PHASE-212【シャイニング・ブラックとも】

「ほほう」

 俺の天啓降臨発言に、嘲笑を向けてくる。

 だがな、降臨したのさ。

 なのでこっちは自信ある笑みで返す。

 

 ――――瞳を閉じてイメージ――――。

 

 ――…………――――!!


「タフネス! ばっちこぉぉぉぉい!」

 ――――分かる! 分かるぞ!!

 これは間違いなく成功している!

 体の奥底から外へと溢れるような暖かな感覚に包まれている。

 今まで経験したことのない感覚だ。


「よき覚悟。全力で行きます!」

 言えば、琥珀の瞳は残光が走るかのように煌めき、締められた右脇から始まる一連の動作を俺は眼界に捉える。

 右へと捻る腰。

 踏み込まれる左足。

 左足の踏み込み、腰は右へと捻られた姿勢から、逆へと流れる。

 左へと腰が捻られ。脇の締まった右拳が真っ直ぐに伸びてくる。

 足首、腰、肩と美しく連動するお手本のような右ストレート。

 最早、ウィザードが放つような拳ではない。


「シュ!」

 小気味よく短く息を吐いて、俺の――――心臓部分を狙うっていう、悪意の塊のような右ストレート。


「ぬん!」

 衝撃が心臓部分から全体に波及する。

 ――が、先ほどまでの痛みに比べれば、圧倒的に軽減されている。

 幼稚園児に殴られた程度の威力しか感じない。


「まさか!?」

 俺が苦しむことなく立っていることに、得心がいかないご様子のコクリコ。


「いや」

 と、頭を左右に振りつつ、


「もう一度です。今のは私の殴り方が悪かったのでしょう」

 いや、お手本のようなストレートだったが……。


 間違いなく上手かった。俺を殴りたいからって、自分が失敗したかのように言うんじゃない。


「成功してるぜ! 俺は」


「では、次の一撃に耐えたら信じましょう」


「耐えてやる! 来い!」

 ――!?

 コイツ……。来いとは言っけどさ……。


 踏ん張る姿勢の俺の片膝を踏み台にしてからの、ケンカキック……だと……。

 

 即ち、この技は――――、シャイニング・ケンカキック。

 

 異世界で、しかも十三歳の小娘が、黒のカリスマのフィニッシュ・ホールドを使用するとか……。

 ウィザードのくせに、ケンカキックの方をチョイスするとか……。


 ――――ガッツリと、コクリコの靴底の衝撃が顔面に伝わってきた。

 

 顔面に見舞われる蹴りの勢いに、ゴロゴロと転がる。

 痛みは軽減できても、衝撃は軽減できないんだな……。


「やはりタフネスは成功していませんでしたね。さ、再開しましょう」

 ――……何を嬉々としていやがる!


「…………ガァッデェェェェム」


「な!? 立った!? 今の私の一撃で」

 大した威力だ。痛みがジンジンと顔面に走る。

 が、その程度だ。

 

 タフネスが成功していなかったら、間違いなく大怪我だった。


「出来たぞ。タフネス」


「え!? 嘘でしょ……」


「おい! さっきの【まさか!?】発言もだったし、いまの【嘘でしょ……】って発言も妙に引っかかるんだが」


「ああ、いえ。お気になさらず。私のスペシャルをくらって、普通に話せるということは、確かにタフネスが発動している証拠。おめでとうございます」

 何とも上擦った声での称賛だな。

 しかもシャイニング・ケンカキックがスペシャルとかって、お前は本当に魔法使いか!


 引っかかることはあるがまあいい。

 俺にはコクリコに言いたいことがあるからな。


 深呼吸をする。

 呼気と共に、今までさんざっぱら殴り蹴られた事で溜まりに溜まっていた、怒りとストレスを吐き出す。

 この発言をするためには、負の感情を捨て去らねばならないからな――――。


「こうやって成功したのもコクリコのおかげだ。ありがとう」

 屈託の無い笑みを顔に貼り付けて、俺は感謝する。

 

 さんざっぱら殴る蹴るをしたコクリコは、この俺の作った笑みに対して、罪悪感を抱いたのか、あわあわとしている。

 

 ――――フッ、幼子よな――――。


「本当にありがとう」

 立ち上がり、典雅な一礼までする俺氏。


 全てはコイツを奈落に叩き落とすため……。

 

 そして、なぜに典雅な一礼かって?

 気付かれたくないからだ。

 口端のつり上がった笑みを湛えている悪魔的表情を眼前のまな板に見せたくないから――――。

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