PHASE-1286【小っこいね~】
「この兄ちゃんが勇者だって? 本当かいダダイル殿」
耳に食指をつっこんだままの門番ドワーフさんの質問に、
「本当だ」
冷静になったダダイル氏が短く返す。
見えねえな~。なんてのが小声で聞こえてくる。
小声でのやり取りであっても、俺の耳には届いてますけどね。
まあ、慣れているけどね……。
ダダイル氏の弟であるドドイル氏のように、正面切ってはっきりと言ってくれる方が、精神的ダメージは少なくてすむんだけどな。
堂々と言ってくれない門番二人の視線が、俺の側に立つシャルナへと向けられれば、ハイエルフだと発して興奮する。
美しい顔立ちのハイエルフを随伴させているとなれば、勇者だというのも信じられるな。といったやり取り。
俺と俺が纏う六花のマントの存在より、ハイエルフというネームバリューの方が説得力があるようだ……。
「お前たち、いい加減にしろよ。これ以上の無礼は勇者様の怒りを買うと知れ。力を振るわれたらどうなるかというのは分かっているだろう。それを体験させてもらいたいのか?」
「滅相もない!」
ダダイル氏の恫喝を思わせるような言い様。
これに気圧されるように門番二人は後退り。
その気持ちを利用するかのようにして、門を押し開き通行を許可してくれる。
門を潜る時には、門番二人は俺に対して平謝りであった。
凄く恐れを感じているようだった。
俺ってそんなに恐怖を振りまくような存在には見えないと思うんだけど。
なんたって初対面だと、勇者としての威光も貫禄もない小僧にしか見えないんだろうからな……。
「失礼しました。思った事が直ぐに口に出てしまうのが、ドワーフの美点であり欠点でもありますので」
「いえいえ気にしないでください。俺に威厳がないのが問題なので」
――……思ったことを直ぐに口に出すか……。
慣れてきたとはいえ、真正面から勇者には見えないといった内容の発言をこの窟で言い続けられれば、心がぽっきりと折れるかもしれん……。
「心が大きな御仁で助かります。そしてその寛大さに比するほどの大いなる力を有している事も理解しております」
「そうなんですか?」
「ええ。勇者様の功績はこの窟だけでなく、この大陸で生きるドワーフ達にも伝わっていますよ」
――大いなる力ってのは鋼鉄の船の事らしい。
すなわちミズーリのことだ。
攻略不可能と思われていたシーゴーレム艦隊。
それを容易く沈めての勝利。
これを知ったドワーフ達は、魔王軍によって劣勢となっているこの世界の状況を覆すことが出来る! と、期待が芽生えたという。
ミズーリによる勝利の話は、子供たちを寝かせる時にもに使用されるそうだ。
しかし子供たちが話を聞く事で興奮し、逆に寝なくなるんですけどね。と、ダダイル氏は笑いながら話してくれた。
やるじゃない俺――というかミズーリ。
子供たちを喜ばせるおとぎ話レベルにまでなっているとはね。
喜ばしい話である。
ここぞとばかりにコクリコが、その話の中に私は出ていますか? と、問うていたが、ダダイル氏は苦笑いで返すだけだった。
その表情を見たコクリコは苦々しい顔になりながらも、
「もっと我が威光をこの世界に広めるように活動せねばいけませんね!」
と、誓いを一人で立てていた。
目的地の森では大活躍せねば! と、付け加えて――。
威光を広めたいが為だけに、思いだけが空回りして失敗しないことを願いつつ、ミズーリで思い出した事もある。
「ダダイル氏」
「なんでしょうか?」
「ここには大きな地底湖があると聞いたのですが」
「ええ、ありますよ。我らが生命線です」
「よければ案内をしてもらってもいいでしょうか」
「地底湖に――ですか?」
反応は疑問符を浮かべたものだった。
当然といえば当然でもあるよな。
勇者が地底湖にどんな用があるというのか? というものだろうね。
「ダメでしょうか」
「別にいいですが、今から向かう都心部から離れますよ」
「都心部に訪れるのに必要なモノを得たいので」
「ならば案内いたしましょう。可能ならば我らが王にも会っていただきたいのですが」
「もちろんですよ。素通りなんて非礼は出来ないですからね。だからこその準備でもありますから」
「それは良かった」
勇者であり公爵。そんな立場の人間である俺が、ドワーフの王に対して不遜なふるまいをしてしまえば、王都にいる王様たちに迷惑をかけてしまうからな。
なによりそんな事が先生の耳に入ろうものなら……。
「どうされました? 寒気でも?」
「いえいえ……」
先生が怒るところを想像すれば、背中に冷たいものが走り、自然と両腕を擦ってしまった。
――都心部へと続く坑道にも枝道は沢山あり、その中から地底湖へと続くルートへと案内してくれる。
さながらこの坑道は蟻の巣だ。ダダイル氏やパロンズ氏の案内がないまま土地勘のないのが歩き回れば、間違いなく迷う。
マッピングをするにしてもリンのダンジョンよりも複雑なので、方眼紙に記していこうものなら、とんでもない時間を有してしまうだろう。
――しばらく歩いたところで、
「お~い」
足を止めたダダイル氏が胴間声にて呼びかける。
呼びかけに対し、――ややあって、
「は~い」
といった返しがくる。
そして現れる存在。
「うわ~。これはベルは来たかっただろうな」
「そうだね」
応じてくれるシャルナに続いて、
「大混乱になって、ここの窟に迷惑をかける可能性がありますがね」
コクリコの発言に俺とシャルナは苦笑しつつ、頷くしか出来なかった。
「ねえ、兄ちゃん。コイツ等はオイラの仲間かなにかかな?」
「そう見えるよな~」
「でも羽も尻尾もないな~」
などと言いつつ、ミルモンは俺の肩から離れて飛翔し、近づいてくる面々へと自ら近づいていけば、同じ背格好の面々は、
「お空を飛んでる~」「すご~い」などなど、ミルモンの空を飛ぶ姿に感嘆。
ハーフエルフのようなちょっとだけ長い耳に感嘆発言が届けば、ピクピクとその耳を動かして上機嫌となるミルモンは、声を上げた面々の上をクルクルと得意げに飛んでみせる。
ミルモンを見上げてキャッキャと声を上げる愛らしい小人たちの身なりは、厚手からなるぶかぶかの青い服。
軍手のような白い手袋と、服と同色のニッカポッカのようなズボン。
オレンジカラーで先端に白いポンポンがついたナイトキャップを思わせる帽子。
ミルモンを見るつぶらな瞳は、征東騎士団団長であるイリーを思い出させる
とても可愛らしい小人たちだった。
顔や服に土埃がついているので、何かしらの作業に従事していたのが窺える。
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