PHASE-1288【ストレージ反応無し】

 ポーチからプレイギアを取り出して――、


「さあ出てこいミ――」

 ――いやまずは、


「潜水艦!」

 コレがあればフライング・ダッチマンがなくても何とかなるかもしれないからな。

 願いつつ発する…………も。

 ――……眼界に大きな輝きが顕現するという期待には繋がらなかった……。


「……何も起こりませんな」

 勇者の奇跡というのを耳にしていたダダイル氏は、眼前の地底湖に反応がないことに残念そうな声を漏らす。

 ダダイル氏よりも俺がガッカリしているんだけどね……。

 やはり俺のゲームストレージには潜水艦はないのだろうか。


 ――いや、まだだ!


「Uボート!」

 と、発し、


「伊号、伊四百!」

 と、立て続けに自分が知る範囲の名前を出してみる。

 が、眼界がまぶしさに支配されることはやはりなかった……。


「おやトール。まさかの奇跡が枯渇ですか?」


「そんなわけないじゃないか……」


「の、割に、声には張りがないですね」


「淡い期待でしかなかったけども、やはり得る事が出来ないと分かれば落胆だってするさ。コクリコ」

 これでフライング・ダッチマンを探さないといけないのは確定した。

 まあミルモンを召喚して、その力がこの世界で通用するってのが分かったからな。

 捜索が行き当たりばったりではなくなったのは救いだ。


「そんじゃ、気を取り直して――出てこいミズーリ!」

 タチアナが顕現させているファイアフライの輝きと、地底湖の闇を打ち消す強い輝きが発生。

 地底湖全体を光が支配する。


「「ぬぅおぉぉぉぉ……」」

 パロンズ氏とダダイル氏は強い輝きを目にしてしまい、うめき声にも似た声を漏らせば、丸太のような腕で顔を覆う。


「「「「うわ~」」」」

 反面、暢気なリアクションで俺やシャルナの背後から覗き込むようにして輝きを眺めるゲノーモス達。


「野営の時を超える輝きだね」

 と、ミルモンの声音は落ち着いたもの。

 ――が、輝きが徐々に弱まっていけば、


「「「「うわ~」」」」

 ここではゲノーモスとシンクロするミルモン。


「なんとまあ……」


「これほどとは……」

 ミズーリが顕現すれば、パロンズ氏とダダイル氏は顔を覆っていた両腕を力なく垂れさせて、やや猫背気味の前傾姿勢となり、突如として現れた鋼鉄の超弩級戦艦に目を丸くする。

 続けて、この船ならシーゴーレムの艦隊を容易く沈めるのも頷けると語り合っていた。

 驚きで見やる初見の面々と違い、相も変わらず壮麗にして華美。力の象徴。民主主義の強制デリバリーサービス。いつ見ても惚れ惚れする戦艦だ! と、俺は鷹揚に頷きながら艦首から艦尾を見渡す。


「さて――どうやって乗艦しようかな」

 桟橋に横付けされた小舟を利用するのもいいが、舷梯も出していないミズーリの甲板までのぼるには面倒くさい。


「シャルナ。レビテーション」


「ごめん。未習得」


「いや、謝らなくていいよ。俺だって覚えたいとか思いながら習得にはほど遠い立場だし。あ、そうだ。あれやってくれ。プロテクションの足場」


「お任せ」

 以前にもプロテクションを着地用に使用したこともあるので、それを応用してミズーリまで続く階段を作ってもらおう。


 ――階段といってもプロテクションとプロテクションの間には隙間が生まれてしまうが、そこはラピッドを使用すればなんの問題もなかった。

 畳一畳サイズのほのかに輝く障壁魔法を横に寝かせ、段差をつけて五つ展開してもらう。

 それを利用してピョンピョンと跳躍してミズーリの甲板へと着地。

 ラピッドは使用できないものの、自身もプロテクションを同時に三つまで出せるようになっているタチアナは、それを補助の足場として甲板まで来る事が出来ていた。


 皆して乗艦すれば、初めて乗る連中はミズーリの巨大さに触れて、驚きの声を出す事しかできないでいた。


 その中にはタチアナもいる。

 ただタチアナの場合、ミズーリの大きさもそうだが、それ以上に驚いていたのは、シャルナが五つの障壁を同時に展開したこと。

 長い耳で感嘆の声を受けるシャルナは、もっと出せるし、大きさもこれ以上のものが展開できると返していた。

 タチアナ自身に展開させたことに対して配慮が足りなかったとわびを入れるも、当人は、シャルナが本気で展開していなかったことを知り、自分とシャルナとの差があまりにも開きすぎていることに強い衝撃を受けていた。

 

 シャルナは約二千年を生きているからね。時間によるアドバンテージがデカすぎるんだよな。

 なので比較する相手ではない。

 タチアナはコクリコと比べるのが最適なんだよな。

 当のタチアナはもっと頑張らないと! と、言って、自信を無くすことのなく向上心あふれる姿を見せてくれたので、問題はないようだ。

 それを受けてシャルナもいい加減レビテーションくらい習得しよう。と、タチアナの頑張ろうとする姿に触発されていた。


 ――。


「よしよし。コイツで喜んでもらおう」

 木箱の中に入った緩衝材である藁をかき分けて、中身の瓶ビールとブランデーを眺める。

 それらの入った木箱をミズーリからいくつか拝借。

 ここぞとばかりにコクリコは缶詰や肉を漁って運び出していた。


「缶詰はいいけど、生肉なんてどうすんだよ」


「食べるに決まっているでしょう」


「いいけど、直ぐに食べような」


「そのつもりですのでご心配なく」


「お、そうか」

 直ぐに食べ終えられる量ではないけどな。

 コルレオンやパロンズ氏にも食材を入れた麻袋を背負わせているし……。

 せっかくだから生肉もドワーフ王のお土産に加えよう。

 酒には肴も必要だしな。

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