PHASE-214【なんか距離感があるよ】

 ――――ギルドハウスの裏手に造られていく修練場。

 現状でも訓練するには十分。

 屋根のない青空修練場がメインだ。

 

 青空修練場の近くでは、トンテンカンテンと音を奏でて建設が進んでいく。

 様々な状況を仮定した訓練が出来るようになる施設を建設しているそうだ。

 これにはゲッコーさんが絡んでいるらしい。


 中には完成されているのもあるようなので、時間がある時にゆっくりと見学させてもらおう。

 

 修練場とその近辺は、石畳ではなく雑草が支配している。

 雑草が抜かれない理由は、訓練中の転倒時に、それがクッションとしての役割になるから放置しているそうだ。

 コクリコと二人で目立たないように端っこでやっていたが、今の俺はその雑草の上を全力疾走。


 ――――青空修練場の中央に移動。

 うむ! 装備が真新しい新米さん達が、カイル達、初期のメンバーから鍛えられている。

 

 やはりベルがいないからか、人の集まりは悪いな。

 ベルがいる時は、ギルドハウスの正面でもやる気を見せる連中が多いってのに。

 ベルがいなくてもここに参加している新人さん達は、邪な考えを抱かない有望株だろう。


 そんな新人さん達の教育をこなすカイル達も大変だ。

 先生の護衛だってしないといけない多忙な立ち位置だからな。


「お~いカイル」

 背中に段平を背負っているから目立つ。

 そして、新たに目立つのは、胸元に垂れ下がった認識票。

 色は青。

 階級は上から二番目。流石はカイルだな。先生の判断だから間違いないだろう。

 ベルに簡単にやられたけども、やっぱり強いんだな。


「会頭。どうしました?」

 そんな強者であるカイルが俺に深く一礼すれば、素振りをしている黒色級の新米さん達も、手を止めて俺に一礼。

 こういう丁寧な挨拶を受けることで、勘違いして馬鹿な権力者が育っていくんだろう。

 俺はちゃんと自重するぞ。

 じゃないと、ベルにしばかれるからな。


「師事してくれ」

 単刀直入に言えば、周囲はざわつく。

 会頭であり勇者として、奇跡の御業を使える存在が師事を受けたいという発言に驚いているようだ。


 新米さん達、俺の奇跡の御業はマッチポンプだから。

 ま、今は大魔法が使えるスペシャルな存在になっているけども。


「いや~、俺って大魔法は使えるんだけど、肝心の基礎が出来てなくてさ~」

 それっぽく言う俺。

 凄いことは出来るんだよ。でも、凄すぎて初歩が出来ていないんだ。的な空気を出しての発言。


「で、さっきようやくタフネスを覚えたんだ。だから次はインクリーズをな」


「おめでとうございます。会頭の事ですから簡単だったでしょ」


「それがそうでもないんだよ。コクリコがここぞとばかりにさ――――」

 どれだけ俺が殴る蹴るの暴行を受けてタフネスを習得したかの苦労話を力説してやった。


 新米さん達は俺の発言に強く頷き、今後の為とばかりに真面目に聞いている。

 やはり有望株のようだ。俺のギルドは将来も憂い無しだな。

 勤勉な存在が多いのはありがたい。


 比べて――――、だ。


 なぜかカイルを始めとするギルド古参のピリアが使用出来る面々が、怪訝な表情を向けてくる。


「どうしたの?」

 気になるので、忌憚の無い返答を求める。


「いえ、タフネスなら簡単に習得できたかと……」


「あん!」


「あ、すいません……」

 人が頑張って習得したのに!

 シャイニング・ケンカキックまで受けて頑張ってきたのに!

 

 別段、詠唱なんていらないけど、タフネスの為に、俺はオリジナルで詠唱を考えようかなと思っているくらい浮き浮きしてるんだぞ。それくらい嬉しかったんだぞ。

 大魔法は感慨も無く使用出来たから、必死になって習得した喜びは比べものにならないんだぞ。

 

 それを台無しにしやがって! なに? カイルって嫌なヤツだったのかな? 豪快な性格だと思ってたのに陰湿だな~。

 がっかりだな。俺、カイルにはがっかりだ。


「俺の力説ちゃんと聴いてた? ちゃんと傾聴していれば、どれだけ痛い目にあったか理解できるはずだぞ」

 声が荒くなってしまう。

 自分でも分かってる。狭量だというのは。


「まずですね。その痛みというのが俺にはよく分からんのですよ」

 なんだよ。屈強な体だからっていう自慢ですかい?

 やっぱり嫌なヤツなのかな~。


「タフネスを覚える為に、硬いのをイメージしてさ。その間にコクリコにボコボコにされるって痛みがあったわけ」


「「「「ん?」」」」


「ん?」

 ちぃと待ってくれい。

 何だろうか、この齟齬が生じている感じは……。

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