エルフの国

PHASE-1024【げえっ】

 ――――。

 

 マジョリカ達と別れ公都を離れ、ノクタスク平野を南下。

 ――――ブルホーン山の要塞へと到着。

 王様たちは雪中行軍ってのは慣れているから大丈夫とか言っていたけど、正直、大変だった。

 

 俺ではなく――、


「よくやったぞダイフク」

 褒めて首部分を撫でてあげれば、ブルルとご満悦。

 雪が深かろうがお構いなしに歩き続けることが出来るという気概が伝わってくる。


「ご苦労様でした」


「俺の名馬がね」

 門前で待ってくれていた要塞兵の中の一人が、俺達の雪中行軍を労いつつ、俺の発言でダイフクの方にも労いの言葉をかけていた。

 サラブレッドのような馬体からなるダイフクの足で、雪山を移動してきた事には心底おどろいていた。

 この辺の馬は農耕馬みたいな馬体からなる足が太いのばかりだからね。

 ダイフクとは真逆の馬体だもんな。


 俺達がここへと到着するのを待っていた要塞兵たちは、挨拶を済ませれば直ぐさま温かいスープを提供してくれる。

 その後、要塞内で暖を取りつつ歓待を受け、一日が経過。


 天が俺達の移動を見守ってくれているかのように晴れ渡り、爽快な青空の下を移動しようと要塞から出ようとしたところで、


「げえっ」

 と、JLTVの方から声が聞こえてくる。

 そのまま関羽と続きそうなリアクションの声を発したのはシャルナだった。

 車内を覗けば凄く嫌そうな表情を浮かべている。

 

 原因となったのは――、前日ノクタスク平野方向の門から入って、本日ウルガル平野へと続く開かれた門から出る時、そこで数人の人影を見たことによるもの。


 その人影は長く美しい金髪を靡かせている方々だった。

 雲一つない青空。地面の雪が日の光を反射し、美しい金髪が更に際立って輝いていた。


 人間の金髪とはまた違い、細い金糸を思わせる髪。笹の葉のような形をした長い耳が特徴。

 既視感があるのはシャルナと同じだからだろう。

 つまりは、エルフの方々。

 シャルナのげえっという美人が発してはならない残念な声もしっかりと耳朶に届いたようだった。

 その証拠に、目の前のエルフさんの長い耳がシャルナの発言に連動するように、ピクピクと動いていたからね。


「おいシャルナ。お客さんだぞ」


「分かってるわよ!」

 なんでそんな不機嫌なんだよ……。

 そう言えばコイツ、カリオネル討伐の時に協力してくれたエルフの皆さんに対しても嫌そうな感じで対応してたし、コソコソとしてたな。

 

 いいとこのお嬢様だってのは何となく分かっているんだけど、間違いなく跳ねっ返りで周囲を困らせるお嬢様なんだろうな。

 ――……二千歳ちかい年齢に対してお嬢様ってのも凄く違和感があるし、その歳で跳ね返りってのもなんだかな……。

 下車し、正面で待ってくれているエルフさん達の方向に足を進めて発した一言は、


「なに?」

 と、腰に手を当ててのぶっきらぼうな発言だった。

 この態度に、下馬して待っていたエルフさん達の肩がそろって落ちたのが見て取れた。


「シャルナ様……」


「「「「様!?」」」」


「後方、声を揃えて驚かない」

 いいとこの娘とは想像していたけども、様で敬称される立場なんだな。

 以前のエルフさんもシャルナ殿って呼んでいたし、かなりの権力を持った一族の娘なのかもしれん。

 王族って質問には否定で返してきたけど、それに近い存在とみた。


「それでなんの用なの? ルーシャンナル」

 と、呼ばれた中央に立つエルフさんが恭しく一礼。

 苦笑いを湛えつつもしっかりと礼をするあたり、シャルナはやはりお偉いさんのようだ。


「この地の戦いに参加されたカーミルト様に、近いうちに顔を出すと言っておられたそうで」


「――――記憶にないわね」

 お! 政治屋さんかな?


「ええ……」

 ルーシャンナルってエルフさんが苦笑いから困った表情に変わったので、


「言ってた。言ってましたよ」

 と、シャルナの後方から俺が援護射撃。

 すかさずシャルナが俺を睨んでくる。

 それに対して肩を竦めておどけてみせる俺氏。

 それに対して大きな舌打ちで返してくるシャルナ氏。


「新公爵様が証人となってくださいました。さあ、短い期間でもよいので国に戻ってください」


「ええ~」


「ええ……」

 こっからだとシャルナの背中しか見えないけど、ルーシャンナルさんの同音による返しと表情で、シャルナの表情は想像できる。

 シャルナのヤツ、本当に嫌な顔を作って、エルフさん達を見ているんだろうな。

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