PHASE-1010【滑稽ですな】
「ここで怒りのままに拳を振るえば、その小僧の言うとおりになります。そうなれば団長の負けです」
「黙れ!」
「仲間に対しても都合が悪いと黙らせるってのは良くないぞ。パワハラだな」
胸ぐらを掴まれ、仰臥の姿のままで言ってやれば、強くて鋭い睨みが返ってくるだけ。
黙れ! という言葉は、俺には返ってこなくなる。
内心では言われなくても分かっているということなんだろうな。
本当に捻くれた性格だ。
ツンデレが可愛いのは十代までだぜ。二十代だとただの面倒くさい女だ。
いや――、
「単純に不器用な性格ってところか」
「それが正解だ」
「あ、やっぱり」
と、ガリオンとやり取りをすれば、歯を軋らせて、舌打ちを一つ打ってマジョリカが胸ぐらから手を放す。
「ところで、俺に跨がられるのは嫌なのに、俺には跨がるんだな。まあ、美人に跨がられぃ!?」
――…………酷いじゃないかガリオン……。
しっかりとマジョリカの拳を止めていたのに、俺の発言に合わせるように手を放すなんて……。
裏切られた気分だよ……。
「女も知らん小僧が生意気な事を言うな」
言いつつ俺から離れるマジョリカの動きの速さたるや。
存外うぶですな。
まあ、拳ではなく平手による一撃だったから、少しは冷静になったという判断でいいのかな。
ジンジンと左頬は痛いけど……。
「それで、なぜここにお前がいる。ガリオン」
「はっ、この小僧からの命で牢獄から出され、ガーズとアザグンスと共に公都へと連れてこられました」
「お前達ならば直ぐにでも逃げ果せただろう?」
「土台無理ですよ」
若干の苦笑いと共に拇指を立て、その拇指が向けられた先にはバラクラバを被った人物が四人立っている。
輸送にはS級さんを四人動員させてもらった。
如何にガリオン達が強者であっても、ゲッコーさんとステータスがさほど変わらない強者から逃げ果せるなんてのは無理というもの。
動員人数が一人だったとしても逃走は不可能。
それが四人だからな。直ぐさま制圧されるだけだ。
大人しくなるのは当然だし、賢い選択。
そもそも団長が敗北して捕らえられている時点で、これ以上こちらの心証を悪くするのもよくないから、抵抗なんてしないで素直に従っていただろうけど。
なんたって娼館から少女であったマジョリカを救い出した、義侠心に厚い男だからな。
「話は戻るが、なぜ公都に連れてこられた?」
「この小僧が立会人になってほしいということでして」
「立会人――だと?」
起き上がる俺に、マジョリカは怪訝な顔を向けてくる。
「カイル」
「はい」
待っていましたとばかりに、カイルが数本の棒を両手に持ってこちらに近寄ってくる。
「どれがいい?」
カイルが持つ棒は、木刀と木剣。
俺は残火を使用しているから当然、選ぶのは木刀。
「やっぱりマジョリカも得物の形状からして木刀を選ぶのか? 俺の周囲は大半が木剣だからな、親近感が湧くよ」
「なんの――つもりだ」
「なにって分かるだろう。さっきは俺に負けた敗北者じゃけェとは言ったけども、実際は一勝一敗だからな。ここでしっかりと決着つけようぜ」
「は? 勝敗は決しただろう。お前たちの勝ちだ」
「ところがどっこい。俺は本気を出して戦っていない」
「ハッ! よくもそんな恰好の悪いことが言えるものだ。実際にそうだったようだが、格を下げる物言いだな」
「まったくだよ。先日の戦いの時、危うくこのクソダサ発言をするところだったからな」
「木刀同士なら、お互いの実力のみで勝負が可能。装備の差がない戦いで白黒つけようとでも?」
「おう。お互いの実力だけで勝負だ」
「それにはマナ使用も含まれるのか」
「当たり前。アーセナルフレームやゴロ丸は装備の力だから使用しない」
「あのゴーレム達を禁じ手にするか。正直、貴様のマナ――ネイコスの方は大した力はないようだが」
「うるせい。そっちも自慢の神速抜刀術は使えないぞ」
返せば、フンと鼻を鳴らす。
「それで、勝ったところで益体もない事になぜ私が付き合わねばならん。さっさと処刑したらどうだ」
「ちゃんと恩典はあるぞ」
「ほう。なんだそれは?」
「まだ誰にも言ってないけど、お宅が勝ったら――お宅を含めた傭兵団全員を無罪にしてやる」
「「「「…………はぁ!?」」」」
おお~いいね。
ギャラリーとして集まった皆さん、一部を除いて揃いも揃って間の抜けたリアクションじゃないか。
滑稽、滑稽。
まっ、一番滑稽な存在は、滅茶苦茶な発言で衆目を集める俺なんだろうけどな。
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