PHASE-10【王城に入城】
「で、なにがそこまでベルヴェットを不機嫌にさせてんだ?」
呼び捨てが気に入らないのか、キッって睨まれてしまった……。
だが、問いに対しては、目を細めてから、顎をしゃくり上げる。
そちらを見ろと言わんばかりだ。
見ろと指示されなくても、眼前の物だから、嫌でも目に入ってくるけどな。――王城。
立派な鉄の城門に、堀、その前には土塁だ。
土塁の高さは三メートルくらい。土塁というよりちょっとした壁だな。
そこを突破しても堀があり、その先には市井を守る城壁よりも高い、二十メートルはありそうな城壁。不機嫌なのが理解できた。
「国民よりも自分を優先している王は暗君だって事か?」
首肯で返してくれた。求めていた答えだったようだ。この調子で気に入ってもらえれば、俺への忠誠ポイントが上がるかもしれない。
――……ちらりとディスプレイを覗けば、この程度で認めるか! とばかりに、ゼロのままだ……。
1ポイントくらいは上がってくれよ……。
「開門!」
案内してくれる兵長みたいな奴がそう言えば、重厚な音を立てながら、鋼鉄製の門が観音開きで開いていく――――。
「……二重かよ……」
呆れるね。同じタイプの門がさらに奥から現れたよ。一つ目の門より金属が新しい。
きっと王城を守るために、新たに造らせたんだな。本当に自分たち優先だな。
横からも嘆息が漏れたのがしっかりと耳朶に届いた。
――――二つ目も通過。さらに城の中へと続く門が現れ、そこも通過すれば、派手な赤色に金刺繍の入った絨毯の上を歩く。
案内する兵長より、更にワンランク上の装備をした近衛兵が守るドアの前へと到着。
――――開かれれば謁見の間だ。
「近くに」
覇気がね~。
追い込まれてんな。どいつもこいつも目の下にクマがあるぞ。
手招きをする王冠をした存在の前まで近づく。
髪型も整っていないボサボサで艶のない金髪だ。招く手も痩せて骨張ってる。
限界きてんな~。完全に詰んだ国だな……。
「兵達より聞いた。お前たちがオークの軍勢を容易く一蹴したと」
俺たちじゃないけどな。横に立つ赤髪美人が一人でやった事だ。
美人は、俺たちの側面に居並ぶ大臣たちを瞥見。
俺もそれを真似て見れば、玉座に座る奴と同じで、力がないのばかりだ。
一人だけ身ぎれいにして、りりしく立っているのはいる。鎧は綺麗に磨かれているが、そこかしこに戦いの傷が目立つ。
一人だけ生気が漲ってる感じだな。
あと、文官みたいなのにも一人、血色がいいのがいる。凄い出っ歯だけど。
でも、ベルヴェットは全体を目にして、ここの状況を判断し、ふっ――て、鼻で笑っていた。
周囲には聞こえていないみたいだけど、俺の耳朶にはしっかり届く。
瞥見が侮蔑の目に変わっている。俺としては、元の世界に帰りたいからな。ここで人間同士がいがみ合うのはよろしくない。
なので――――、
「そうです。自分たちです」
と、素直に応対する。
「「「「おお!」」」」
興奮と歓喜が混じった声が上がる。
もしかしてだけど、たった二人の存在で、この国が救われるとでも思っているのか?
藁にも縋る思いってのは目の前の状況の事なんだろうな。二人だけで一体なにが出来ると?
考える事をやめてるから、視野が狭くなっているみたいだな。
「貴公らは遠き地にて生を受け、降り立った者たちか?」
王様、玉座からプルプルと弱った足腰で立ち上がり、俺たちに近寄りつつ問うてくる。
やってくるじゃなく、降り立つという表現。
俺の事を知っているって事なんだろうか。
遠き地で生まれた、遠き地ってのは日本だな。で、降り立った、あそこがあの世のどこかは分からんが、地上に降り立ってるから間違いじゃないよな。
「はい、まあ」
「「「「おお!」」」」
なんだ? 周囲のお偉いさんは、RPGで言うところの、【○○の村へようこそ】としか言えない村人みたいに、【おお!】しか言えない要員なのか?
喜んでるのはいいけども、こんなガチガチに守られたところで、住人ほっぽり出して籠もってる連中を信用はしてないからな。
「お告げの通りだ」
「お告げ?」
王様、昨夜、俺の事を夢の中のお告げで聞いたらしい。
昨夜って、俺は今日死んで、すぐにこの世界に降りてきたと思ってたけど、タイムラグがあるのか? それともこの王様の作り話か妄想か?
半信半疑だったけど、王様が次ぎに口にした、漆黒のローブに、銀髪、銀眼の女神がお告げをしたというところで信頼できた……。
セラじゃねえか……。あの死神なにやってんだよ。
お告げでは、降り立つ者は、変わった服装、黒髪で、見るからに平凡な少年――――、とのこと。
その平凡な少年が、近いうちに貴男の目の前に現れる。
平凡な彼がこの世界を救う勇者だと伝えたそうだ――――。
よし! あのデカ乳をいつか心行くまで揉みしだいてやる! もっといい伝え方あるだろう! なんだよ平凡って。その部分は余計だ! 連呼してんじゃねえ!
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