PHASE-513【揺れる大地】

「結界を」

 迫るブレスに慌てることなく、対処を求める。

 シャルナとリズベッドならこの毒ブレスを防いでくれるだろう。


「私が」

 ここでリズベッドが俺たちの前へと出れば、


「ピーコック」

 唱えると、宙空から煌びやかな羽根がいくつも舞い落ちる光景。

 羽根が俺たちに迫る毒ブレスに触れていけば、毒のブレスが虹色に輝く光によって浄化されていくのが見て取れた。


「凄いぞ」

 脅威と思われた毒ブレスを防ぐのではなく、浄化によって無効化。

 防げば防御一辺倒になるけども、浄化となれば、こっちは攻撃にも打って出ることが出来る。

 頭上から水をかぶってお怒りの地龍だが、毒が無効化されて更に機嫌を悪くしたのか、前脚で床を引っ掻いている。

 火龍の時もそうだったけど、操られると知性があるような行動をしないのが特徴だな。

 野性的だ。

 強力だけど単純でもある。

 火龍は長である自分と違って、他は支配に対して抗いが弱いため、力の加減が出来ないと言っていたけど、荒ぶる姿を目にすれば、それも理解できる。



「グロロロロロ」

 再び吠えれば、今度は棹立つ地龍。

 前脚を勢いよく地面に叩き付ければ、地面が大いに揺れる。


「お、おお……」

 立っているのも難しい揺れが襲ってくる。

 地震も起こせるわけだ。


「アースクエイクとか普通に大魔法だよね」

 揺れながらも感心するシャルナ。

 天井からパラパラと落下物もあるけど、今のところは問題ない。

 何も言わずにリズベッドが俺たちの頭上に、プロテクションを展開してくれているし。

 守りに関しては、リズベッドがいるだけで本当に安心できる。

 とはいえ、棹立ちするだけで大魔法なんだからな。やはりそこは四大聖龍リゾーマタドラゴンの一柱だということだな。

 揺れが終わったところで、今度は枝分かれした角で、床を一度さする。

 擦った床は抉れ、うねのような形になったその部分が、徐々に盛り上がってくる。


「なんだ?」

 盛り上がりに勢いが出て来ると、人型へと変わっていく。

 ――――ゴーレムも造れるようだ。

 三メートルクラスのゴーレムが一度に四体。

 二足歩行で、頭部は自身の頭を模したような、角無しバージョンのデザインだった。


「流石は地龍ですね。放っておけばゴーレムを次々と大量生産しそうです」

 などとおののきつつも、


「ファイヤーボール」

 と、試す辺り、肝が据わっている。

 まあ、通用はしないわけだが。


「どいてろ。ここは俺の出番だ」

 火龍を封じていた所と同じ規模の広さ。

 だからこそ遠慮無しに使える。


「スプリームフォール」

 大魔法を発動。

 俺が発動したいと思っている場所に暗雲が立ち込めれば、シャルナのカスケードが矮小に見えるくらいの大瀑布が、地龍の直上から降り注ぐ。


「ガロロロロロロ」

 大きな鳴き声は苦しさを伝えてくる。

 カスケードは受け止めることが出来ても、流石に大魔法を樹木で防ぐことは難しかったようだ。

 農耕馬サイズの地龍は、大瀑布によって荒ぶる水の中へと飲み込まれていった。

 俺たちの所まで寄せる波は、デスベアラー戦の時とは違って驚異ではない。

 それでも瞬く間に、踝付近までは水かさが増す。


「これはやりすぎって事は無いよな」

 些か不安な声で俺に問うてくるゲッコーさん。

 言われれば俺だって不安になってくる……。

 

 火龍の時は、これが動きを封じる決定打になったと言ってもいい。

 といっても、火龍が心底でショゴスの支配に逆らっていたってのもあったけども、それでも大きな効果はあった。

 今回は、長である火龍より力が劣るとされる残り三柱の内の一柱。

 サイズもこぢんまりとしているから、もしかしたら……。

 ゴーレム達と共に流されて、死んだなんて事はないよね。


「――――ブロロロロロロロロ!!」


「ああ、よかった! 生きてた。流石は地龍!」

 瀑布が終息すれば、地龍は元々の位置から流されたようで、俺たちから離れた位置で立ち上がっている。

 やはりダメージは負っているのか、脚を震わせながら立ち上がる。

 生まれたての子馬のようだったけども、完全にお怒りなのは分かる。

 角を振り回しながら床を擦り、前脚をダンダンと叩き付ければ地震が発生。加えて鋭角に盛り上がる大地が、揺れで足を取られている俺たちに迫ってくるし、それに対応していれば、その間に地面からゴーレムがもりもりと誕生してくる。


「驚異だけども攻撃はパターンだな」

 地龍の攻撃はリズベッドがいれば防ぐことが出来る。

 ゴーレムはゲッコーさんが宙空から取り出したM72 LAWを直撃させて倒してくれる。

 こうなると、後は動きを封じればいいだけのような気もしてきた。


「パターンだと思い込むな。まだ隠している奥の手があるかもしれない」

 と、ベルは警告する。

 四大聖龍リゾーマタドラゴンの長である火龍は、リフレクタービット的な方法でレーザーのような雨を降らせたし、前方に並んだ魔法陣を通過する度に、ブレスが集束されて強力なレーザーにもなった。

 同じ聖龍なんだから、何かしらの攻撃方法が――――、


 うん?


「何かしらの行動を始めたぞ」

 ベルが言ったように、地龍は何かを隠している――というか、隠れようとしている。と、言った方が正しいのだろうか。

 

 多数の魔法陣が顕現する。

 角、頭、首、胴体に脚。

 それらに魔法陣が発生し、岩で出来た床が地龍の方へと集まり始める。


 命を持たない無機物が、まるで魂を宿したかのように動き始め、粘体のように形状を変化させて、地龍へと絡みついていく。

 絡みついた箇所から粘体状の岩石が硬質化。

 硬質して留まる岩石の形は、鉱物で出来たスケイルアーマーのようだった。

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