到着した矢先に、入り江に派手な攻撃が始まったから、驚いて踵を返し、再び船の上ってところか。

 

 封鎖前だったが、始まったからにはしかたがない。

 プランが変われば、臨機応変に対応する力も身につけないとな。

 

 ミズーリの砲塔、40.6㎝だと慈悲がないので、12.7㎝で対抗してあげよう。

 これでも慈悲のない威力ではあるが。


 ――――うん。懸命だな。


 反転した海賊船が次ぎにとった行動は、海賊旗を降ろすという行為だった。

 降伏するようだ。

 なので俺は、続きとばかりに入り江での戦いに目を戻す――――、


『出せ!』

 と、海賊の一人が叫ぶ。

 船を出すのかと思いきや、海賊は継いで、


『解き放て!』

 と、言った。

 

 途端に周囲の海賊たちがざわつく。

 なにやら反対していたが、解き放てと発言した男に、近くで反対していた男が斬られた。


『早くしろ!』

 斬られるのはごめんと、発言に従うように行動。

 クランクを数人で回せば、洞窟内にある鉄格子の巨大な水門が、重々しく開かれていく。

 

 開かれる最中に、水門奥からは、【早く開け!】とばかりに、大木のような触手が、ズシンとぶつかり、水門はひしゃげながら開いていく。


『ほう』

 何が出るのかと、様子を窺う余裕のベル。


「何という事でしょう!」

 反面、俺の隣ではコクリコが焦燥の声を上げた。


「どうした? アレはやばいやつか!」


「あれは先ほど言っていたクラーケンです! 海の頂点の一角ですよ!」


「なんでそんなのが海賊のとこにいるんだよ」


「魔王軍と手を組んでるからでしょう」

 なるほど……。

 

 ――……おいおいデカいぞ……。

 シーゴーレムを超えるんじゃないか? 人間がどうこう出来る相手ではないぞ……。

 

 見た感じはまんまイカだが、ここまでデカいと怪獣だよ……。

 対怪獣のスペシャリスト、自衛隊の出番じゃないですかね。と、口に出したいね。


「そうだよ。自衛隊だよ。ならば、ゲッコーさん」


『分かっている』

 相手が怪獣なら現代兵器ですよ。

 攻城兵器破壊でも活躍したM72 LAWを担げば、後部の筒を伸ばしてから発射。

 そこそこの装甲車なら破壊できる威力だ。

 

 ――――爆発。直撃だ! いくらデカいとはいえ、ゴーレムみたいな岩石じゃないからな。いいダメージが期待できる。


『……なるほど……』

 曇った声のゲッコーさん。効果が見られなかったようだ……。


 ぷよぷよの弾力。

 体の表面は、湿りとぬめりで守られているようで、決定打に欠けた。

 

 当たったところはプスプスと煙があがり、白い体液が出ているのも確認できるが、見る見ると傷が塞がっていく。

 内側の筋肉が盛り上がっての超速再生だ。


「凄い……」

 正にファンタジーである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る