PHASE-1287【可愛くて働き者】

「あの小人たちはもしかして――」


「ゲノーモスという種族です」


「やっぱり」


「ご存じのようで」


「ギムロンに話だけは聞いていましたから」

 こんなにも可愛らしい小人だとは思っていなかったけどな。

 ドワーフと一緒に暮らしているってことだったから、ヒゲモジャのルックスからなる小人を想像していたけど、モチモチお肌はミルモンといい勝負。

 

 こんな種族がいたんだよ。と、後でベルに教えれば、なぜ喚ばなかったのだ! と、お怒りになりそうな気がする……。

 かといって黙っていても、いずれは存在が伝わって、なぜ教えなかったのだ! と、お怒りになるんだろうな……。

 王都でのホウレンソウが出来ていないベルには、その部分では怒られたくはないけども。


「勇者様?」


「すみません。考え事をしていました。それでこの小人たちは主にどんな役割を担っているんですか?」

 土埃が付着していることからして、仕事に従事していると考えるべきだろう。


「ドワーフが出来ない仕事をしてもらっています」

 ――鉱物を手に入れるため、採掘現場でドワーフの大きな手が通らない狭い穴へと入り込んで鉱物を回収したり、どの辺りに鉱物があるかの情報を伝える仕事を行ってくれるという。

 手ぬぐいで口と鼻を覆い、ミニマムサイズの鶴嘴やスコップを使用して懸命に働いてくれるそうだ。

 働き者のドワーフも感心するくらいの働き者だということなので、かなりの働き者だというのが分かるね。

 おっとりとした性格と、コボルトのように平和主義で戦いとは無縁の種族だということだった。


「ダダイルさん。なにか御用~」

 飛んでる姿を褒め称えることでミルモンが上機嫌となり、一人をおんぶ。

 そのおんぶされたゲノーモスが、ダダイル氏と同じ目線の高さまで飛んでもらってから問うていた。

 上機嫌のミルモンだったが、一人を背負って飛ぶというのはキツいようだ……。


「地底湖に用があってな。開けてくれるか」


「は~い」

 可愛い声が快く応じれば、「こっち~」と、小さな食指を坑道の先へと向ける。

 指の向きに従うようにミルモンは、フンスゥゥゥ――っと息を漏らしながらも、一人のゲノーモスを背負ったまま飛行移動。

 降りろと言わずに背負って飛ぶのは、やはり称賛を受けたからか。

 格好悪い姿は見せられないという矜持があるんだろうな。

 魔界の勲功爵ってポジションでもあるからな。

 フラフラとなりながらも懸命に飛ぶ姿は可愛くもある。

 頑張れ勲功爵。


「まって~」

 飛んでいくミルモンの下を残りのゲノーモス達がちょこちょことした足取りで追いかける姿は可愛い。ベルがいたら卒倒していた光景だな。


 ――。


「と、行き止まり」

 ゲノーモス達の歩幅に合わせてゆっくりとした歩みで進み、最奥部まで到着。

 定位置である俺の左肩に戻ったミルモンは喘鳴状態で疲れ果てていた。


「さて、この先に続く道はないようですね。昇降機もないですし、転移魔法でしょうか?」

 コクリコの質問に、


「ちがうよ~」

 ミルモンの背中に乗って遊覧飛行を存分に楽しんだ一人が、こちらを見上げながら返答。


「ダダイル」

 正確な答えが欲しいという用件を名前だけで要求するコクリコ。


「我々の生命線ですので、ここから先の道は隠しております」


「え!? 俺達にそんな場所を教えてもいいんでしょうかね?」


「信用しておりますので。生真面目パロンズが同行しているだけでも説得力がありますからね。問題はないです」

 初対面でも信用してもらえるのはありがたいよ。

 パロンズ氏の存在も大きいようだけども。

 

 だけども――、


「ドワーフ王の許可が必要では?」


「友好的な種族には、自由に窟の中を見て回れるようにしておりますので。見せる事でこちらも信頼してもらいたいという気持ちもあるんですよ」


「そうなんですね」

 防衛寄りの王様のようだけど、信頼した他種族に対しては寛容な思考のようだな。


「じゃあ頼む」


「は~い――よいしょ~」

 ダダイル氏にお願いされたミルモンの背中に乗っていたゲノーモスが、ダボダボの服から身長の三分の一はありそうなカギを取り出し、壁の下にある小さな穴へと潜り込む。

 ――しばらくすれば、ガチャリとした音が穴の方から響き、


「ふん!」

 音を確認したダダイル氏が、穴の側の壁を押す。

 壁が押されて現れるのは、下へと続く階段だった。

 この隠し扉は、この通路で仕事を行うゲノーモスが監視役を担当しているという。

 こういった隠し通路がこの窟にはいくつか存在しているそうで、敵対者が攻めてきた時には非戦闘員の避難場所となったり、重要物を保管するために使用されているという。

 そんな事まで俺達に教えていいのか? と、思っている反面、信頼してくれているという喜びもある。

 

 ――話を聞きつつ下まで到着。


「広いじゃないですか」

 リンのダンジョンでイルマイユがいた地底湖よりも更に広いのがビジョンによってよく分かる。

 タチアナは階段をおりる時に使用していたファイアフライでの光量では、地底湖全体を見渡すことは出来ないということで、シャルナに地底湖の規模を聞いていた。

 

 地底湖の側面には沢山の金属製のパイプが上層へと延びている。

 あれを利用して水をくみ上げているという事だった。

 他にも桟橋と数艘の小舟があり、パイプになにか異常が起こった時は、小舟を利用してパイプの確認と修復をするそうだ。


「素晴らしいですね」


「有り難うございます」


「深さは?」


「水深はかなりのものですよ」

 それが分かれば問題なしだ。

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