PHASE-512【地龍戦】
「ま、やってみないとな」
「その通りです。ライトニングスネーク」
うん。分かってた。こういう大舞台だもんな。
自伝のためには、ここで自分が先駆けとなった。と書いた方が、見る人の心を引き付けるもんな。
でもさ……。
土に雷ってね~……。
バチンと、電撃の蛇が鞭のように撓り、農耕馬サイズの地龍を叩く。
――……見るだけで万人が理解できる。
ノーダメージ。
大地系に雷系を唱えても、相性最悪だろう。
地龍ともなれば、パッシブでレジストが発動しているようなもんだろうし。
「我が最強魔法が……」
いやいや、デスベアラー戦でも効果なかっただろう。シャルナのカスケードがあったからこそ、通用したんだぞ。
「でもまあ、戦いのゴングとしてはいいのかもな」
相手もやる気になってきたようだ。
「バロロロロロ!!」
バインドボイスからの突撃スタイル。
床を踏みしめる度に、踏みつけた床は先端が鋭利な物に変化していく。
脚で地面を踏みしだいただけで、槍衾みたいな攻撃が出来るって事ね。
こちらまで届いた初手の槍衾は、眼前の現象の上位ってところだろう。
「動きを封じます」
突撃してくる地龍に対して、こちらは魔王が受けて立つ。
攻撃魔法は使用しないが、結界魔法は一級品。期待は大いに出来る。
「アーチプロテクション」
リズベッドが唱えれば、地龍の前に円形魔法陣が顕現し、枝分かれしている二本の角と派手にぶつかり合う。
「まだです」
リズベッドが手を動かせば、同様の円形魔法陣が地龍の四方と、蓋をするように上にも顕現。
完全に封じ込めた。
シャルナはリズベッドに感嘆。
アーチプロテクションは、プロテクション系の大魔法だそうだ。
それを
「負けてられないね。カスケード!」
シャルナがリズベッドの横に立ち、蓋の役割をするアーチプロテクションの辺りから滝を出現させる。
地龍が瀑布の衝撃に襲われる。
「グロロロロロ……」
「いいじゃねえか」
ダメージを受けているような鳴き声が上がる。
封じた状態による水魔法は効果的だ。
二人に触発されるコクリコが活躍したいようだが、障壁があるからな。
術者から直接はなたれる魔法は、障壁によって妨げられるからね。
このまま再度封じて、俺が残火で頭部のクリスタルを破壊すればミッションコンプリートだ。
「あの、これなら黒いクリスタルに封じられている時に、頭部のクリスタルを破壊すればよかったのでは? 瘴気が邪魔だったでしょうが、影響は受けないわけですから、そのくらいどうにかなったでしょう」
追撃の魔法が使用出来ないコクリコの、手持ち無沙汰からの発言は、真理だった。
俺の背後で、衝撃をイメージするような稲妻のエフェクトをいれてもいいくらいだ。
「それは駄目です」
即、否定するリズベッド。
なぜ? と、問うコクリコと一緒に、俺も耳をしっかりとリズベッドに向ける。
四方を取り囲むクリスタルを破壊することで、心底で抗っている地龍の抵抗力が増すのだそうだ。
それを怠って頭部のクリスタルを破壊すれば、外へと瘴気を放出するための役割を持つ外部クリスタルから逆流が生じ、破壊された頭部のクリスタル部分から、地龍の体内へ大量の瘴気が入り込むおそれがあるとの事。
そうなってしまえば、ショゴスのクリスタルから解放されても正気を取り戻すことはなく、暴龍として厄災を振りまくことになるらしい。
もしくは、そのまま死んでしまう可能性もあるそうだ。
「分かったよ」
結局は、近道は駄目って事か。
火龍の時はそれを知らないままに、外部のクリスタルが変形した黒い存在を倒してたけど、それが正解で良かったと、胸をなで下ろす。
「トール様、油断なさらぬよう。来ます」
俺の弛緩した体を引き締めるようなリズベッドの凛とした声音を受けて、眼前の変化に備える。
「ブロロロロロ!」
そう簡単に事は運ばせてくれないようだ。
アーチプロテクションを象る魔法陣が、地龍の体に吸収されていく。
「ガロロロロロロ」
天井に向かって咆哮すれば、地面から樹木が生えてきて、瀑布を受け止める。
地龍だもんな。自然系の魔法だって使えて当然か。
土や岩は水には弱いけど、瀑布に対する樹木の抵抗力から考えて、自然系は水には強いようだな。
神のような存在であるドラゴンを捕らえのは簡単ではない。
「ま、大地系魔法のプロテクションだと、長い間、拘束するのは無理だよね」
「すみません。本来なら封じていた時の魔法を使用したいのですが、発動までに時間を要しまして」
シャルナの発言に、リズベッドが申し訳なさそうに眉を八の字にする。
気にしないでいいよ! と焦るシャルナがなんか可愛かった。
プロテクションは大地系の魔法。
最上位のアーチプロテクションも無論、大地系。
大地を統べる地龍には、魔王が使用する大魔法であったとしても、足止め程度にしかならないようだ。
でもって――、
「ブレス!」
障壁が消えたと同時に、天井を向いていた頭を正面に戻し、馬のような首を弓なりに反らす。
火龍と同じ姿勢からすぐに何が来るかは理解できた。
大地系のブレスってなんだろうか?
土砂を吐瀉のように吐き出すのだろうか?
警戒すれば、吐き出されるのは周辺の瘴気と変わらないような紫色の煙。
「地龍だもんな」
大地系となると、毒も含まれたりする。
瘴気の影響を受けない俺たちであっても、吸い込んでしまえば昇天だろう。
濛々と迫る毒ブレスは、俺たちの視界から今まで見えていた風景を遮っていく。
それほどに広域のものだった。
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