PHASE-86【オロロロロ……】
「ここは話し合い――――」
ひよる俺。
だが、間髪入れずに、
「事ここに至っては、そうはいかん」
至ってはって……。俺たちこの港町に来て一時間も経ってないぞ……。
女性を蔑ろにする行為があると知れば、それをする連中は許さないようで、話し合いも必要ないと思っているご様子。
「こんにちは」
港から民家へと赴き、家のドアをノックして挨拶。
――……反応は返ってこない。
これで十数軒まわっている。保険の営業さんって大変な仕事をしていると、尊敬してしまう。
そして、日本に戻ることが出来て、一人暮らしなんか始めたら、営業の人には優しくしようと誓う。もちろん、悪徳セールスだけは、木で鼻をくくる応対だがな!
「――――いよいよ最後だ」
立派な外観。
本来なら綺麗に芝も整えられて、木柵も建物の外周に沿って立てられていたんだろう。
今となっては、庭の芝は無造作に伸び、柵も強い衝撃を受けたのか、折れたり傾いている。
玄関へと続く、観音開きの木の門も片方は壊されていて、門としての体を成していない。
崩れた門には明らかに利器が打ち込まれた後がある。刃幅からして斧だろう。海賊というより、どちらかというとヴァイキングのイメージだな。
「ここが町の長の家か」
コクリコがここを訪れた時に調べていたみたいで、俺たちが担当する範囲にここが含まれていた。
「門も開いてるし、お邪魔してみる?」
継いでベルに語りかければ、
「そうだな」
と、フードを目深に被った二人が壊された門から入っていく。
端から見たら、スゲー怪しいよな。
――ドンドンと、ノック。
ここまでスカだったからか、思いの外、俺のノックには力がこもっていた。これでは、更に怯えて出てこなくなって――――、
「お?」
ガチャリとドアノブが動く。
ゆっくりと開かれれば、ドアノブを握る手は骨張っていた。
以前の王様もそうだったけど、弱々しい手だ。
じっと、手を見ていると、
「離れろ」
俺の襟首を引っ張るベル。「ぐえっ!」と、情けない声を上げてしまう……。
急に引っ張ったベルに対して不満はない。
引かれた瞬間にドア向こうから、ギラリと光る物をすれすれで回避することが出来たからだ。
「あっぶねぇ」
毛穴が開いて、どっと汗が噴き出した。
「……出て行け」
フッフッと昂奮して、刃渡り10㎝ほどの果物ナイフを震える手で握っている。
手にするのは、白髪交じりの頭頂部が寂しいおじさん。
おじいさんにも見える。心労などが祟っているのか、実際の年齢より老けて見える。
おじさんの後ろに目を向ければ、若い女性が柱の陰に体を隠しながら、こちらを窺っている。
女性と目が合えば、おじさんの呼吸は更に荒くなり、果物ナイフを大きく振り上げて、俺に斬りかかってくる。
バックステップで躱す。
俺もそこそこの白刃と向かい合ってきたからな、胆力もついてきてるから、この程度での斬撃では仰け反るほどではない。
恐怖で目を閉じることもなく、しっかりと腕と刃の動きを目にする事が出来る。
「くそ……。もう耐えられん。ワシの命と引き替えにせめて一人だけでも」
なにそのおっかない
「待ってください」
フードをとって素顔を見せる。
おじさんは関係ないとばかりに斬りかかってくる。
ひらりと横移動で躱して静止を求めるも、中々に聞き入れてくれようとしなかったが、ベルがフードを取れば、
「女だと……」
「俺の仲間です。俺たちは海賊ではなく、それを討伐にんぐ!?」
腹……パン……、だと。
容赦のない腹パンをなぜかベルは俺に見舞う。
「……!? オロロロロロロ…………」
「おい! 人様の玄関先で!」
お前が殴るからだろうが! なんでそんなに嫌な顔すんの……。被害者みたいなポジションだな。それ俺のポジションだから……。
――……呼吸を整えてから、吐いた事をあやまる。
そのおかげか、警戒は解かれた。
「……で、なんで腹パン?」
「まだ信頼が確定していない中で、討伐と口にするな」
もし海賊とつながっていたら。という可能性を考慮しての事みたいだが、それなら最初みたいに、襟首を引っ張って止めればよかったと思うんだけど……。
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