PHASE-1314【いいキック力だろ】

「初対面だし、出来れば顔を見て挨拶したいもんだね。お宅のそのいかしたデザインの兜を取ってもらって、瞳を見せてもらいたいところ」


「? なぜわざわざ急所になる部分をさらさねばならん。エルフに眼窩を狙わせるつもりか?」


「単純に赤いお目々とかだと面倒かなと思ってね」


「ほう。レッドキャップスを知っているのか」


「その発言でお宅が魔王軍ってのは理解できたよ」


「これは乗せられたな」

 誘導尋問をするつもりじゃなかったけども、結果として収穫があったので良しとしよう。

 肩に乗るミルモンが俺に対して強いだけでなく、頭も切れる主だと喜んでくれているからな。

 

 ――やはり魔王軍はここに入り込んでいたか。

 カクエンの装備から理解はしていたけども。

 ここで武装した兵を立ち上げて、ドワーフの国に再度、侵攻をと考えていたのかもな。


「なにやら考え事をしているようだな」


「待ってくれていることに感謝するよ。で、ここで何を?」


「別段、お前達に話すことはないな。それで、そちらはいつ名乗ってくれるのだろうか?」


「おや、この俺をご存じではない? 心外だな」


「小僧がなんともふざけた言い様だ」

 このやり取りで分かったのは、俺やパーティーメンバーの素性を知らないってのが分かった。

 となると、ここへと入り込んでから一年の間、外の情勢が理解できていないというのも分かる。

 外と連絡を取り合っていないってのも理解した。

 うん――俺いま凄く切れ者みたいな立ち位置だな。


「名乗ってくれないのかな? こちらには名乗らせておいて名乗らないのはどうかと思うぞ。存じないので名乗ってほしいものだ」


「いいでしょう。我が名はコクリコ・シュレンテッド。偉大なるロードウィザード!」


「……そうか。それは大したものだな」


「馬鹿にしてますね!」

 こういった横から出てきての名乗りは、魔王軍であっても同じようなリアクションになるようだな。


「で、小僧」


「俺は遠坂 亨。勇者として活動させてもらっているよ」


「……そうか。それは大したものだな」

 ――……あれ!? コクリコと同じ反応をされたぞ……。

 なんだろうか……。馬鹿にした笑いで、お前のようなうだつの上がらない者が勇者であるはずがない! って、言われた方が慣れているから、心に傷を負うのも軽減するんだけども、いつもと違うリアクション――まるで可哀想で残念な者に対するあしらい方をされると、俺の精神世界アストラルサイドが大きく抉られる……。

 精神攻撃……。流石は上位悪魔といったところか……。


「ハイエルフのシャルナさん。俺の説明を!」


「間違いなくトールは勇者だよ」


「――ほう。そうなのか」

 と、山羊の頭部をモチーフにした兜がぐるりとこちら全体を見渡せば、次に信頼性の高いと思われるドワーフのパロンズ氏に問うてくる。


「嘘偽りなく!」

 強い語気でヤヤラッタへと返答してくれるパロンズ氏。


「――そうか。貴様が勇者なのか」

 人間から見て叡智なる存在であるエルフとドワーフが発せば、説得力はあったようだ。


「ここまで話に乗ってくれたんだからな。対話も可能と思いたいんだけど」


「この森へと赴いた時点で死んでもらう。勇者というのならば尚更だ。一年前、貴様の存在が我々の覇道を妨げたのだからな」


「何が覇道だよ。外道の間違いだろうが」


「物の見方というのは、立つ位置で変わるというものだ」


「見る位置がお宅等と一緒でも、外道な行動だと胸を張って言ってやるよ」


「このやり取りの時点で我々は相容れない。よって対話は無意味だ」


「殺意の籠もったハルバート投擲の時点で理解してたよ」


「あれを回避したのは褒めてやろう」


「褒めてもらわなくて結構。それに不意打ちをしたいなら、回避されないように声を発せずに狙うべきだな」


「それはそうだ。だがその発言は勇者としては正解なのかな?」


「不正解だよ。俺個人はアンブッシュでの不意打ちは極力避けたいと思っているからな」

 デミタスとの戦いが何とも格好悪かったからな。


「極力というのは、実行した時のための逃げ口上かな?」


「味方が危機に瀕しているなら、その時、俺は不意打ちをすることも厭わないってことだよ」


「その考えは良いと思うぞ」

 なんか武人タイプだな。

 デスベアラーに似ているかもしれない。


「では会話はここまでとして――やろうか!」


「そいや!」


「ぬ!?」

 兜の奥から驚きが上がる。

 俺の眼前から消えた移動方法は、アクセルや縮地のような高速移動系。

 そこから背後に回ってのハルバートによる振り下ろしってのは想像できた。

 高速移動系だとこういった攻め方がポピュラーだからな。

 肩越しに背後を見つつ、振り下ろされるハルバートに対して、残火とマラ・ケニタルを交差させ、鎬で斧刃の部分を受け止めてやった。


「我が膂力による振り下ろしを受け止めるか」


「受け止めますとも」


「余裕のある言い様だな」


「余裕があるからな。お宅より膂力があるのと最近も戦ったから」

 デミタスと比べれば、このグレーターデーモン――ヤヤラッタの力は大したことはない。

 受け止めて喋る余裕がある程に。

 

 ――しばらくはお互いの力比べ。

 全体が俺達を見守り、しじまが訪れる。

 この間もギチギチと長柄武器を力任せに押し込んでくるが、足場の悪い地面で両足を踏ん張って耐えてやれば、兜の中から息を荒げて更に力を込めてくる。

 

 ――でも耐える。


「あ、ありえん」

 自身の膂力によほど自信があったんだろう。荒い息と共に驚きの声を漏らす。

 ならば――もっと驚いてもらおう。


「ブーステッド」

 と、小声にて発動。


「ふんすっ!」


「なんだと!?」

 ハルバートを逆に押し返せば、諸手に持ったまま万歳の姿勢となる漆黒の鎧を纏う巨体。


「せいや!」

 反転して同一方向にて二刀の横薙ぎを打ち込めば、急ぎ柄の部分だけを垂直にし、俺の横薙ぎを受け止める。

 立派な鎧の時点で分かっていたけど、ハルバートには魔法付与が施されており、二刀の刃でも断ち切る事が出来なかった。

 しかし万歳姿勢から急な防御へと移行したことで、巨体は受け止める方向に力を注いでおり、逆方向が隙だらけ。


「どっこいしょ!」


「がぁ!?」

 がら空きになっていた腹部にケンカキックを見舞ってやれば、勢いよく吹き飛んでくれる。

 四メートルはあろう重装備の存在を吹き飛ばせる俺のキック力って凄いじゃないか。

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