PHASE-1289【飲兵衛通り】
――必要分をミズーリから運び出す。
「シャルナ。この木箱やコクリコが持ち出した肉に、フリージングウィンドウを使用することは出来るかな?」
「レビテーションは無理でもそれくらいなら余裕だよ」
「中身が凍らないで、キンキンに冷えた塩梅で調節してくれる」
「お任せ」
注文が細かい! というような不満も漏らさずに応じてくれるのは有り難いし、頼りになる。
「――よしよし。キンキンに冷えている。これは喜んでくれるだろうな。寒い季節にこれを持っていくのはどうかと、やり終えてから思ってしまうのはお馬鹿な証拠だけども」
「いえいえ、その方法でその酒が最も美味くなるのならば、全くもって問題ないでしょう」
言いつつダダイル氏はどんな酒なのか気になるらしく、俺が両手で抱える木箱を凝視してくる。
やはりドワーフなんだな。酒に対しての欲望は非常に強いようだ。
以前と比べ、酒を抑えて王都で励んでくれているギムロンのストレスが溜まっていないかが心配になってくるな。
「ボクたちも飲みた~い」
と、ゲノーモス達もどんな酒なのか気になるようで、つぶらな瞳でこちらを見上げてくる。
愛らしい姿と所作だけど、酒を飲める年齢ではあるんだな。
――……見上げてくるだけなら良かったけど、俺の足にしがみついて、可愛い笑みを見せながら四人が這い上がってくる姿は、ちょっとしたホラーである……。
――最終的に俺の頭、右肩、うなじ、背中にお邪魔するといった形で収まった。
左肩のミルモンもいれて五人の小さくて愛らしい連中を体に乗せる。
この姿をベルが見たら、嫉妬のオーラを纏うことになるね。
――要塞で酒を積んだ軍用トラックを召喚し、木箱やコクリコが持ち出した肉と缶詰が入った麻袋を積み込み、地底湖を後にする。
――――。
「どうぞ」
「「「「おお!」」」」
地底湖から上層へと戻り、坑道を引き返して都心部へと到着。
行きと違って帰りはゲノーモス四人も俺の体に乗って同行。
しかし、
「何とも煌びやかじゃないの」
「もっと薄暗い場所だと想像していたのですがね。真逆でした」
明るさに感嘆を漏らすシャルナとコクリコが、俺の言いたかった事を代弁してくれた。
暗闇の中でも活動できる視力を持つドワーフ達が生活をする場所なのだから、灯りがあるとしても、周囲をわずかに照らす程度のものしか存在しないと想像していたんだけども――、
「華やかだな。まるで盛り場のようだ」
明るさに包まれる都心部をぐるりと見渡す。
大空洞の中に大きな町があるというのが、俺の乏しい発想力からくる感想。
ジオフロントと例えるべきなのかな。
土を盛っただけの原始的な家なんかに住んでいるのかと想像していたけども、
「普通に都会じゃないか」
「一応、ドワーフ達にとって中心地でもある窟ですので」
「ですよね~」
先頭を歩くダダイル氏が肩越しにこちらを見上げ、一体どういった場所を想像していたので? と、続けてくるので笑って誤魔化してしまう。
「それにしても素晴らしいですね」
「有り難うございます」
話を誤魔化すために発したわけではなく、思ったことを素直に口に出させてもらう。
手先の器用さは武具だけに活かされるだけじゃないってのが、建築物を見るだけで理解できた。
――均等な大きさで揃えられた煉瓦を使用した建物は美しいの一言――なのだが。
均等さに美しさはあるが、壁は真新しい煉瓦と古い煉瓦が混ざったまだら模様。
均等な煉瓦の美しさが際立つからこそ、新古の煉瓦壁もまた目立つ。
そして、それらの建物を煌びやかに彩る街灯は蝋燭の明かりではなく、ファイアフライを封じたであろうタリスマンを使用したもの。
街灯だけでなく、大空洞の天井部分にも沢山の灯りが取り付けられており、地下都市とは思えない程の明るさは、晴天の昼間の下を歩いているような錯覚を起こしてしまいそうだった。
「こんなにも灯りが必要なんですか?」
暗闇を見通せる目を持つドワーフには不必要な産物だと思うんだけど。
考えられるとするなら――、
「最近は隣接する要塞とも交流がありますからね。暗闇を見通す力を持たない者達への配慮でタリスマンを使用した灯りを採用しております」
はたして正に他種族のためだったか。
だが要塞から訪れる者達は、ビジョンが使える者が使者としてくるので必要はなかったとダダイル氏。
「ですがドワーフに良質な物を作ってもらいたいと思う商人達が、いずれはこの窟を訪れることになるかもしれませんからね。この採用は間違っていないと思いますよ」
「ええ、友好種族の方々をこの地へと更に迎え入れるというのは考えておりますからね。そういったことも考慮しての準備段階だと考えてください」
ドワーフ達が作り出す装飾品や武具。
旅商人たちには垂涎ものの一品となるだろう。
我先に飛びついてくるに違いない。
――地下都市の目抜き通りを進んで行く。
やはり他種族がここへと来るのはまだ物珍しいようで、結構な視線を浴びることになる。
特にシャルナを目にすれば、
ハイエルフはドワーフ達にとって、神聖な存在だったりするのかな?
エルフの前王と何代か前のドワーフ王とは親交があったってのは、マラ・ケニタルを制作する前の会話で耳にした。
そういった経緯もあるから、エルフの中で頂点に位置するハイエルフを特別に見てしまうのかもしれない。
「私にばかり視線が向いているような気がするんだけど」
「ハイエルフ様だから。そこは微笑んで手でも振っとけばいいさ」
「え~」
気恥ずかしさからなんとも嫌そうな声を上げるも――、
「……やるんだな……」
俺の提案に、素直に手を振って視線に応えるのは驚きだった。
美人ハイエルフのその所作にドワーフさん達も嬉しかったのか、木製ジョッキをこちらへと向けて会釈をしてきた。
ジョッキの中身はもしかしなくても酒だな。
目抜き通りの店にて楽しんでいる面々の方向から酒気が漂ってくる。
というか、この通りの店は全てが酒場なのか? とばかりに皆が皆、一様に酒を楽しんでいた。
露天では大小の樽をテーブルと椅子にし、喧騒の中で酒を楽しんでいる。
向かいの露天や店内からも楽しげな声が上がっていて、通りは活気に満ちていた。
「うう……」
「どうしたコルレオン!?」
足の運びが悪くなっている。
体の調子が悪いのか皆して心配すれば、
「よ、酔いそうです……」
人間よりも嗅覚が鋭いコボルトには、通りに漂う酒気がキツかったようだ。
ニオイが原因で既に千鳥足となっている。
「大丈夫か?」
「な、なんとか……」
と言うけど、足はふらついたまま。
通りの酒場で楽しんでいるドワーフさん達の酒の度数は、かなりのもののようだな。
ギルドハウスで給仕としても励むコルレオンを酒気だけでここまで酔わせるとは……。
流石は
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