PHASE-683【意外と照れ屋】
「イルマイユがこの地を旅立つ以上、貴方たちもここに留まる必要はないから、地下施設に戻って建設作業に従事する者達の監督役に就いてくれるかしら」
「謹んでお受けいたします。では勇者殿、くれぐれも――」
「この遠坂 亨の魂にかけて」
アンデッドに魂をかけてたらろくな事にならなそうだけども、仲間は全力で守らせてもらいます。
ここでも首肯が返ってくる。
発言に満足すれば、ズブズブと足元の影に沈んでいくコリンズ氏とグレータースケルトン。
「転移魔法ってやつか」
「ええ、行き先は地下施設にある転移用の魔法陣」
「便利だな。俺たちもそれでドヌクトスまで――」
「残念。ドヌクトスには転移の魔法陣を準備してないの」
「あ、そうですか……」
まあ、俺にはJLTVやトラックがあるからいいけど。
「さあトール。我々にはやらなければならない事があります」
「だな!」
――――ログハウスから出れば、早速マット君を召喚。
通路に置いていたアイテムもしっかりと回収。なので車内はパンパン。
途上でマット君が召喚される度に、イルマイユは驚いてくれた。
戦闘時に俺が本気を出してないという発言をしたが、目にした事がない金属フレームの箱のような存在を目の当たりにして、俺の発言が信実だったと理解してくれた。
恐がりだけど好奇心はあるようで、驚きながらも車体をペタペタと触っていたのは可愛らしかった。
長い時を過ごしているようだが、見たことのない存在となれば強い興味を抱いてくれる。
イルマイユが過ごした人生の三分の二は地底湖生活だそうで、いろんな物が新鮮に見えるんだろう。
そんなイルマイユは今年で五百二歳になるそうだ。
この世界だと、人間が短命な存在だというのを痛感させられる。
というか……、シャルナが飛び抜けすぎているな。
人間で例えると俺たちくらいの年齢らしいが、約二千歳だからな……。
五百年という年齢が大したことないように思えてくるから不思議だ。
こんな地底湖で人生の三分の二を過ごさせなくても、もっと安全な、それこそリンの地下施設で守ってやれば良かったという疑問をログハウスに戻る途上にリンに質問
すれば、地底湖の上にあるセイグライス湖がミストドラゴンの生息地でもあったそうで、イルマイユとその家族もここで過ごしていたという。
そこから離れたくなかったイルマイユの思いを汲んで、せめてもの安全策として地底湖に居を構えたそうだ。
リンの優しさが理解できる話だった。
当の本人は俺やコクリコがそこを称賛すれば、照れ隠しなのか嫌がっていた。
そんなリン達に守られていたイルマイユの新たな旅立ちなわけだが――、JLTVだと四人を乗せて、ゲットしたアイテムも乗せるとなると、流石に積載に無理が出て来るのでトラックを選択。
「うわ~今度は大きな車輪がついた大きな箱だ~」
背格好よりも子供っぽいイルマイユの語り口は――尊い。
キョロキョロとトラックを一周しながらゆっくりと眺めている姿は、マット君の時と同様。
驚き楽しみながら観察しているその間に、俺とコクリコがゲットしたアイテムを積み込む。
「これだけの積載スペースがあるなら余裕だな」
「まったくトールは便利な物を召喚できますよ」
手に入れたミスリルの武具防具や、金の装身具。
最初にゲットした金塊なんかを大切に積んでいく。
ミスリルはブレストプレートなどもあるが、金属と違って軽くて積み込みは楽。
「トール。これ手伝ってください」
「おう。大物だからな」
対してコイツは大変だ。
コクリコと一緒になって運ぶのは、立派な装飾が施された金属製のフルプレート。
発見時はリビングアーマーかと警戒したくらいだった。
「なんでこんなもんまで用意してんだよ。リン」
「あら、なんで私に聞くのかしら?」
「いやいいから。このダンジョン製作の張本人に聞いてんだよ。ていうか最下層で肯定してただろうが。地底湖に居を構えた件の称賛をまたしてやろうか。照れる姿をまた見せてくれるか?」
「それは御免こうむるわね」
「大体バレバレだっての」
地下を目指している道中、言動に違和感があったからな。
ミスリルフライパンをコクリコが馬鹿にすればムキになったり。
壁と天井のトラップでは伏せろと助言もくれたからな。
攻略しているからトラップは知っているとも考えられたけど、ミスリルフライパンの件でムキになったところや、その他の言動から考察すれば分かるっての。
「で、ここまでアイテムを置いている理由は?」
「まあ、入った者達に与える浪漫よ。そのフルプレートだって魔法付与されていて、普通の使い手の初期魔法程度なら防いでくれるし、それ以上の魔法でも軽減させる力が宿っているのよ」
「イルマイユを守るためのダンジョンに浪漫って」
「守るためって言うのは間違いじゃないでしょ」
このダンジョンを攻略し、ディザスターナイトを倒し、イルマイユをこのダンジョンより連れ出す存在。
イルマイユを一緒になって守ってくれる存在になりえる者だけがこのダンジョンを攻略する権限を持ち、全てに対処できる存在なのかをリンが見極める為の最終試験でもあったんだろう。
で、そんな存在にはダンジョンに配置した有能な装備を譲渡する。
俺たちはなんとか及第点には達したと判断していいようだな。
「全てはイルマイユの成長のためなんだな」
「まあ、そんなところよ」
「お優しいアルトラリッチ様だな」
「う、うるさいわね」
やはり褒められるのは弱いらしい。
五百年以上、現世に留まっているアンデッドも褒められれば紅潮。
御免こうむると言っていたけど、照れている表情をまた拝む事が出来た。
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