PHASE-1340【煽り散らかす】
「では、オーガロード殿。良ければ名と役職を」
「我が名はアシオス・ハルダーム。この前線部隊の指揮官だ」
名乗りと共に全体を見る。
兜は装備しておらず、顔全体を見る事が出来る。
青い肌。金色の蓬髪と同色の無精ヒゲ。
蓬髪の生え際部分からは、反りのある二本の角が生えている。
髪やヒゲとは違い、装備は豪奢。
白銀に輝くフルプレートの縁を彩るのは金色。
純白のマントには、金糸からなる刺繍を差し色として使用している。
白と金が大好きなようだ。
豪奢な姿は、そのまま自身の自信を表現しているかのようだった。
「オーガロードにして、この前線部隊の指揮官となれば、首級としては上々ですね」
「小娘。この俺の首をすでに落とすつもりでいるのか?」
なんともあり得ない事を発するものだとばかりに、嘲る口からは長い牙。
自らの手を手刀にして、トントンと首を打ちつつ問うてくるアシオス・ハルダームと名乗ったオーガロード。
嘲笑に対し、
「無論そのつもりです。ここまでの道中は何とも歯ごたえのない手合いばかりでした。指揮官アシオス・ハルダーム。この私を滾らせ、楽しまてくれることを期待していますよ」
ハルダーム以上の嘲笑と、喋々とした上からな発言で返すところは、流石はコクリコだ。
「生意気な物言いの小娘だ」
ぐるりと首を動かしながら発せば、やり取りの間に手早く展開してきた連中からドッと笑いが上がる。
コクリコの発言が生意気すぎて怒りを通り越して笑えてくるといった発言が、取り巻き達から上がってくる。
不可能な事を言えば、後に残るのは恥と後悔。といった知的な発言も耳に入ってくる。
多方向から声を向けられる当の本人は、
「フッ――」
と、鼻で笑って返す。
その余裕ある笑いが気に入らなかったのか、身長が五メートルを超える存在が、小柄な少女を見下ろしてくる。
というか、ここの精鋭や幹部以上の連中はデカいのばっかりだな。
「何がおかしいのだ。小娘?」
「なに。貴方方と同じ理由ですよ」
「ん?」
「我々の言動がおかしかったから、貴方と取り巻き達はこちらに哄笑を浴びせてきたのでしょう。だから私も嗤ってやったのですよ」
「ほう、我々に同調する気があるのかな? ならばこちらで重く遇してやってもいいぞ。実力は聞いているからな」
なんとも分かっていないことを言ってくるもんだ。
まあ、相手も冗談で言っているだけなんだろうけども。
コクリコの向ける小馬鹿にした表情で理解はしているだろうから、強者の余裕ってのを見せたいってところなんだろう。
だが、そんな余裕を見せても駄目なんだよな。
「貴方は馬鹿なんですか?」
「んんっ!!」
シンプルなストレート発言に、言われた方は目をギョロリと見開く。
余裕な姿を見せようとする見栄張りの神経を逆撫でするのが三千世界で一番にうまい存在は、コクリコだと俺は思っている。
「ついさっき言ったばかりでしょう。首級をいただくと。なんでそんな相手と行動を一緒にしないといけないんですかね? もう一度問いますが、貴方は馬鹿なんですか?」
二度目の馬鹿発言は口端を吊り上げての嗤い。
「私が嗤ったのは、取り巻きが貴方のご機嫌取りのために、面頬の奥で作り笑いを浮かべて哄笑しているであろう姿と、それに気分を良くしている貴方の満足げな表情があまりにも恰好の悪いモノだったので、自然と鼻から嗤いが漏れてしまったのです。お互いに相手の愚かさを嗤ったわけです。こちらは愚かではないですけども」
ここまで馬鹿にすれば、こちらに浴びせていた哄笑もピタリと止まってしまう。
そこを見計らったかのようにして、
「見てくださいよトール」
と、コクリコ。
「見てるよ。余裕ぶっている分際で、お前の発言が大層気に入らなかったのか、ドンドンと顔が真っ赤になってきているな。青鬼が赤鬼に姿を変えようとしている」
「確かに」
と、ここでコクリコが嘲笑に更なる拍車をかける。
やれやれ、とんだ挑発っ子だよ。なんて思いながらも、俺もそのコクリコに乗っかって挑発している時点で、相手からすれば殺意MAXな対象なんだろうけどな。
俺達の後方では、パロンズ氏が俺達のやり取りにあわあわとしていた。
この程度でそうなるなんて、まだまだですね。パロンズ氏。
「まったくこちらが優しく提案を出してやっているというのに」
お、まだまだ余裕な姿を見せようとしてくるね。
太鼓持ちみたいな部下の手前もあるからな。度量の大きさを見せないといけないってのもあるんだろうな。
オーガもロードとなれば大変だな。
――……ん? オーガロード――か。
「お宅、オーガロードだったな」
「散々に名乗らせておいて覚えきれない。そちらの勇者も大概におつむの出来が悪いようだな。小娘」
「ぬぅぅ……」
足を掬わせるような発言を許してしまった。
肩越しに見てくるコクリコの琥珀色の瞳が鋭く俺を見てくる。
挑発していたのに挑発されないでいただきたいですね! ってことを目だけで伝えてくる。
まあ、それはさておき、
「
「――ほう」
片方の眉だけを上げての返事。
この言動で間違いなく巧鬼ってやつらの一人というのを理解した。
――そうか。コイツが巧鬼っていう、千のオーガロードからなる
ド派手な装備が如何にも特別な存在だというのを伝えてくるもんな。
「それで、この俺が巧鬼と分かってほくそ笑むのだからな。随分と自身の力に自惚れているようだな。勇者」
おっと、表情を崩していたか。
「これは失敬。力を試せるのはありがたかったからね」
「なにぃ!」
上がっていた眉が更につり上がる。
失敬から続く発言がもの凄く不快だったようだ。
でもそんなことはお構いなしとばかりに、
「いやね。お宅をここで簡単に倒すことが可能なら、残りの九百九十九人を相手にしても問題ないと思ってね」
と、平然と口から出す。
自分で言っておいてなんだが、何とも生意気な言い方だよね。
まっ、相手が相手なのでまったく気にしないけども。
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