PHASE-1202【川縁】
「家!」
「却下!」
「なぜですか! 昨日も出さなかったし!」
「出せるわけがないだろう」
「だからなぜです。旅をしている時はいつもお手軽に出すじゃないですかっ!」
窓から飛び出せば興奮しながら俺へと詰め寄ってくる。
扉から出ろと言ってやりたいが、まずは――、
「理由は皆と一緒じゃないと駄目だからだ」
と、説明。
「我々は――」
「特別じゃねえよ」
これから一緒に命をかける面々と行動しているにもかかわらず、自分達だけがテントや幌馬車などを使用せず、しっかりとした造りからなる家を召喚してそこで寝泊まりするなんて出来る訳がない。
そんな無神経なことをしたら、たとえ家の中にいたとしても、外から注がれる周囲の目が痛くてかなわないからな。
俺という小心者にはそんな蛮勇は振るえん!
「皆と一緒。ちゃんとテントを張ったりするんだよ。お前はその馬車を使用できるんだから恵まれているんだぞ。不満を漏らさないように」
「結構、寒いんですよ」
「だったら着込めばいいだろう!」
「そんなぁ……」
「弱々しい声を出すな。お前はロードウィザードのコクリコ・シュレンテッド様だろうが」
「で、あります」
「冒険者が贅沢を言うなよ。王都に戻ればお前は位階が上がるんだからな。他のギルド冒険者の範となる立場になるんだぞ」
「で、あります」
「侵略者のカエル軍曹みたいな返しはいいので、範を示すようにしっかりと働くように。川から水を汲んでお湯にする。皆が体を拭けるようにな」
「了解であります」
「ならば良し! 行くがいい!」
ふて腐れることなく素直に近くの幌馬車からバケツを手にして駆け出していくところは成長なのかな。
今までだったら悪態をついたり、俺に蹴りを入れるなりしてから行動に移っていたからね。
それが無くなっただけでも成長だな。
「認識票を出しに使えば御しやすいの。それだけ位階が上がれば責任感が芽生えるって事なんだろうな。コクリコには高い位階を与えてやればそれに相応しい立ち回りをするかもしれんぞ」
「――無理だな。それ以上に調子に乗る方に傾倒するだろうから」
「――だの。ワシが言っておいてなんだが、無理だの」
「その点ギムロンは文句を言わないから助かるね」
「ワシは酒さえあれば地面で雑魚寝も余裕よ」
「正に冒険者」
「じゃろ」
やはり冒険者はこういったメンタルの強さが必要だよな。
まあ、ここに関しては俺もコクリコには強く言えないけど。
地面に雑魚寝は流石に無理だからな。寝袋は欲しいところだ。
「勇者――いいか」
「なんですネクレス氏? 何か必要なモノでもあります?」
「いや、満ち足りている」
今までの営みからすれば満たされすぎているとのこと。
「用件は?」
「途中で合流してきたキャラバンの連中から、ゴブリンに対しての苦情が上がっている」
「はぁ!? まさかゴブリンがこの集団に参加しているのが理解できないとかっていう差別的な事じゃないでしょうね!」
自分たちが合流してきたんだからね。
小さくて目立たなかったゴブリン達の存在に今ごろ気付いて文句とか言ってたら許さないよ。
ゴブリン達が気に入らないなら、この集団からは外れてもらうことになるね。
プリプリと不愉快だと口から漏らせば――、
「いや、そうじゃない。勇者でありミルド領主である公爵と行動しているゴブリン達だからと信頼はしているそうだ」
「素晴らしい考えですね。じゃあなんすかね?」
「商人たちが夜市を始めたわけだが、その中には保存食などもあってな。ゴブリン達が金を払うことなく勝手に食べ出したのだが、いかんせん公爵の軍勢の者達だということから、ゴブリン達に強く出られないようだ」
「…………」
「対応してもらえると助かるんだが……」
「…………」
「返事をしてくれないか?」
「うちのゴブリン達がすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
ネクレス氏の報を受け、翻訳担当としてルーシャンナルさんを引き連れ、夜市を始めている幌馬車の列へと向かって猛ダッシュすることになった。
ラピッド未使用だというのに凄く速かったよ。俺……。
――……。
「トホホでやんす……」
とんだ出費だった……。
あいつらアホみたいな量を食いやがって……。
感心したのは食い散らかすってことはせず、綺麗に食べていたことだけども。
以前、食事に困っていたからだろうな。食の大切さってのを理解していることはいいことだな……。
って、思わないと俺の個人出費がデカすぎて泣けてくる……。
トドメとばかりにミストウルフ達もゴブリン達と一緒になって食いまくっていた事が出費に拍車を掛けていた……。
「はぁぁぁぁぁ……」
まったく……。こんなにも重苦しい溜め息をするのも中々ないぞ。
――……うん……。あの場にコクリコとギムロンがいなかっただけでも良いとしよう。
二人があの場にいたなら、俺の出費はもっと凄いことになっていただろうからな。
と、ポジティブに考える事にする。
でも根っからの庶民である俺は、リンのダンジョンで手に入れた物でデカく稼いだけども贅沢は避けていたからな。
普段、使わない分、今回みたいな大人数の飯代の額を目の当たりにすれば、強い衝撃しかなかった……。
ふぅぅぅぅ……。
――……ん?
「おん?」
川縁に座り込んでいるのは――シャルナじゃないか。
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