PHASE-529【D!】

「では俺はこれで――」


「その前に名前でも名乗ったらどうだ」

 敵に簡単に述べるかは分からんが、強者なら名乗るだろうという考えで、挑発気味な口調で問うてみれば、


「ああ、そうだな。名はサブジェクト・フサルク・エオローという。聖祚によって創造されし、ヒューマノイドスライムだ」

 種族まで教えてくれるとは、俺が思っている以上の強者としての余裕が窺える。

 肌の色が透明な緑色なのはスライムだからってことね。

 ショゴスと同じ種族であるスライムか。創造主がそうだからな。捕食で強くなるってのは御免こうむるね。

 様々な作品を見てきた俺が提唱する、【スーツの存在は絶対に強い説】だが、今回ばかりは外れてほしい。

 俺が戦わないといけない当事者になるだろうからね!


「ではさらばだ。勇者トール。今ごろお前の名は聖祚にもしっかりと届いていることだろう。べらぼうに美人になったデミタスちゃんからの報を俺同様に受けているだろうからな。でもって俺もしっかりとお前達の事を伝えておいてやる。驚異対象として、第一に考える存在だとな」

 別れの挨拶に加えて、嫌な事を言ってくれるね……。

 そんなサブジェクトの背中から翼が生える。

 翼の色は肌と同じ色。つまりは体が変化しているって事だろう。

 スライムだから様々な形状になれるようだな。

 

 嫌な情報を教えてくれるついでに、あんた個人の情報も入念にいただいておこう。

 今の俺はプレイギアをポーチから取り出すだけでも必死だ。

 何とか取り出して、飛翔し去っていく後ろ姿をカメラモードで捉える。


【サブジェクト・フサルク・エオロー】

【種族・ヒューマノイドスライム・ショゴスの子】

【レベル84】

【得手・毒、体表変化】

【不得手・炎】

【属性・従属】

 

 レベルは84か。

 デスベアラーよりは低いけど、飄々としていて、退く時は退くってのが出来る相手は、やりにくい相手だ。

 こっちの実力もデミタスによって知らされているだろうし。


 デスベアラーは弱点である水がダイレクトにヒットしたから勝てた。

 俺が水の大魔法を使用する事を知らなかったからこそ、デスベアラーに直撃させることが可能だったと言っても過言じゃない。

 もし手の内を知られていた状態でデスベアラーと戦っていれば、用心して対応してきただろうから、一対一に持ち込まれた時点で勝つ事は出来なかっただろう。


 デスベアラーよりサブジェクトはレベルが低いが、俺が現状で勝てるレベルではない。

 サブジェクトと今後であう事があるなら、当然ながら俺は今以上に強くなっていないと駄目だ。

 今の体たらくな姿を克服しない限り、高レベルの相手と渡り合うことは出来ない。

 デミタスだって必ず俺の命を狙うために動き出すだろうし。

 ――……総毛立つね……。

 

 サブジェクトが去っていくその直ぐ下では、護衛軍の皆様が俺たちを要塞の外で待ち構えている。

 撤退しないで待ち構えているのが殆どだ。

 忠誠と仲間意識が強いのが護衛軍の素晴らしいところだな。

 俺たちには甚だ迷惑な結束力だけど。


「流石に疲れますね……」

 その小さい体にどれだけのスタミナがあるのかと、毎度おどろかせるコクリコだけども、今回は疲労の色が濃い。

 ハック&スラッシュだったからな。


「むこうはやる気でも、こっちは戦うつもりは毛頭ない」

 救い出した時点で、俺たちの目的は達成しているからな。

 ベルやゲッコーさんはともかくとして、他は流石にしんどい。


「トールの言うとおりだ。更なる戦果を欲せば身を滅ぼす」

 そう言ってベルが走り出す。

 ベルの行動を目にすれば、言ってる事と正反対のようにも見えるけど、俺たちの為なんだよね。

 まずは血路を切り開くといった行動だ。大軍相手に本当に単身で無茶をする。

 まあ、その無茶のおかげで、俺たちは撤退の準備を整えるための行動が出来るんだけども。

 ベルが接近し、次々と近場の敵を斬獲していく。

 その強さを目の当たりにしたら、要塞入り口を包囲している護衛軍も度肝を抜かれていた。


「本来は我が力が道を開く役目だったのだが、先を越されてしまったな。美姫を掩護せよ」

 地龍の言葉に従うように、八体のゴーレムも動き出す。

 普通のゴーレムと違って強く、動きも大型の割に敏捷。

 同サイズのオーガやトロール達を複数相手にしても、一体で対応できる。


「トール」


「了解」

 十重二十重な包囲から逃げるには、サブジェクトのように空を使わせてもらう。

 この状況下だ、空を飛んで逃げても攻撃を受けることだってありえる。

 攻撃と輸送が出来て、尚且つ頑丈となると、俺の中で真っ先に思い浮かぶのは――、


「こいつが最適解だろう」

 プレイギアをベルと暴れ回るゴーレム達が作り出してくれた広いスペースに向けて、


「ハインドD」


「ハインド――D!」

 ゲッコーさんが良い声に加えて、語末を力強く発して俺に続く。

 ――――言いたかっただけのようだった。


 主力戦車であるT-90Aに、戦闘ヘリであるMi-24。

 地龍戦から脱出まで、ypaaaaaaaa! な国のお力をお借りする。

 

 ミリタリー兵器関係だと、ゲッコーさんの登場するゲーム作品・ペネトレーションシリーズは宝庫だな。

 ゲーム内でプレイヤーがヘリの操縦をすることはないので、実際に操縦しないといけないから、俺では扱うことが出来ないけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る