PHASE-213【その固さ、アダマンタイトクラスだよな】

「い、いえ! お役に立てたのならいいのですよ。顔を上げてください」

 ――――もう少し待ってくれ。


「ト、トール? いいんですよ」

 OKだ。緩んだ笑みから真顔に戻ったよ。


「さあ、顔を上げて。ギルドの方には、勇者に師事したと伝えますよ。あと、この事は自伝にも書かせてもらいます」


「ああ、どうぞ。早いところ階級が上がればいいな」


「――!? なんです。その悪そうな笑みは!?」

 おっと、どうやらどうしても笑みを湛えてしまうようだな。


「気にするなよ。ちゃんと自伝には勇者トールに、偉大なるロードウィザードであるコクリコ・シュレンテッドがマナへと導き、ピリアの習得を成し得たと書くんだな」

 俺も暴露本につまびらかに書かせてもらうけども。


 湛える不気味な笑みに圧を覚えたのか、たじろぐコクリコ。


 白皙からなる喉が小さくコクリと動く。


「ち、ちなみに、どんなイメージでタフネスを成功させたのですか? それはとても硬い物なのでしょうか?」

 震える声で問うてくる。

 俺はその発言を待っていた。

 あらん限り、悪魔を憑依させたかのように口角をつり上げてから――――、指をさす。

 

 食指がさすのはコクリコの顔。

 そして――、顔から徐々に下げていき、ある位置でピタリと止める。


「な!?」

 慌てて両手にて覆い隠し、紅潮している。


 茶番は――――、終わりだ。


「クックック……」


「なにがおかしいのです!」


「フハハハハ」


「やめてください! その悪しき哄笑!」


「ハーッハッハッハ――――」


「一体、何処を指差しているのですか!」


「分からないのか? 簡単だろう。俺が今までお前のそこをどれだけそしってきたか忘れたのか? ハハハハハ――――」

 おやおや、涙目になっているよ。

 いや~愉快痛快。

 こんな考えは勇者として抱いてはいけないのだろうが、こっちは涙目になっても、ずっと殴られ続けたのだ。このくらいは許してもらいたいね。


「いや~お前の胸をイメージしたら簡単に習得したよ。この事は自伝にしっかりと書いてくれ。勇者トールは、コクリコの硬いまな板胸をイメージしてタフネスを習得したとな。マナは板のマナってな! アハハハハハ――――」


「最低ですよこの男は! 最低ですよ! 大体、柔らかいですから!」


「――――――――ハッ!」

 侮辱。あらん限りの侮辱。

 間を置いて、見下しながら鼻で笑ってやる。


「許せません!」

 いつもの如くワンドを取り出し、青い貴石が赤く輝く。


「さて、ちびっ子の戯れには付き合えない。時間が勿体ないからな。俺はこれからカイルにでもインクリーズを師事してもらわないと」


「う……」


「あん? なんださっきから所々まるよな。なんだその詰まりは?」


「い、いえ……別に……」

 別にといった感じではないな。

 ワンドの輝きも消え去っているし。

 この違和感はなんだ?

 

 凝視すれば、コクリコは視線を俺からそらす。


「タフネスを使えるようになった事ですし、早いところ他の師事も受けて覚えてきてください。で、私にも教えて欲しいですし、強くなればベルにも褒められますよ」


「お! そうだな!」

 ベルには褒めてもらいたい。

 いっそ、俺の才能発揮で惚れてほしいくらいだ。


「十分にお前のことも小馬鹿に出来たし、ちゃちゃっと覚えてくるわ」

 ま、タフネスでこれだけ苦労したからな。他のも苦労しそうだが、ベルに褒めてもらえるというモチベーションで頑張ろう。


「本当に、ボロクソに言われて頭にきますが、健闘を祈りますよ」

 まかせとけい! コクリコの声を背に受けて、カイル達がいると思われる修練場のど真ん中に向かって猛ダッシュ。

 

 だが、なぜここまで侮辱してやったのに、コクリコが俺に躍りかからなかったのか、不思議でならない。

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