PHASE-528【テラテラボディー】

「大丈夫か!? どうしたリズベッド」

 唇が瞬時にして真っ青になってしまい、美しかった雪肌の肌も、白蝋を思わせるほどに血色が悪くなってしまった。

 水色の髪は静電気でも当てたかのように逆立って乱れている。

 明らかに異常な状態。


「この口癖には驚きを隠せないか? 力なき故、簒奪されし者」


「……ち、違う……」

 と、口を開けば、リズベッドのしゃっちょこばった体が一気に弛緩する。

 弛緩しすぎて床にへたり込んでしまうほどに。


「なんだ? 誰だ! しっかりと俺達の前に姿を見せろ!」

 脱力な状態だけども、声だけはちゃんと出る俺。

 ――俺の発言に相手が乗ってくれたようで、コツコツとした足音を反響させて、要塞内へと入り込んでくる人影。


「にわかに信じられないが、地龍が救い出されている時点で、我が兄弟デスベアラーは死んだか」


「兄弟ってことは、お前もショゴスの子ってやつか?」


「聖祚の名を気安く口にする不敬の輩が、仇である勇者で間違いないな」


「また変なのが出てきた」

 全体が明らかになる。

 てっきりデスベアラーと同じゴーレムタイプかと思ったが、全くの別物。

 翼幻王ジズ配下のクロウスみたいに、三つ揃いのスーツを着こなしている。

 違いは派手な赤色ということ。クロウスの落ち着きある黒スーツとは正反対だ。

 

 顔部分には、目の部分にスリットが入っただけの、白色の面を着用。

 頭にはスーツと同色のシルクハット。

 派手な色だから、赤黒い色からなる敗者の鮮血 ビクターマークではないと見ていいだろう。

 赤色のスーツから露出している手は半透明の緑色。

 面で隠せていない頭部側面も同色。

 テラテラと光沢のある肌の色は、まるでゼリーのようだった。


「強いな」

 ポツリと地龍が発せば、戦闘態勢とばかりに、角の先端を赤スーツに向ける。

 デスベアラーを兄弟とか言っている時点で、強者であるのは確かだろう。

 実力は同等かそれ以上って考えて対応するべきだな。


「自分で言うのもなんだがそこそこ強い。が、非常に残念だが、俺と外で待機する者達だけで、地龍と簒奪されし者を再度、捕らえるというのは無理だ。デスベアラーのように力一辺倒でもないしな」


「あら?」

 戦いを仕掛けてくるかと思ったけども、鷹揚に肩を竦めるだけで、戦う気配を見せることはない。

 スーツ系は頭脳派なのかな?


「ではそこをどくべきだな」

 抜剣し、レイピアを構えるベル。


「これまた強そうだ。聖祚が捕食したいほどの存在だろう」


「食されるつもりはないな。その前に屠ってくれる」


「なんとも強気だ。直接戦闘が苦手でも、聖祚への侮辱と取れる発言をすれば、俺も黙ってはいられない」


「是非もなし。聖祚とやらの前に、貴様を倒させてもらう」


「黙ってはいられない――が、それは御免こうむる」


「逃げるか!」


「ああ、逃げる。地龍が救い出された時点で、ここの勢力では対処は出来ん。俺の仕事はお前達がどういう存在なのか、品定めに来ただけだ」

 一度のバックステップで、要塞から外へと一気に距離をとる赤スーツ。

 ベルが追撃に出たところで、要塞外の援軍である護衛軍が、赤スーツの前に立ちふさがる。


「お前達も撤退しろ。あいつらには勝てん」


「しかし! 我々の同胞がやられています」

 赤スーツに意見を述べるのはレッドキャップスのゴブリン。


「お前達が退かずに戦うというなら俺は止めないさ。しかし、無駄死にを聖祚は喜ばれないぞ。今後を考える者は撤退しろ。それでも残って戦いたいと言う者は、好きにするといい」


「感謝します。聖祚のため、我らが意地を敵へとぶつけてやります!」


「……ああ、ぶつけてやれ」

 勝手に盛り上がらないでもらいたいな。

 矜持を見せようとする部下と、無駄死にを止める指揮官みたいなやり取りは格好いいけど、こっちとしては戦うより、指揮官の言うように撤退を選択してもらいたい。

 

 こっちだって撤退したいし。

 

 俺は現状、地龍に乗っているだけだけど、メンバーだって流石に連戦は辛いはずだからな。

 さっさと遁、ずらかりたい。

 


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