PHASE-1315【小者?】
綺麗に決まったケンカキックを自画自賛する中で――、
「派手な登場と、強者のような佇まいと語り口だった割に、容易そうな相手ですね」
俺の側へとコクリコ来れば、早速とばかりに相手に対して挑発的な発言。
「だから見るだけで掩護はしてくれなかったのかな?」
「しなくても良かったでしょ」
「まあ、そうだけど」
「あの者は実際、強者なのでしょうけどね。ですがそれ以上に私達が強すぎるということでしょう」
ほうほう。私達と複数で表現したことは評価しましょう。
いつもなら自分一人と表現するからな。
正直、これだけ堂々と言い切れるのは格好いいけどね。
謙虚という名の小心者である俺には、言い切ることは出来ないからな。
「故に我々が負ける事はありません」
「自惚れるくらいには死地は潜っているからな」
「その通りです!」
「会話をするだけの余裕があるほどの差があるのか?」
巨木に体を持たれかけさせ、こちらに問いかけてくれば、
「立ち上がるまで待ってあげるのも強者としての礼儀ですので」
と、俺の横で格好良く返している。
別段コクリコが吹き飛ばした訳じゃないが――いつものことだな。
巨木に叩き付けられた巨体がゆっくりとした動きで姿勢を正す。
「――目に見えてのダメージはないようだな」
「いやいや、結構、足にきているようですよ。トールの蹴撃がかなり効いているようですね」
「生意気にもまだ会話を交わすとは! バーストフレア!」
上位魔法の名称が耳朶に届き、俺達が構えるよりも速く、
「プロテクション」
と、樹上から発せられる。
「ぬぅお!?」
シャルナ――悪い子。
ヤヤラッタがこちらへと掌を向け、炎の球体を顕現させて放てば、間髪入れずに放たれたばかりの火球の前方に障壁魔法を展開するシャルナ。
タイミングドンピシャに展開した障壁にバーストフレアが触れれば、術者の眼前で派手に炸裂。
術者自らがダメージを受けるはめになった。
「おのれエルフ。やってくれる!」
武人気質の悪魔が怒りの語気を発せば、山羊兜の奥でシャルナを睨みつつ、
「フロックエフェクト――パーティクルティンダー」
以前にオムニガルが使用したのと同じ魔法を発動。
自身の周囲に小さな火の玉を大量に顕現させると、
「全てを障壁で防いで見せろ」
自分を中心として放射状に放つ。
「森を燃やそうとするなよ!」
「勇者ならば防いではどうか」
兜の奥でクツクツと嗤っているのは理解できた。
「ウォーターショット」
シャルナが連続して水の矢を放ち、火が燃え広がらないように消火に励んでくれる。
パロンズ氏もクレイショットと唱え、土の弾丸で火を覆って消火し、側にいるタチアナとコルレオンも消火作業に奔走してくれる。
「大変だな。森を守る為にそちらに注力しなければならないのは。隊伍が崩れかけているぞ」
「私だって我慢しているのに火炎系を唱えるなんて!」
森を燃やすとかじゃなく、別のベクトルでお怒りになるコクリコ。
「本当にふざけてる! カスケード!」
ヤヤラッタの頭上に小規模の滝が発生。
攻撃と消火を兼ねてのシャルナの上位魔法。
「プロテクション」
自分だけが使用できると思うな! と言わんばかりに自らの頭上に障壁を展開し、勢いよく降り注いでくる瀑布を防ぐ。
「愚かですね」
好機とばかりに笑みを湛えたコクリコが俺の横から跳躍し、
「ライトニングスネーク!」
ヤヤラッタが立つ場所から少し離れた地面へと放てば、
「ぐぅ!?」
プロテクションで防いだ瀑布だが、隆起した地面により流れた水が、ヤヤラッタの足を濡らす。
そこに電撃が走る事で片膝をついた姿勢へとなった。
二人のコンビネーションが見事に決まったところで俺も動く。
「この程度の魔法で!」
「って、発言と今の姿が乖離しているけどな」
「言ってくれるな。小僧!」
接近しての挑発発言に乗っかってくれたのか、立ち上がると同時に諸手で握るハルバートを力任せに振り下ろしてくる。
「冷静さをかいたな。さっきと同じだぞ」
同様に二振りにて受け止めれば、ギリリッと兜の奥で歯を軋らせる音が俺の耳朶に届く。
「ならば!」
先ほどとは違うとばかりに、筋肉の塊である太い尻尾を鞭のように撓らせて俺へと打ち込んでくる。
受けたハルバートを捌いてから身を低くして尻尾を回避。
近くにあった木に尻尾が当たれば、俺の胴回りくらいある木が簡単にへし折れた。
「すごい威力だね」
と、左肩に留まるミルモン。
「大した威力だよな」
そう返していると、
「我が目の前で余裕あるやり取りはやめてもらおう!」
しゃがんだところに迫ってくる轟音からなる前蹴りは、横っ飛びで回避。
「余裕あるやり取りもするさ。この実力差ならね」
回避から即座に姿勢を正して述べれば、仕留められなかった事で舌打ち一つと、地面を揺らすように地蹈鞴を踏んでいた。
この程度で悔しがるとなれば、武人じゃなく小者感が漂ってくるな。
「生意気な事を平然と言ってくれる。しかし――」
「しかし?」
――……間が生まれる。
その生まれたわずかな間で考えるのは、上役のグレーターデーモンが一人で戦っているというのに、残ったカクエン達は動いてヤヤラッタの掩護をしようともしないということ。
「――実力差があるのは事実」
「お、そうか」
間を消す発言は俺への称賛だった。
素直に彼我の実力を認める事が出来るだけの度量を持っている。
――……武人気質なのか小者なのか、よう分からんヤツだな……。
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