PHASE-530【離陸】
「操縦する。掩護を頼む」
「いいだろう」
俺にイヤホンマイクを手渡して、ハインドへと駆けるゲッコーさんの掩護に地龍が動く。
「あれ、地龍はどうやって逃げるんだ?」
「無論、あの変な形の物を使うのだろう?」
「いやいや、無理無理」
「無理ではないだろう」
どうなんだろう。輸送は出来るけど、農耕馬サイズのを運べるのだろうか?
パワフルそうだし、無理ではないかもしれないけど。
ハインドの中に入るって事は間違いなく出来ないけど。
――――吊すか。
でも、どうやって吊すんだ? ワイヤーとかがあったとしても、この状況下で地龍を固定するなんて事が出来る技量のある存在はいないだろう。
ゲッコーさんは操縦桿を握っているし、ベルは足止めをしてくれているし。
「重量もだけど、どうやって吊そう」
考えが口から零れると、
「それは無用。我は自らの重さを自在に操れる」
「本当かよ」
「大地は重力にも精通する。重くもなれば軽くもなる。それに蔦も操れるからな」
「なるほど」
たしかに蔦や植物を利用して、俺たちに攻撃を仕掛けてきたからな。それを利用すればワイヤーは必要ないか。
にしても、戦闘時に重力系を使用してこなかったのは助かったな。
基本、重力系は、闇や光に並んで最高位の魔法に位置づけされるし。
『よし乗れ!』
耳に直接とどくゲッコーさんの声。
操縦席を見れば手招きしている。
ハインドの良いところは、攻撃だけでなく兵員も輸送できるってことなんだよな。
そこがデメリットでもあるらしいけど。器用貧乏な存在ってことなんだろうな。
開かれた胴体部のドアへと地龍が駆け、その後ろに皆が続く。
俺たちが攻撃を受けないように、暴れ回るゴーレム達が攻めから守りへと転じてくれている。
その間に重要人物が第一ということで、リズベッドがランシェルに横抱きされながらハインドへと乗り込み、地龍が蔦を利用して俺を乗せ、コクリコ、シャルナの順番で続く。
「ベル様は」
敵に囲まれるベルに心配の声を上げるリズベッドだが、そこは無用な心配だろう。
「飛ぶぞ」
「飛ぶの?」
テイクオフを伝えてくるゲッコーさんの声を代弁する俺に、シャルナが疑問符を浮かべる。
鉄の塊が地を駆けることはあっても、まさか飛べるとは思っていないご様子。
ローターがゆっくりと稼働し、次第に唸りを上げていく。
「何ですかこの五月蠅い音は!」
「騒いでないでしっかりと掴まってろ。にしてもコクリコ。ローター音に声が負けてないぞ」
真ん中に座る俺としては、両サイドに期待したい。
別にエロいことを期待しているわけじゃない。
揺れで体が倒れて、柔肌にダイブってのを考えているわけじゃない。
まともに体が動かない状態だから、しっかりと支えてほしいと、純粋に思っているだけ。
飛行中、もし開いたドアから転落でもした日には……。
『いけるぞ。ベルを』
「ベルを呼べ。ローター音に負けない声を今こそ発揮させるんだ」
ふわりと浮き上がる感覚がする。
コクリコが俺の代わりに大音声でベルへと乗るように伝えれば、護衛軍の魔法を華麗に回避し、接近戦を仕掛けてくる者達は全て浄化の炎で対処し、ハインドへと向かって駆けてくる。
いかせないとレッドキャップスが縮地で迫るも、無駄とばかりにこれまた浄化の炎で灰燼へと変える。
と、同時にゴーレム八体がベルのために壁となり、
「よし!」
ベルが滑空するような跳躍をし、そのままハインドへと乗り込む。
全員が搭乗したのを確認した地龍が棹立ちをし、両前足で地面を踏めば、地震が発生。
同時に範囲攻撃の岩石からなる槍衾も大地より生え、強い地震の揺れに動きを封じられた護衛軍の隊列に襲いかかる。
攻撃と障害物を兼用する槍衾によって、こちらへの進行を鈍らせている間にハインドが飛び立つ。
胴体部ドアには、地龍から伸びる蔦が絡まり、地龍を宙づりの状態のままにハインドは移動を開始。
現在の地龍は、チヌークなどの輸送ヘリで目にする、車両などを運ぶ方法である吊り下げ輸送のような状況なんだろうな。
飛び立つ下方では護衛軍が騒いでいる。
ローター音でかき消されているから、なんて言っているかは定かじゃないけど、なんであんな鉄の塊が空を飛んでいるんだ! と、驚いているんだろうな。
「まさか実用化されているとはな」
おっと、ベルも驚き。
ベルのゲーム内の歴史設定は、
あの当時はレシプロ機はあっても、まだヘリコプターはなかったよね? 実験はされてたみたいだけど。
滑走路も使用しないで垂直離陸が出来る事に驚いてくれる。
「追撃に注意しろ」
と、吊り下げ輸送されている地龍からの報告。
護衛軍には飛行能力を有した者達もいるからね。
続く報告で、追撃してくる存在は、レッサーデーモン四体とのことだった。
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