海賊退治
PHASE-85【港町レゾン】
全体を眺められる小高い丘から町を眺めてみる――――。
木造平屋の建物が多い。
海からの風が強いからってことなんだろう。台風が多い沖縄は、平屋が多いって聞いたことがある。
同じ視線の小高い場所には、二階建ての建物。
多分だけど、あの辺がこの港町の歓楽街みたいなところだろう。
二階建ての建物の周囲には、娯楽施設があるようだ。
コクリコが話を盗み聞きしたのは、いま正に眼界で捕捉している二階建ての建物だった。
あそこがこの町一等の宿屋だそうだ。
――――四人で周囲を警戒しながら歩くが、人通りはまったくない。
小さな町だから、誰かしらと遭遇しそうだが、それがない。人っ子一人いないってのは不気味だ。
修繕されていないドアが半開きになっていて、風が吹けばキィキィと、寂しさに拍車をかける音を奏でている。
「こんなんだと、宿屋に行っても経営してなさそうだな」
現状から考えれば、王都の城壁詰所より不衛生そうだから、使用したくはない。
「場末の宿屋でも使えませんよ。町全体が海賊の縄張りですから。今は駐在しているのが少数いるだけで、大部分は余所での搾取を行っているようですが」
流石に現地民がいると、こんな時は便利だ。
異世界から来た俺たちじゃ、その辺の情報は細かくは得られていないからな。未だに情報収集のネットワークも構築されてないし。
更に先を進もうとすると、
「待ってくださいベルさん。マントを羽織ってください。フードも忘れずに」
と、コクリコが指示。
王都から出る前に、最低限の旅支度はしているので、雨や土埃に対応するマントを貰っている。俺は元々のがあるからいいけども。
「なぜ?」
マントを羽織りつつ、ベルが問えば、返ってきた答えは簡単。
美しい女性は目立つ。だそうだ。
よそ者が町の中に入れば、住人は不安がるし、何より海賊たちが攫う対象とする。
この攫うという部分で、ベルの表情はみるみる険しいものに変わる。
「オークと変わらないな。近寄れば殲滅するだけだ」
今にも歓楽街に突撃しそうだったので、この町の事をまず知ってから対策を考えようと、押しとどめる。
「じゃあ、一時間後にここで」
距離もそうだけど、時間の単位も俺がいた世界と同じだから助かる。
「じゃあ、行くか」
「ああ」
攫うという発言から不機嫌になったベル。
そんなベルと俺。ゲッコーさんとコクリコのツーマンセルに別れて行動。
本来ならおいしい状況なんだけども、そうもいかない。
「…………ひどいな」
「うむ」
港まで移動してすぐに目に飛び込んできた光景。
さんざっぱら搾取するくせに、港町の命綱である船が、港に打ち上げられている。
正確には船だったものか。
船首部分がかろうじて残っていたから、船だと理解できた。
悉く破壊され、港は船の墓場となっていた。
こんな状態だと生活は困窮しているだろう。
「これって、砲撃みたいなもんかな?」
「海上からの投石だろう」
港の石畳には、ボーリングの玉みたいな石がめり込んでいる。それもいくつも。
さながら砲艦外交だな。
多種多様な嫌がらせをしていたようだ。
「町から出ようとしないのかな?」
「出ても一緒と考えているのだろう」
「なるほどね……」
絶望の淵に立って、そこから動こうと思えないくらいに追い込まれているんだろう。
辛いから、希望を見出す事をやめて、ただ明日までどう生きるか。というのを毎日考える日々なんだろうな。
「王都と同じだ。立ち上がるきっかけが必要なのだ」
「俺たちがなるしかないよな」
「ほお」
「いや、俺、勇者だし」
あの、お願いだから、その小馬鹿にした笑みで見ないで……。
くさい台詞だっただろうけどさ……。
救いだったのは、嘲笑ではなく、面白いといった感情からくる笑みってことだな。
「お前にも覚悟が出来てきたな」
笑みから一転して、双眸のエメラルドグリーンが輝く。
切れ長の目が俺に向けられれば、ゾクリとする。
気圧されるってわけじゃないが、圧は感じる。
「覚悟って?」
圧を受けつつも返せば、
「今度の相手は海賊だ。殲滅戦もありえる」
ああ……、そうだな。
せめて、殲滅ってのを、退治に変えてくれないかな。昔話みたいに懲らしめて、改心させるみたいな。
重い言葉だぞ。殲滅って。
「今度は亜人とは違うからな……」
返す口は重い。
言葉を一つ発する度に、重さを感じることが出来た。
亜人であるゴブリンやオークとちがい、今回は人間の命を奪う可能性がある。
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