PHASE-514【引き籠もり】

「何を見入っているのですか! 攻撃ですよ! ファイヤーボール」


「ああ、確かにその通りだな」

 コクリコに悟らされて、はたとゲッコーさんも動く。

 わざわざ強くなっていく姿を黙って見ているのは愚者だと、M72 LAWを使用して地龍が纏おうとしている岩石の破壊に動く。

 俺が動けなかった理由は、理解を得られないだろうから口には出さないけど、合体をしている時に攻撃を仕掛けてはいけないというのが、日本人のDNAには刻まれているような気がしてね。 

 

 先に動く二人に続いて俺も動く。

 後ろを見れば、シャルナがカスケードを使用し、斬鉄も可能なベルは、


「一気に距離を詰める」

 カスケード発動と同時に接近して攻撃を加えると俺に伝えれば、あっという間に俺の前に出る。

 爆発音と轟く水流の音を耳朶に入れながら、ベルの背中を見つつ驀地。


『ガァァァァァァァァァァア』

 咆哮が先までとは違うものに変わる。

 爆発と水流が原因のものではないのは理解できた。

 接近を試みるも、体中に纏った岩石が礫となって俺たちに襲いかかる。

 絶対回避が不可能な面制圧。

 即座に俺達の前に障壁が現出し、攻撃を防いでくれる。

 肩越しに見れば、展開してくれたのは当然リズベッドだ。


「しかし、遅れた」

 発言とは別に、かすかな舌打ちがベルの方から聞こえた。

 岩石は地龍を完全に飲み込んでしまう。

 ゲッコーさんのM72 LAWによる攻撃も、表面を破壊するだけで、大きな破壊には繋がらなかった。


「ふぃ~……」

 舌打ちに続いて俺も嘆息。

 こうなるのね。


『グァァァァァァァ――――』

 バロロロ――――とかじゃなくなった咆哮には、先ほどのも含め、凶暴さが窺える。

 完全に別物。というか本当に別物。

 ついさっきまでお馬さんサイズだったのに。

 なんとまあ……、ご立派になられて……。


「これがパルメニデス様のお力です」

 リズベッドよ。そういう事は最初のうちに言ってくれ。

 お馬さんから象さん以上のデカいのになるなんて予想してなかったよ……。


「インチキ!」

 ちんけな悪態をつくのが精一杯だ。


「おいおい嘘だろ……」

 流石の伝説の兵士も、ポカンと口を開いて見ているだけ。

 目の前の巨体にあっけにとられていた。

 地龍は四足歩行から立ち上がり、二足歩行スタイルにチェンジ。

 T-レックスみたいになっているんですけど。


 岩で出来たスケイルアーマー状の鎧皮は、洗練された上品な光沢のある黒。

 体全体に鱗をあしらった妥協を許さないデザイン。

 大きな口には、なんでも噛み砕きそうな頑丈な牙が生え揃っている。

 頭部から背中に沿っては、槍のように長いトゲが生えていて、巨木を思わせる蛇腹状の尻尾は、全てをなぎ倒しそうな印象を植え付けてくる。


「……インチキ!」


「それしか言えないのか」

 呆れ気味のベル。

 いや、だってさ。


「どうすんだよ。あの地龍、岩の巨像の中に引き籠もったぞ。あれだと頭部のクリスタルは破壊できねえよ。空前絶後の引き籠もりじゃねえか。部屋の前に食事を置く母親が哀れだぞ」


「最後の例えは分からないな」


「だよね~」

 さて、余裕のあるような会話はしてみるけど、どうしたもんか。

 頭部はあっても、現在の頭部は岩で作られたものでしかない。

 あそこにクリスタルでも浮き出てくれればありがたいけども、現実は都合良くは行かない。

 ただの岩で出来た頭! これが現実だ。

 

 地龍のサイズからして、岩で出来た恐竜――岩龍と例えようか。岩龍の腹部に引き籠もっていると思われる。

 問題はどうやってあの岩の巨体から引っ張り出すかだ。


『グァァァァァ』

 本当に……、やる気満々だな。

 大木のような尻尾が、最接近した俺とベルに対し、床を削りながら横薙ぎで襲いかかってくる。


「凄いな」


「なあ」

 二人して跳躍で回避。

 ゴツゴツとした無機物然とした軌道ではなく。生物のように躍動的で流れるような尻尾の動きに感嘆する。

 姿は岩だが、動きは生物そのものだった。


「イグニース」

 尻尾の一撃を躱して未だ空中にいるところに、鋭利な爪からなる前足を俺に向けて振るってくる。

 T-レックスのような小さな前足じゃなく、筋骨隆々で巨大なものだ。

 炎の盾で防いだとしても、


「誰か!」

 防いでも俺の体は、バレーのスパイクにも似た一撃の衝撃によって、床に向かって一直線。

 火龍の装備でも全ての衝撃を受け止めることが出来ないのは、デスベアラーの攻撃でも理解できている。

 明らかにデスベアラー以上の一撃。床にたたき付けられたら、良くて瀕死だ。

 

「アッパーテンペスト」

 心底やばいと思ったところで、シャルナが唱えたアッパーテンペストが、俺の体を宙に舞わせる。

 風の衝撃は弱く、加減されているのが分かった。


「プロテクション」

 続くリズベッドが、空中にプロテクションを横板として展開してくれる。

 俺はそこに向かって体を捻りつつ足から無事に着地。

 二人のおかげで、地面に濃厚なキスをしないですんだ。

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