PHASE-655【成り上がったんだな】

「なにを苛立っているんですか。こっちは二人なんですからね。限界もあります」

 パカンと発する音と共に、スケルトンの頭を粉砕。

 快活あるコクリコの声音は、俺の不手際を気にも留めておらず、俺の中の焦燥感を払拭させてくれる。


「ふむ。なかなか馬鹿に出来ないですね」

 接近されても問題無いとばかりに、ミスリルフライパンで見事に迎撃。

 一撃でスケルトンを倒せるフライパンの威力に感心していた。


「キャァァァァァァァ――――!!」


「いい加減――五月蠅いぞ!」

 頭に直接、響いてくるような不快音をいつまでも聞かせるんじゃねえ!


「蹴散らします」

 俺の横に立ち、コクリコが片手で耳を塞ぎながらフライパンでスケルトンを倒していく。

 スケルトンの列に穴が空く。ここでライノを選択せずに、確実を選ぶため、叫びが止み次の叫びとの間隙を突いての――アクセル。

 

 一気に距離を縮め、クライゾンビの目の前にてメイスを振り上げ、全力で頭に叩き込んでやる。

 ぐちゃりとした水っぽさと一緒に、メイスの頭部がクライゾンビの頭部に沈んでいく。

 メイスの頭部から柄、そしてグリップを握る手に伝わってくるこの感触は本当に嫌なものだ。

 ロングソードならこの感触も少しは軽減できるんだろうけど、相手はアンデッド。完全に頭を潰さないと反撃もあると考慮すれば、メイスによる打撃が最適解。

 

 暗闇でも昼間のように視界を確保してくれるビジョン。ダンジョンではありがたいピリアだが、見たくないものも見えてしまうのがな……。

 力なく床に倒れるクライゾンビの頭の中から、濁ったドロドロの脳漿がこぼれ落ちてくる光景に、さっき胃に入れたオートミールが逆流しそうになる。

 グッと飲み込み、逆流を堪えて、


「おりゃ!」

 口の中を酸っぱくさせながら踵を返して、残ったスケルトンをコクリコと挟撃。

 メイスを打ち込んだ時の感触はスケルトンの方が圧倒的に気が楽だった。


「さて――、地下十二階です」


「だな」

 革水筒からゴクゴクと水を補給。ここまでくれば口内の酸味も消えてくれている。

 十階あたりから探索範囲も広がったし、難敵ではないけどもエンカウント率も高くなってきた。


「前方。スライムです」


「頼んだ」

 雑魚とされるけども、斬撃、打撃に耐性のあるスライムには、コクリコのファイヤーボールで対応してもらう。


「容易いですね」

 本当に、今回ばかりはコクリコのファイヤーボールが上位魔法に見えてしまうくらいに頼りになる。


「さあ、マッピングも進めていきましょう」


「おう」

 スライムを倒した通路を進み、右の通路へと足を踏み入れたところでその足をとめる。


「……なんだこれ……」


「凄いですね……」

 流石のコクリコも後退りする光景。

 壁と通路全体にびっしりとスライムがへばりついてる。

 うねうねと動くオレンジ色のゼリーは、カップに収まっていればオレンジ味のゼリーみたいなんだけどな……。


「ええい! こんな底辺など」

 おののきを振り払うかのようにコクリコがワンドを構えれば、貴石が赤く輝く。

 ここいらのスライムは確かに底辺の雑魚なんだろうけど、現魔王であるショゴスもスライムなんだよな。

 現魔王と同じ種族と考えれば、油断をしてはいけないんだろうが、ファイヤーボールでダウンさせられる相手だから、ここのスライムは問題ないだろう。


「ランページボール」


「おお!」

 いつもなら怒鳴ったりもする馬鹿魔法だが、この選択はお見事。

 ゆっくりとした速度のスイカサイズの火球が、スライム達のいる通路を進んで行く。

 俺たちは急ぎ先ほどまでの通路に戻る。

 戻ると同時にスライムが跋扈している通路から明るい輝きが壁に反射。

 不整な赤い輝きが煌々と照りつけていた。

 終息したのちに再び角を曲がれば。


「こういう時、便利だな」


「低位でも使いようね」

 リンと二人で感心すれば、無い胸を反らしてドヤ顔のコクリコ。

 プスプスと煙を上げ、水分が無くなりぺったりとした姿のスライムが、ピクピクと痙攣。

 いまだ動いているのもいるけど、殆どが動かなくなっているので問題なし。

 松明を背嚢から取り出し、ランタンの火を松明に移して、進行の障害になる弱ったスライムを松明の火で倒していく。

 最弱ということもあって、軽く火をつけるだけで簡単に倒せる。

 こんなにも脆弱なスライムを目にすれば、ショゴスは成り上がったな。と、感心してはいけないんだけども、感心してしまう。

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