PHASE-654【アイテムボックス(仮)】
――――試してみるか。
腕組みを止めてプレイギアを手にする。
この通路の広さならコイツがいいだろう。
「M151A2マット」
発せばいつもの如く俺の眼前が輝く。
通路の暗がりも白光の世界に変えるほどの強い輝き。
光の終息と共に現れるのは、軍用の小型汎用車両。
ドアはなく、フレームが目立つ車体。
ルーフは帆布みたいなモスグリーンのものだけ。乗車している最中に横殴りの雨に見舞われたら、びしょ濡れ間違いなし。
「いつものと違って一回り小さいですね。頼りなさそうです」
「今までのが頼りになりすぎたんだよ」
時代もハンヴィーより前に車両だしな。
小型な事もあり輸送が簡単で素早い展開が可能な事から、現在でも使用されてたりするらしいけど。
でも、コクリコの言うようにこれでドンパチしてるところには行きたくないよな。
まあ、それはいいとして、
「実験を始める」
「はあ」
「コクリコ君。我々が倒したスケルトンの骨を一本」
言えば、なんの躊躇もなく人骨を手にするところは逞しい。
俺が同じことを言われればちょっとは躊躇するけどな。
実際に受け取る時に躊躇してしまった。
受け取った腕部と思われる骨をマットの助手席に置く。
その時、目に入ったのは、
「なんだこれ。マニュアルじゃん」
やだ困る。俺、異世界免許はオートマ限定なんですけど。
これ運転できないな。まあいいか。この実験が成功したら、ドヌクトスに帰る時にJLTVかトラックにお宝を移せばいいだけだし。
さて――、
「戻れ」
プレイギアに戻るマット。
で――、
「出てこいさっきのM151A2マット」
輝きから出て来るのはさっきのマットなのか。それとも別のマットか。オブジェクトの車両は数も多いから、ランダムで出て来るという可能性もある。
一応はさっきのって言ってはいるけど――。
強い期待から、光にも負けずにその先を凝視。
車体の影が現れたところで俺は駆け寄る。
――――うむ!
「コクリコ君。成功だよ!」
「何が成功なのかは分かりませんが、おめでとうございます」
分からないコクリコに助手席からスケルトンの骨を手にして見せてやる。
「…………!? おお!」
理解したのか笑顔を湛える。
その早い理解は大したもんだ。
「何を興奮しているのかしら?」
付き合いの短いリンはよく分かっていない。
「俺が召喚した車両に骨を入れて戻す。そして再度召喚。骨は健在。つまりはこのマット君に、手に入れたお宝を積み込んでから戻せば、帰りの回収作業をしなくていいし、重たい物を持って歩かなくてすむわけだ」
「ああなるほど。便利ね」
「おうよ! マット君を車両として使用せずに、アイテム回収ボックスとして使用するわけだ」
マニュアルの時点で、俺はマット君を車両として扱えることは出来ないけどな。
これは本当に便利機能だ。
オートセーブ機能であるゲームだから心配はないとは思っていたけど、ちゃんと骨が残っているという状態でセーブされていてよかった。
俺たちは車両型のアイテムボックスをゲットした。
――――この階層で手に入れたアイテムは、全てマット君に入れてプレイギアに戻した。
念のため再度、召喚を実行し、しっかりと車内にアイテムが入っているのも確認した。
次の階層でもこうやってアイテムを回収しよう。全てが終われば上の階層のアイテムも同様に回収だ。
これは本当にありがたい。重労働の心配がないからな。
そう思うと、自然と足取りも軽くなる。
「さあ先に進もうぜ」
――――進むこと地下十一階。
ここまでくるとやはりそこそこの敵が出現する。
フロアミミックも当たり前に出没するし、気持ちの悪い金切り音のような叫び声で、俺たちの戦意と集中力を奪ってくる一体のクライゾンビとも会敵。
遠距離から俺のライノとコクリコのファイヤーボールで対処は簡単だったけど、やはり人型のゾンビは怖い……。
暗がりにうめき声を上げながら迫ってくる姿は映画みたいだったからな――――。
「キャァァァァァァァァァ――!!」
「耳が壊れる!」
再び会敵するクライゾンビ。今度は供回りとばかりにスケルトンが数体いる。
動きはゾンビらしく遅いんだけども、この叫びが嫌いだ。
狭い通路で音が反響するから余計に集中力の妨げになる。
この叫びでピリアやネイコスのマナ発動が遅れる。
その間に、
「スケルトン接近」
普通のスケルトン。
手には棍棒やボロボロの剣を持っている。
叫びに意識を奪われ、接近を許してしまう。
連係がとれたアンデッド達だ。
「なめんな!」
ライノから一発。
上手い具合にヘッドショットが決まれば、FN-57の時と違い、一発でスケルトンをダウンさせられる。
本当なら今のでクライゾンビを仕留めたかったが、スケルトンが射線を妨げる。
だから、金切り声を聞かされ続けてしまっている。
初対面は一体だったからよかったものの、前衛がいるだけで鬱陶しい叫び声がずっと続くわけだ。
叫び声にコクリコも耳を塞ぎ、魔法発動が困難になっている。
「コクリコ来てるぞ」
俺が前衛とはいえ、今回は二人パーティー。
後衛といっても数歩後ろにいるだけだから、スケルトンが俺を通過すれば直ぐにコクリコまで届く。
叫びにより意識を妨げる戦法は、さながら巨龍のバインドボイスのようであった。
そのせいでコクリコに接近を許してしまう。
「くそ!」
心配は無用だろうけども、後衛に接近されることはいただけない。
叫び声に耐え、接近を許すことなく全てを俺一人で倒せるくらいじゃないといけない。
しかも接近を許した相手はスケルトン。
雑魚中の雑魚。
だからこそ悔しさが口から漏れてしまう。
現状の実力に、慚愧に堪えない。
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