PHASE-216【道化を演じさせられたよ……】
「え!? なんで。どうして!?」
あまりの驚きに俺は弦を放してしまう。
ビュボス! と、強弓というのが容易に理解できる弦音が耳朶に届けば、同時に弓の弾性により生まれた衝撃が、俺の体にしっかりと届く。
「これが師事です」
「…………は?」
首を傾げて疑問符を浮かべていたら、カイルの発言に周囲のピリアが使える勢も頷いている。
「は?」
継いで出るのは先ほど同様の第六行第一段。
ごめん、意味が分からない。
察してくれたのか、
「ピリアの師事は、マナのコントロールが可能な者が可能な者に触れることで、体内マナに干渉し、能力発動を可能な状態にするんですよ。会頭は大魔法が使用出来るほどにネイコスのマナコントロールも可能な方。体内コントロールであるピリアの基礎なら、こうやって会頭に触れて干渉すれば、容易く伝授できるんです」
「へ? つまりは、めっちゃ簡単だって事か?」
「はい。会頭は体外マナのネイコスのコントロールが出来ますからね。簡単に出来て当然なんですよ」
なるほど。得心がいった。
だからここにいる皆は、俺が痛い目に遭ったってのが全くもって理解できなかったんだな……。
――……と、言うことは……。
「俺はコクリコに茶化された…………のか?」
――……………………。
どうした? なぜ皆して俺と視線を合わせようとしないのだ?
「つまり俺はお馬鹿な道化ということ…………か?」
――……いいんだぞ。頷いてくれても。
ハハ……。この勇者でありギルド会頭の遠坂 亨が、あんなまな板バーティカル中二病のノービスに言い様にされたわけか……。
――……!? なるほど。点と点が繋がって線になった。
俺がタフネスに成功した途端、あいつは急によそよそしくなった。
本来ならあんな事ではタフネスを習得することは出来なかったんだな……。
本当に普段の意趣返しがしたかっただけのようだ……。
俺を痛めるのを楽しみながらも、タフネスの取得には協力してくれていると思っていた。
だが、それは違った。俺はあいつの悪質な児戯に付き合わされていただけだ……。
まあ、それでも習得しちゃう俺って凄いな。という感情も芽生えるのだが、それ以上に負の感情は芽生えるどころか、一瞬で世界樹にまで育ったよ…………。
「ハハハハハ…………カカカッ……」
「か、会頭!?」
俺が急に抑揚のない不気味な哄笑を発した事で、カイルを始め、周囲にいる古参から新米までが戦く。
――…………これが笑わずにいられるか!
この俺が、あんな小娘に朝から昼過ぎまで、体のいいサンドバッグとして利用されてたんだからな。
シャイニング・ケンカキックまで受けたんだからな!
心の底から叫びたいよ。【ガッデェェェェェェェェェム!】ってな!
「初めてだよ――――カイル」
仄暗さを纏った俺の声に後退りするカイル。
「な、なにがでしょう……?」
それでも恐る恐る聞き返してくれる。
「ここまで俺をこけにしてくれたお馬鹿さんがいるなんてな」
大人気漫画の宇宙の帝王様みたいな台詞が出てしまった。
「す、すいません!」
「?」
なにを勘違いしたのか、カイルが頭を下げてきた。
「いや、違うよ。カイルじゃないから」
と、言えば。なぜか、ほかの面々が頭を下げてきた。
どうやら、カイルじゃないということは、自分たちの誰かが、俺の逆鱗に触れたと思ってしまったようだ。
「違うよ! あんた達じゃないから。頭を上げて」
お願いだから! 新米さん達を見て。まるで俺が、普段から恐怖を振りまいているような存在として見えているようだから。
そんなんじゃないから! 俺は優しい会頭だから! アットホームなギルドを目指してるんだ。だから辞めないでね。俺のところはパワハラとか無いから!
というかお前等。会話の流れから、俺がコクリコに怒りを抱いてるって分かるだろうが!
俺の発した負の感情に気圧されて思考を止めるな!
「まあいいや。あのおしゃまなまな板は、拳骨、グリグリからのお尻ペンペンのコンボでしばくとして、もっと師事してくれ」
「わ、分かりました! 次は矢を番えてみましょう。ですが、放す時は頭の位置に気をつけてください」
「了解だ」
未だ恐れ戦くカイルから指導を受けながら、番えた矢の末端である筈部分をしっかりと指で摘まんで、放さないように注意する。
「にしてもすげぇな……インクリーズ」
強弓を引いたままの状態でも、全くもって疲れない。
二、三十分くらいなら、余裕でこの体勢を維持できる自信がある。
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