PHASE-33【NOZOKI】
――……なんでこんなところで待機するのか?
昼間にだだ滑った演説をした俺は、未だにヘコんでいるのに……。
「まったくもって、ゲッコー殿は便利な物を沢山お持ちですね」
「喜んでもらえて何よりだ」
暗視ゴーグルを借りて、説明を聞けば、先生は器用に操作して、暗闇の世界を明るくするアイテムに感動している。
「凄いな」
と、同様にベルも驚きだ。
現在、俺たちは、昼間に調べた西城壁の内角部分に開いた穴を監視するように、ほこり臭い納屋の中で身を潜めていた。
「――――はたして正にですな」
と、先生が嬉々とした声を上げる。気付かれるのはまずいのか、そこはちゃんと小声だ。
暗視ゴーグルで捕捉したのは、一般的な平民の服装の人物。だが、フードを被って素顔は見えない。
ランタン片手に小走りで、穴の空いところへ近づいている。
肩幅と身長から男だというのは分かった。
「住人の服を着ているが、歩幅が均一。あれは間違いなく兵士だ。ここの兵たちと違い、練度が高い兵士だ」
歩き方一つで、相手の素性を予想するゲッコーさん。
兵と思われる男は、穴から外へと出て行った。
「よしよし。さあ! 戦の準備を始めましょうか」
ん? どういうこと? 先生の発言に、ベルとゲッコーさんは頷いているけども。
――つまりは、
「さっきの奴ってスパイですか?」
「すぱい?」
「間者のことです」
「その通りです。あの者が情報を流すことで、こちらに軍勢が向かってくるはずですよ」
「軍勢って、戦いが始まれば、こんなボロボロの城壁なんて簡単に崩れて、中に侵入してきます。容易く陥落しますよ」
そもそも未だに穴とか塞がってないし。
「本来ならすでに陥落していたんでしょうが、相手は余裕という名の怠慢に思考が支配されています。だからこそ、ちょっかい程度の攻めで、じわりじわりと苦しめて搾取を楽しむ遊戯に耽っております。怠惰の思考からこういう答えが生まれたのです。以前も言いましたが、戦いを終わらせる力を有している時は、時間をかけずにさっさと陥落させることが重要。兵員と物資の無駄に繋がりますからね」
喋々と先生が話す。
遊戯に走った思考のおかげで、俺がここに転生した時は、まだどん詰まりですんでいたんだよな。
どん詰まりでよかったんだよ。終わってはいなかったんだから。
早々に王都が終わってましたじゃ洒落になってない。セラもその辺は考えて、この世界に送り込んだんだろう。
すでに終わってたら、別の世界に転生させてただろうし。
で、どん詰まった世界に転生して、初っぱな召喚したベルの活躍で、オーク達を壊走させられた。
何が凄いって、召喚したばかりの王都での戦闘では、ベルは剣を二振りしただけだったな。
その二振りに、王都は救われた。
あの時は少数だったけど、あれが大軍勢だったとしても、問題なかったような気がする。
本気で怒らせてはいけないな。この中佐様は。
そして、王都が守られ、砦を陥落させたから、今回の戦いに繋げられるわけだ。
「どのくらいで攻めてくるかな~。先駆けの動員数で、本隊の規模を計算したいところですね。今回は遊戯ではなく、本気で攻めてくるだろうな~」
何とも楽しそうに先生は語る。
そもそもだが、本当に来るのだろうか?
――――三日が経過した。
王都の南西から、濛々とした土煙が上がっている。
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