PHASE-1339【上位オーガ】
――見えてくるのは防御壁。
最初のものに比べれば背は低く、三メートルほど。
でも造りはこちらが上。土と木材の防御壁だった最初のものと違って、ここのは土よりも木材を多用したもの。
「まあ、強度はそこまで変わらないだろうけどな」
こちらの火力からすれば、最初のもここのも強度に違いはないと思えてしまう。
「これからそちらにお邪魔しますよ~」
コクリコの大音声。
――しかし反応は返ってこない。
「これは完全にこちらに恐怖していますね」
「いや、違うと思うぞ」
逃げ出した形跡もないからな。こちらを誘い込もうとしていると考えるのが普通だろう。
壁に沿って目を動かせば、壁よりも背の高い門構え。
こちらの呼びかけに鉄門が開くというようなアクションは起こらない。
余裕からか。恐怖からか。
逃げ出した形跡がないから前者なんだろうけども、物見がいないのは不気味だよ。
ともかく――だ!
「門が固く閉ざされているのなら――」
「強制的に道を作るだけです」
壁の向こう側に伝わるように発せば、コクリコが更に声を大きく発して続き、アドンとサムソンを自身の周囲に待機させる。
初手の壁同様、バランスボールサイズのファイヤーボールで破壊しようと考えているご様子。
「今回は俺も協力しよう」
「必要ないですけど」
そう言わないでもらいたいな。ティーガー1を久しぶりに召喚したんだからな。
せっかくだから、もっと活躍をさせてやりたいってもんだ。
「次弾は徹甲弾であるAP弾から、榴弾であるHE弾に変更」
口に出しつつ、プレイギアにてボタン操作。
ディスプレイのAP弾の文字がHE弾に変わったところで、
「コクリコに合わせるぞ」
「では合わせてください」
ティーガー1からコクリコとパロンズ氏が距離をとる。
発射時の衝撃がどのくらいなのか分からないので、距離を取ってもらった方がありがたいからね。
なので俺もキューポラから出していた体を引っ込めて車両内部に戻る。
「では行きますよ!」
コクリコがバランスボールサイズからなる三つのファイヤーボールを顕現させ、壁へと向けて放つ。
コレに合わせて俺もL2トリガーで照準を定めてからR2トリガーを引く。
大気を劈く轟音と衝撃が生じ、HE弾が壁へと向かって飛んでいく。
コクリコからわずかに遅れての発射だったけど、着弾は俺の撃ったHE弾の方が先だった。
壁へと撃ち込んでしばらくすれば大きな爆発。これが榴弾の特徴なんだよね。
徹甲弾と違って貫通力は劣るけど、建物なんかを破壊する時などは榴弾の方が有効。
HE弾の爆発に続くように、コクリコのファイヤーボールが榴弾の側の壁に直撃。
派手に木っ端と土煙があがる。
「ふむ、今回のも素晴らしい威力」
と、コクリコが自画自賛すれば、
「先ほどと同様の感想になりますが、破城槌いらずですな。お二人の力を目の当たりにすれば、更にそう思います」
「凄いよ兄ちゃん」
パロンズ氏とミルモンによる称賛。
堅牢そうな木壁などなんの意味も無いとばかりに、着弾地点とその周囲から壁を消し去ってくれる。
ティーガー1の榴弾もだけど、やはり強化されたコクリコの魔法もとんでもない威力だ。
いや、むしろ勝っているような気もする。
ファンタジー世界の凄いところは、個人の能力で戦車の火力を超えることが出来る事だよな。
しかもそれを成したのがコクリコなんだからな。
初めて出会った頃のファイヤーボールからしたら別物すぎる。
「さあ、道は出来ました。さっさとお邪魔しましょう」
当人は恐れるものは無しとばかりの強い足取りで歩む。
まずはティーガー1を盾にして進むのがセオリーなので、コクリコを追い越して先にお邪魔する。
「それにしても――」
壁を破壊したとろこからお邪魔し、キューポラから上半身を出して周辺の確認。
「壁はあっても、土嚢やら堀ってのがないな。中央なんだからもっと防御に力が入っていると思ったんだけどな。攻められても問題ないって自信の表れなのかな?」
「その通りだ」
俺の継いだ呟きに返してくれる存在が、ゆったりとした歩みでこちらへとやってくる。
壁の内側は移動時に目にしてきた竪穴住居の大型版。
地面には石畳も敷いてあり、ここだけは特別といったところ。
「どうも、お邪魔してますよ」
「ならば門から入ってほしいものだな」
「こっちが呼びかけても反応がなかったので、無遠慮に入らせてもらいましたよ」
巨大な門に相応しい存在の登場。
「ここの茶坊主さんですか? ここの主に会わせてほしいんですけど」
「なんともふざけた事を口にする小僧だ。いや勇者だという話だったな。その面妖な鉄の象も勇者だからこその乗り物か?」
こちらの事はちゃんと耳に入っているようだな。
「知られていて何より」
「軍監殿から聞いているからな」
「では茶坊主さんと軍監殿の関係性はどういったご関係で?」
「一応は上ということになる。なので茶坊主ではないな」
この森を根城にしている
「随分と豪奢な恰好なことで。ここの指揮官殿。名を聞いても?」
「聞きたいのならば先に名乗れ」
常套句な返しだね。
――まあいいでしょうよ。
相手がここの総大将となれば、こちらも堂々と名乗らせてもらおう。
「俺の名前は遠坂 亨。またの名を――異世界のミハエル・ヴィットマン!」
以前、異世界のオットー・カリウスと名乗った時はゲッコーさんに怒られたけども、今回はいないのでイキらせていただきます。
「勇者となれば、異称も多いのかな?」
「まあな」
異世界の〇〇シリーズもこの一年で結構、名乗ってきたもんだ。
「で、豪奢な指揮官殿。頭の角と風体からしてオーガ――でいいよね?」
「オーガロードだ。訂正しろ!」
「それは失礼」
オーガの上位種であるという事に誇りを持っているようで、強い語気で訂正を求めてくる。
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