PHASE-1285【ドワーフ兄弟】
「話はすんだみたいだな」
と、ドドイル氏の呼びかけに応じて、窟側からドドイル氏と同様の装備からなるドワーフが三人、歩み寄ってくる。
「すみませんでしたね。誰何をするのは厳ついのが担当なんで」
そう言ってくるのは、三人の中で真ん中に立つドワーフさん。
ドドイル氏と同じブラウンカラーからなる髪とヒゲの持ち主だった。
ドドイル氏との違いは、髪とヒゲを綺麗に整えているところ。
なので顔もちゃんと見えている。
物腰としてはパロンズ氏に近い。
「兄者がそうせいと毎回、言うからだろうが」
ドドイル氏がそう発せばカラカラと笑いつつ、
「何事もはじめが肝心だからな」
「肝心だと思うなら選ぶ存在を間違っているだろう」
ここでパロンズ氏が兄者と呼ばれるドワーフに嘆息まじりで発する。
「久しいな生真面目パロンズ。要塞側から来ているから友好的には接するつもりだが、こっちも力は持っていると思わせたいんだよ」
「虚勢を張ってるようにしか思われん」
「やっぱりそう思うか。今度から弟は後方待機だな」
「やらせといてその言い様! ひどいぞ兄者!」
弟のリアクションが面白いのか、ここでもカラカラと笑う兄者氏。
どうやら弟をおちょくるのが好きなようである。
だとしても時と場所を選んでほしいもんだけどな……。
「ここからはこの愚弟の兄である、ダダイル・ブライラスが案内させてもらいます」
「よろしくお願いします」
丁寧に会釈をしてくるので同様の所作で返す。
「ただし、ここからは馬と馬車は――」
今から足を踏み入れる坑道は、通常の馬車であれば通れるだけの広さはあるそうだが、流石に四頭立ての大型馬車となれば移動が困難だという。
困難であっても通行が出来るってのが驚きだけどね。
それだけで坑道の道幅と高さが想像できる。
「来訪者用に窟の側には馬小屋がありますが」
「預かってもらえると助かります」
「心得ました。公爵様の馬と馬車だ。丁重に扱えよ」
ダダイル氏がそう言えば、左右に立つドワーフ二名が手綱を手にして馬小屋があるという方向へと連れて行ってくれる。
「では、行きましょうか」
弟のドドイル氏とはここでお別れ。
バトンタッチで今度は兄であるダダイル氏が先頭に立ち、窟の中を案内してくれる。
――なだらかな下り坂となった通路を進む。
足元に目を落とせば、通路は格子状に刻まれている。足を滑りにくくした工夫が施されていた。
そして想像していた通り、内部はドワーフの背格好には不釣り合いな程に天井が高く、道幅が広かった。
これなら確かに大型の馬車でも移動は可能だな。
一頭立てや二頭立ての馬車なら移動はスムーズだろう。
坑道は支保工が施されており、天井と壁には坑木が大量に使用されている。
壁には等間隔に灯りがあるが、火を使用したものではなく、ネポリスなんかで見た魔法の輝きのもの。
ドワーフはエルフ同様に暗闇の中を見通す目を有しているので、この灯りはこの窟を訪れる外部の者のためにあるようだ。
「勇者様くらいになれば、当然、暗闇でも問題ないでしょうな」
肩越しにダダイル氏が問うてくるので肯定で返す。
だからといって、坑道の灯りを消されるのは困るのも事実。
この中だとタチアナが――、
「タチアナ、ビジョンは?」
「習得していません。ファイアフライがあるので」
だよね。ファイアフライが使用できれば暗闇なんて問題なしだもんな。
他にもダンジョン攻略には必須である、ランタンと蝋燭も持参しているそうだ。
位階が上がっても初心を忘れないのは素晴らしい事である。
対するコクリコの雑嚢には、蝋燭やランタンなんて入っていないよな……。
ギルドハウスでそういった物を買ったのは目にしていないからな。
買い物で選ぶ物でも、冒険者としての差が生まれるとも思うんだが、今回の冒険ではコクリコにアイテムを奢ってもらっているので、声に出すことはない。
コクリコの雑嚢に目を向けていたのだが、自分に目を向けていると思ったのか――、
「ビジョンは覚えておいても問題ないと思いますよ」
ポリシーを捨てて習得したからこそ説得力がある。だからコクリコが言ってくれ。
――と、雑嚢に向けた俺の視線を間違ったアイコンタクトとして受け取ったようだった。
でも習得には賛成。
暗がりの中を移動するとなると、ファイアフライはパーティー全体にとって有り難い輝きでもあるが、もしこういった坑道内を隠密行動しないといけない時は、強い輝きは相手に察知される。
それにファイアフライを使用中に他の魔法を使うとなれば、技量の高さを必要とするだろう。
外部のマナであるネイコスによる同時魔法発動より、体内マナのピリアを併用するほうが簡単だからな。
ピリアであるビジョンを使用し、会敵時にはビジョンを使用しながらネイコスを使用して全体をサポートするってのが可能となれば、タチアナは更に上に進める力を得ることが可能だろう。
なのでコクリコと一緒になってピリア習得を俺も勧める。
「励んで習得します」
インスタントではなく自力習得を選択するところが努力の人である。
感心すれば照れくさそうにはにかんだ笑みを見せてくれた。
うむ、可愛い。
「もうすぐ都市部に到着しますよ」
やり取りをしつつ坑道を進んで行けば、ダダイル氏から目的地はもうすぐだとの事。
都市部――と言われてもな~。
村どころか郊外すら見てないんだけど。都市部ならその周辺には郊外があってもいいものだろうが、ひたすらに坑木が通路を支えてくれている坑道という風景でしかなかった。
いくつか分かれ道があったけども、居住区ってのは目にしない。
数人のドワーフ達と坑道内で挨拶を交わした程度で、それ以外はひたすらに通路のみだった。
「おう、ダダイル殿。お客人かい?」
「そうだ、開けてくれ」
誘導に従って到着した場所は、ここから先は許可がなければ通さないといった意気込みが伝わってくる堅牢な鉄門の前。
門の前にはバトルアックスを手にしたドワーフが二人。
こちらを見上げてくる視線には敵意も警戒もない。
ダダイル氏が先導してくれているから問題ないといったところだろう。
「こっち方向から来たって事は、あんたらはトールハンマーって要塞からのもんかい?」
「ええ」
「酒持参かい!」
門番の仕事を忘れるかのように、二人のドワーフが返答した俺へと急接近。
「え、ええ……」
圧というより暑苦しさにたまらず仰け反ってしまう。
「ようこそアラムロスへ! 歓迎するぞ客人よ!」
「あそこの酒は美味いからの!」
酒を土産に持ってきているとなれば、ダダイル氏の先導以上に無警戒な姿を見せてくる。
酒という単語に嬉しそうな二人に対し、ダダイル氏は恥ずかしそうにうつむいていたが、坑道内で小躍りして胴間声を反響させる二人に、いい加減、腹に据えかねるものがあったようで――、
「静かにせんか馬鹿者ども! 勇者様の前でなんとはしたない姿だ!」
弟のドドイル氏に負けず劣らずな大音声を坑道内に響き渡らせれば、門番の二人だけでなく俺達も耳を塞いでしまう。
怒号の9.1サラウンドはたまったものじゃない……。
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